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11万人いる! ー セントメディウムの捕囚民   作者: キタボン


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1-04 急襲成功。そして敗北





 隊は夜陰にまぎれて、帝国の予想進路を目指した。


 およその位置に到着すると、100人分の距離をあけて、道沿いに穴を3列並べて、掘った。大楯をかぶせて中に潜む。こうして、帝国が通過まで待機するという作戦だ。


 念のため盾の上には砂をかけてる。風に舞った砂が夜のあいだにまぶされれば、人が潜んでるように見えないだろう。完璧なカモフラージュだ。部分的に穴をつないで、横に延ばす、外に出入りする通路も完備した。用を足したり斥候を交代する通路だ。


 ここに移動する途中、敗れて逃げた兵や奴隷と出会った。隊長が話をまとめで合併吸収。150人だった所帯が500人に膨らんだ。


 帝国軍の後詰はおそらく、隊を分けたままにしてる。一隊あたり5000人規模と、シロウは見積もった。戦力はこちらのざっと10倍。まともにやったら絶対負ける。そこで戦術が重要になる。


「いいっすか」


 その戦術をシロウが説明する。


「1枚の大楯を一人か二人でささえて守りに徹する。馬力のある大男がいいな。攻撃は別のヤツがするんだ」


 2人または3人が組になって、敵を一人づつ倒していく。弓隊の元からの運用を接近戦に転用したわけだ。狙うのは最後列。敵の部隊がすべて通過したところで、背後から襲いかかる。そういう算段だ。不安しかないけど、生き残るにはほかにないという。


「隊長は大柄だから、特別に盾2枚。もてるっすよね」

「おいおい」


 どっと笑いがおこる。


 最期の保存食をさっき食べた。水筒に貴重な水を満たした。神に祈る。最期の晩餐にしないで。それぞれが穴の中で眠ろうとしてる。朝日が顔を出すまであっという間。どこからか、いびきや寝息が聞こえてきた。あれは本物か。本当に眠れてるのだろうか。


 昼間に僕と組んでいた弓兵は、大人奴隷をペアにした。子供では不満らしい。ユディが新しいペアになった。ふたりで掘った穴の中に隠れた。


「王都は取り囲まれてる。あたしたちの、こんな攻撃に意味があるのか」


 2人きりだ。ボクからあたしに戻してる。着てるものは粗末なチュニック。僕も似たようなものだが、ユディは腰まである短いカフタンを着てる。暖などない砂漠の夜。肩をくっつける。カフタンの温かみをおすそ分けしてもらった。


「ないな。これは意地だよ。シロウのいうように王都の陥落が間に合えば、生き残れるが。|マバック<戦いの神>に運をまかせよう」

「運か。運ならまかせろ。子供のころからツイてる女だ」


 兄二人を戦場に失くし、歳をくった父親にかわって男装で戦場に立つ女の子。これをツイてる言い切るなら、多くの不運はかすむな。


 ガキのころからケンカで負け知らず。父親仕込みの体術は、持ち前の敏捷さで底上げされてる。強い。たしかに強い。けども11歳の女子なのだ。男としては、できるだけ守っていたい。


「あてにしてる」


 こういうふうに肩を寄せ合うのは、いつ以来だろう。



「誰かーーー。小司と組みたい人ー。いないかなー」

「恐れ多いので辞退します」


 小司ことイーツァ・ゼツァイムがペアを探すが、盾役みんながやんわり拒んだ。

 誰だってそりゃ組みたくない。王家の血をひいて、司祭で、戦闘力が不明。煙たいを通り越して、腫物か害厄だ。


 祭司にしては話がわかるヤツだが、戦い連れ出すには邪魔にしかならない。


「……孤独な小司は、こうして野垂れ死ぬのであった」


 ぽつんとたたずむ子供指揮官がつぶやいた。意外と図太い性格だな。そこに容赦ない隊長が言い放った。


「無謀な戦いに挑むのだ。足枷はいらぬ」

「がーん。これでもけっこうやれるんだぜ。袖下から小銭をとるのが得意だ」

「わかりました」

「わかってくれたか」

「物がなくなったときは、ひっ捕らえにいきます」

「そこじゃない……くすん」


 涙をふく真似で可愛そうを装ってる。隊長とのコンビは大道芸で稼げそうだ。意図してないだろうけど、決戦前の緊張をなごませくれた。そうはいっても不安要素の祭司とは、組みたくない。放り出すこともできない。よけいな種を預けてれた。


「おいシロウ。貴様の盾にかばってやれ」

「なんでオレが」

「相手がまだ決まってないからだ」


「なるほぞ!」

「それがいい!」

「最適のコンビだ!」

「決まったな」


 足枷認定された祭司の身柄は、満場一致でシロウに押し付けられた。奴隷に拒否はない。


「おい……まあ、いいけどよ」


 どれだけ頭が良くてもシロウは年寄り。|口だけ司令官<イーツァ>を守る大儀があれば、戦わずに隠れていられる。これは隊長の温情だ。


 すべてのペアが決まった。あとは明日のこと。思惑通りに帝国の部隊が行軍するかが勝負になる。澄んだ夜空。屋根で観るのと同じ星空だ。うとうとしながら、星座をたどってると流れ星をみつけた。


「ユディ流れ星だぞ。ユディ?」

「……」


 穏やかな寝息が返ってきた。






「総員起きろ。敵だ」


 低く鋭い声でハッとなった。僕も寝むっていたらしい。交代の不寝番が発した警告だ。警報は口伝てで全隊に伝達されていく。帝国軍は夜明けを待たずに進軍を開始した。


 砂と盾の隙間から外をのぞくと、想定したより側を進軍していた。


「近っ」

「しっ」


 思わず出そうになる声を、ユディの手が塞いだ。


 5000人。規律正しい4列縦隊。槍隊、盾持ち剣隊、弓隊。そして最後にラクダの荷車隊がいる。部隊はどこまでも続いており、最後のラクダは砂塵でかすんで確認できない。その荷車には武器や食料など補給を載せるが、遠征で大半が量が消費され、ほとんど空だと情報を斥候が寄せた。荷が空でも戦力は空じゃない。


 陥落が目前ということで足取りはゆるい。列の乱れはないが、槍や剣を肩に担いで、談笑しながら進軍だ。あちこちで下卑た笑いがみられた。


 隣の穴でこちらの兵が、唾をはく。いまにも突出しそうに歯がみする。


「くそが。女を奪う話してやがる。俺らの女房もいるんだぞ」

「しっ わかってる」


 進行は右から左へ。行く先はもちろん王都だ。槍隊が通りすぎたが、隊列ははじまったばかりといっていい。乾いた頬を汗が伝って落ちた。


「まだだ。まだ出るなよ。ラクダが過ぎてから。セントメディウムから世界へ。待つほどに生きのこれる」


 『セントメディウムから世界へ』。穴から穴へ。隊長の、つぶやきのような言葉が、通路を伝う。ようやく槍隊が終わっても、片手盾剣の列が続く。こっちは槍隊よりも長そうだ。ジリジリした緊張がいつまでも続く。


 帝国の戦術は、槍、剣、弓の順で横列の陣をつくって推しだす。敵に合わせて、大楯を構える。攻城兵器――梯子とやぐらのお化け――やどでかい石を遠くまで飛ばす投石機械もあるが、それらはたぶんいま、王都を囲んでる。


 騎馬の戦車がないのせめてもの幸運。ユディの運かもしれない。

 だが。


「い、いやだぁ。し、し、死にたくねぇーーーー!」


 唐突に誰かが、さけび声をあげながら、穴から逃げ出した。一枚岩を感じさせる『セントメディウムから世界へ』も、ここまでか。


「ちっ、これだから。逃げた奴を入れるのは反対だったんだ」


 どうやら合流した誰かだったらしい。こうなってしまうと、誰が逃げたかは問題じゃない。作戦は失敗。


「時間をかせぐ。ユディは逃げろ」


 大楯を被った砂ごと持ち上げ、穴はい出る。敵中へ突撃した。いつかは死ぬ。死に方に良い悪いがあるならば、女をまもって死ぬのは最上だ。ここが僕の死に場所のようだ。


「たああああ!」


 敵は逃げたはぐれ兵を追っていた。まさか、ほかにも、砂の中に隠れてたとは想像してなかったのだ。僕の登場に度肝を抜かれてる。乱れた隊列からヨコ突っ込み、3人を押し倒す、勢いを駆って列の真ん中に入る。


 盾を頭上に持ち上げ、コマように回転させる。盾角に首や顔が当たった敵兵が倒れていく。死んではいないが、周囲の数は減って動きやすくなった。盾を回してゆっくり歩くだけでどんどん敵が減っていった。


 だが、さすが帝国。倒れた兵を引きずりだし、新たな兵が立ち向かってくる。乱れた陣も直ちに整う。ぜんぜん影響ないのか。あれだけ奮闘したっていうのに、円陣に取り囲まれた。剣をこっち突き立られ、前にも後ろにも歩けなくなってしまった。


「でも。ユディは、逃げたよな」


 時間はかせいだ。僕は盾を地面に立てた。ユディはおそらく敵の隊列を抜けたのだ。もう安心。目的は果たした。笑って死ねる。


「あたしなら、ここにいるが?」


 ……は?


 空耳か。すぐ後ろにユディの返事があったような。


「ついてきた」


 空耳じゃない!

 なぜに。逃げたんじゃなかったのか。


「ついてきたぁ!? 行けっていったろ」

「逃げ出すよりも進むことを選ぶ。ここまできたら逃げるほうが危険だしな」

「おまえ……」


 体から力が抜けた。なんのために敵の中に突っ込んだんだよ。がんばりを無にしやがって。


「ははは。『逃げ出すより進むことを』。そんな古いフレーズよく知ってるな。あんた転生者か」

「よく言った小童。戦場は切り開くの華だ」

「隊長。それと……わけのわからないシロウ」

「わかれよ!」


 ユディは僕に背中を合わせ、盾と反対の敵と相対した。


「攻めは、あたしがやる。守りはまかせた」


 足を踏み出し、腕を伸ばし、切っ先で腹を突きさした。浅く挿した傷ですぐ死ぬことはないが、戦うこともできなくなった。兵が退いた。


「やるなユディ」

「父と兄に鍛えられたからな。次っ


 穴はすぐに埋まった。退いた兵に変わって別の兵。ユディはそれも突いて倒すが、すぐに補充だ。きりがない。


「いくぜぇ帝国兵!」


 大きな体躯の隊長が唸った。大剣を豪快にふりきって、敵兵数人をなぎたおす。こんな前線向きの戦力が、なんで弓隊の長なんかしてるんだ。背後を護る盾役は二人で負けず巨体だ。自在に操る特大の楯が、とても小さく見えるほど。


 シロウは、もうに力尽きたふうだった。穴から這いでて砂上を走っただけで、へとへとな年寄り。地面に立てた大盾にしがみついて、休憩してる。


「オレは非力。頭脳派はんだけどな。ふぅ」


 いったい何しにきたんだ。と思って見ると、「おいしょっ」と盾を持ち上げた。頭を隠して足元がガラ空きになる。当然、相対してる敵兵の足も無防備だ。その、下の隙からナイフを伸びる。さっと、素早い所作で敵足を切り裂かれる。屈強なる敵が呻きながら、沈んだ。


 手慣れたナイフさばきだ。見ればそれは”小司”ことイーツァ・ゼツァイム。そういやシロウと組まされたんだ。忘れていた。


「しけてるな。帝国も末端の兵は貧乏か」


 イーツァは手の上で、数枚の銅貨をもてあそぶ。


「敵の金をスッたのか。王家の祭司とあろうものが?」


 僕は驚く。すくなくとも表面上は清廉であるべき祭司が、スリの真似。たしかにスリが得意といってたが、戦場でできるものなのか。


「悪かったな手癖が悪くて。帝国や王国も税をとるぞ。どこがチガウ?」

「……同じだな」

「ちがうから」


 ユディは感心してるが、違うからな。


「おーい。こっちに背を合わせなよ。4枚盾になれば粘れ勝ちできる……かもです」


 シロウの提案に従い、隊長とシロウと僕。大楯が4枚合流して小さな四角形をつくった。左右と背中を気にしなくて良くなった。これは心強い。


「聞こえてる王国人。いるか? オレたちをまねろ! 生きる残るぞ!」

「おおーー」

「|マバック<戦いの神>のご加護を!」

「セントメディウムから世界へ!」


 乱戦のあちこちで雄たけびがあがり、小さな陣が形勢されていった。帝国兵は、すぐさま応じる。それぞれの盾陣は大勢に包囲され、たちまち、不利な様相になっていく。


 ユディは飛び出し小盾をかいくぐり腕を斬る。負傷した兵は退き、補充と入れ替わる。だが次の兵にも顔色をかえず突く。次の兵にも次の兵にも。たんたんと、終らない作業をくり返す。

 敵は一向に減るようすがない。さすが10倍は伊達じゃない。感心する数だ。時間がたつほど囲みは厚くなるいっぽう。疲れたのか、大盾が重さを増していく。手がしびれて、感覚がなくなってきた。さっきからのども乾いてる。


「飲め」


 ユディが、水筒の口をあけ飲ませてくれた。同じ水筒をユディも飲む。|温<ぬる>い水が、カラカラの喉に染みる。


「王都はなかなか陥落しないな。負けを望んで悪いが死にたくない」


 そう。もとから勝つつもりはない。我が王都は陥落するから、それまで生き残ろう。いたってネガティブな作戦だ。その王都がしぶとい抵抗をみせる。


「まったくです。正直侮ってました」

「シロウよ。軍司どのはどう考える」

「ほ? オレが軍司? 奴隷が出世したもんだ。考えならば、足の下が気になります」

「足の下?」

「オレたちは歩いてる。歩かされてる。踏ん張ってるようにみえて行軍と歩調を合わせてますぜ」


 サンダル履きの足に目を落とす。攻撃をよけたり推したりしながらも、同じ場所にはとどまってない。言うまでもなく、微速で王都へ向かってる。止まってない帝国軍の、進軍に合わせて流れてる。


「逆流ってのはどうですかね。最後尾まで行ってみるのは。何か変わると思いますぜ」


 ここらの部隊は盾持ち片手剣。その次はたしか弓隊で、さらに後ろは、荷物や武器を運ぶラクダの荷車集団。もともと作戦は、後ろから襲うというものだった。失敗したけど。


「バカかシロウ。いまさら後ろへ行ってもラクダくらいしかいないぞ。スパっと」


 イーツァはナイフの手を緩めずしゃべる。すこしでも盾が上がれば、果敢に手をだし、敵の足に斬り込んでる。足を引っ張る祭司? 立派な戦力だ。


「いやあ。戦果がすげぇのなんの」


 倒すたび戦利品が増える。持参した銭袋は銅貨ではちきれそうだ。あれは、逃げるときに足を引っ張られるな。と考え、逃げられると思った自分に驚いた。生きるつもりでいるのだ。


 男の急所を突いたユディが、短剣の赤い血をぬぐった。


「わかったシロウ。ラクダを暴走させるんだな」

「正解だ。坊主、軍司の才能があるかもな」

「ほめられた? 生き残ったら弟子にしてくれ」


 シロウは「いいぜ」と、にんまりした。

 少し思案した隊長は「面白い。どうぜ死ぬならやってみるか」と悪い顔で笑った。


「命令だ。王国兵ども! 河に流されるな! 上流へふんばれ!!」

「な。上流?」

「河もないのになにいってるんだ?」


 隊列に流されないよう、僕たちは踏ん張ってとどまる。敵は、倒しても倒さなくても、次へ次へ流れていく。『お前らなんかいつでも倒せる』と甘くみてる、それとも、行軍の掟を敗れないのか。刃は交わすが、あっさり流れて、通りすぎていく。僕らは隊列という水流に置いて行かれる河の中州だ。北上してると錯覚する。


「隊長が、あんなとこに」

「意味はわからんが。離れないようにしとこう」


 僕たちの位置に気づいた仲間たちは、ほとんど不思議がってる。意図に気づいた連中もいる。敵は行軍にそって流れていく。入り込んだ敵の弓隊では距離が近すぎて、積極的に射たれはしなかった。たまに、短剣で切り込んでくる敵は、隊長が斬った。


 組織的な攻撃は散発になり。囲まれることはあるが、跳ね返すと、流れてなくなり……しばらくすると、また囲まれる。

 どんどん来る後続兵たち。人波が一新されていって……敵対行為が、とだえた。


 兵列は、手を出してこなくなった。邪魔な集団だ、と、奇妙な目でこっちを睨みながら、進んでいった。ぽつりと、大河の中島のような存在になっていた。


「シンジラレナイーーー」


 武器兵がなくなる。ついに、ラクダの荷車へと到達した。


「――――――――やあっと、きたあ。辛かったなユディ」


 僕はボロボロになった大盾を抱きしめた。よくここまで耐えてくれた! 本当は、ユディを抱きしめたかった。そんな度胸はない。


「辛かった。敵の目が。何やってんだお前らって視線が辛かった」


 辛かったを連発するユディと僕に、隊長たちがうなづく。戦いは敵が熱いほうが楽だと知った。大盾の重さより白けた視線のほうが重いのだ。


 荷を運ぶラクダをぱんぱんたたいて、その横を歩く。御者がひく荷車に載ってるのは、補助兵と空箱と水瓶だ。糧食は少なそうだ。


 ユディが、片手をあげてあいさつした。


「やあ元気か」

「……まあまあだ」


 兵が不審な顔をする。わかるよ。攻撃しない。逃げもしない。そんなセントメディウム王国兵って奇異だよな。


 隊は最後尾。戦線が遠い。補給線を守るだけの気楽さで、守備兵たちは散らばって歩いていた。けどもさすがに、こっちに気づいて集まってきた。

 御者連中とちがって、抜けた目ではない。


「殺るか隊長」

「無視です無視。兵なんか後。片っ端からラクダを暴走させます」


 殺るか言ったのは祭司。聖職者のはしくれとして、いかがなものだろう。


「ムズクムいくぞ。このひと暴れは歴史に刻まれる」

「そうか?」


 ユディもやる気だ。ラクダを蹴って歴史が動くなら、砂漠を往来する商人は偉人だ。懐疑的な返事をしながら、側を歩くラクダの尻を叩いた。ラクダはびっくりして暴れだす。


「な、なんだお前ら」

「敵だよ敵」

「なんだと」


 慌てて剣をふりまわす守備隊。それをかわしながら、短剣の柄でど突いてラクダを暴走させる。生き残った仲間総員で、蹴ったり叩いたり、車の手綱をはずしたり。手あたり次第に馬も暴走させる。


 うぎぎぎーん!!!

 ひいひーん!!!


「よ、よさんかぁ!」

「らくだを、馬を止めろ!」


 怒って走るラクダと馬たち。


「面白くなってきやがった」

「神よ。哀れに死にやがる帝国兵にお慈悲を」


 御者が手綱をひいてもいうことをきかない。急に走り出した荷台から兵たちが転げ落ちる。盾の大男たちがラクダをけしかけ回る。あんないい顔もできるんだな。


 走り出した暴走は止まらない。大人しいラクダたちも、暴走に釣られて駆けだす。その暴走に拍車をかけるユディ。走りゆく車から車へ飛び跳ねて、御者と兵を落としてく。


 ラクダは多い。いったい何匹いるんだか。数か月かかる距離の兵站を支える帝国の底力を知る思いだ。指を折って数えたが60でやめた。


 狂暴化したラクダの集団はまるで騎馬隊。弓隊を蹴散らし、片手剣隊を蹴散らし、王都へむかってまっしぐらに駆けていく。それを必死で追いかける守備隊がカゲロウとなる。

 やがて、らくだも敵兵もまいあがった砂塵に隠れてみえなくなった。物資をぶちまけて横倒しになった荷車を点々と残して。


「あっはっは。痛快痛快。ここまでやれれば満足だ。いつ神の元に召されても悔いはない」


 隊長は、これほど痛快なことはないと言って、高笑い。砂上にどっしりあぐらをかいた。僕たちもみんな、適当に腰を下ろした。


「酒と女はいいんですか」

「おお。そっちの悔いを忘れてた。まだ召されるわけにいかんな」

「女体のことなら、ちゅっと詳しいですぜ」

「ほう、軍司どのはそっちもイケる口か」

「無駄に長く生きてるんで」


「オレっちも混ぜてくれ。こう見えてモテるんだ」

「いいじゃねぇ。|帝国<やつら>の落とし物で一杯じゃろうじゃねーか」


 シロウと隊長が始めた話は、女を泣かせた自慢大会の輪になった。食い物とシカルをみつけ、腹いっぱいになったみんなは、おおいに盛り上がった。いまだけは身分など無し。平民も、祭司も、奴隷も一緒くた。一矢報いた高揚感と、それを成した仲間だった。半数が死んだ。弔いを兼ねた大騒ぎは、神だってお許しになるだろう。


 大人の話についていけない僕とユディは、ぽつりと離れて、干し肉をかじっていた。壺でニンニク漬けで干した肉は、絶品だった。


 ユディがつぶやいた。


「823匹だったな。メスがそのうち311匹」


 なんのことかと聞くと、ラクダの数だという。


「バカめ。数えたふうなウソつくな平民」


 小バカにして、ツッコんだのはイーツァだ。身分は祭司でも僕たちと同じ子供。長いエロ話についていけなくなり逃げてきたようだ。


「小司にできないことをできるわけない」


 数えようとしてあきらめたんだな。でもユディは当たっていると思う。

 ウソをついたり間違った彼女を、僕はみたことない。



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