4-02 アイサッタの帰還
アイサッタは、王都の門をくぐりなり馬車を降りると、城壁の上へとゆっくりと登った。
「4年ぶりか。ようやく着いた」
遅れて昇ってきた従者たちが背後でかしずいた。
「はっ」
懐かしい帝都は以前より発達し、賑わいにあふれていた。隣に建つ塔は以前より高くなった。いつか天まで届かせるのが皇帝の意思。そのために職人を何百人も連れてきたのだ。
セントメディウムから連れてきた11万の捕囚民。列は長く、地平線まで続いていた。壁の周辺には、早くも、いく十もの集団があった。民や奴隷たちが、行先ごとに集められているのだ。
技能や町ごと、振り分ける人材は決まっている。兵は文官たちの指示をうけ、リーダーたちに命じたりしてる。
たまに、諍いや不平が発生するが、騒ぎというほどではない。旅の疲労で、大きな抵抗ができないのもあるが、旅を共にした兵らへの仲間意識がある。信頼して任せている様子がうかがえた。
捕囚した民をもちいて、不足する人材を埋める。兵士、職人、下働きの男や女、花を提供する美女。帝都の要望に応じて、振り分けられていく。
11万は多すぎるから、大半は外に住まわせる。自治権みとめてやれば、喜んで荒地を耕し、死なない程度に生きていくだろう。使える人間がでたら掬いとる。最小の兵で管理できる安い買いものだ。より大きくなる帝国の未来をアイサッタは思い描いた。
「さすがアイサッタ様。すくない兵というのに、見事な采配でしたね」
横に並んだ次席副官が、アイサッタをほめたたえた。
「自分はなにもしてない。過少なことが幸いしただけだ」
到着まで5か月以上の月日を要した。最後まで、面倒ごとだらけの旅だった。
兵と捕囚民の小競り合いが絶えなかった序盤。食料付属と、良くない水で下痢や病気にかかるものが増えた中盤。疲弊がたまり死にかけが多数、進み脚が遅くなった終盤。危険を予想し、事前に手を打っておいても、手から漏れることのほうが多いのだと、自分のふがいなさを呪った。
終盤にさしかかったころ発生した事件には、肝を潰した。
兵らが、花馬車を敵国に売り飛ばそうとした。亡国の王子が、金のない女に飢えた一般兵の不平を衝き、それがおこった。
ユディと腕のたつ祭司が乗り合わせたのは奇跡としかいいようがない。睡眠を邪魔したの早馬には腹がたったが、いち早く動いたバデレコたちが間に合い、最小の被害でとどめることができた。
捕らえた王子は、恨み言を吐き出させてから首を刎ねた。言うだけ言わせた。満足して逝ったなら化けてでることもない。裏切った兵ともども、名誉の戦死と記録した。手引きした女どもは、生まれた赤子に名を移して相殺した。親は嫌がったが似た名前が多い。気にならなくなる。
それともうひとり。英雄カルガナンの奴隷が死んだ。名簿にない。奴隷なら珍しくないが、生まれや生い立ちを知るものは、ひとりやふたりいるもの。奴についてはなにもなかった。
「いままでご苦労だったな。仕事は終わりだ。責任者に引き継いで、家に帰る」
「これだけの偉業を成し遂げたというのに、あっさり手放すんですか。ご自分の勢力をつくこともできるでしょうに」
「能力の高い者を集めて? 政治に興味はない。勢力など面倒をかかえるだけだ」
「欲がありませんね」
「英雄は楽しむもの。自分がなりたいとは思わん。いくぞ。妻たちがまってる」
やれやれと、肩をすくめる次席副官を置いて、階段を降りていく。
「セントメディウム妻も連れてましたね。もめごとになりませんか」
「それが一番の問題だ」
従者の軽口に、苦い笑いをもらした。しばらくして落ち着いたら、英雄を訪ねて回ろう。セントメディウムの昔話に花を咲かすのも悪くない。アイサッタの苦笑が楽しみに和らいだ。




