表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11万人いる! ー セントメディウムの捕囚民   作者: キタボン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/33

3-12 抗戦





「……剣の音がするわ。戦ってるんじゃない」


 シアミムが強くつぶやくと。「勝手にしゃべるな」と、御者リーダーが長い髪をつかみあげた。


「ぐっ。あんたたち帝国よきっと。殺しにきたのよ」


 苦しそうでいながら、シアミムの口元はほころんでる。


「俺にも聞こえたぜ。襲撃だ」

「そんなはずねぇ。こんな小僧ひとり探しにくるなんて」

「ああ。ありえない」


 イーツァもうなづいた。驚愕の度合いは、御者よりもずっと高い。


「なぜ、キミが驚いてるの」


 イーツァは身分を偽って、捕囚にまぎれてる。存在が知られば捕縛される。ましてや助けにくるなど、万に一つもない。捜索など、それこそ神に誓ってもありえない。


「くそがっ 逃げるぞ」


 御者リーダーは、あたるようにシアミムを放りだすと、女性たちをまたいだ。馬車をとびだそうと、縁に足をかけた。そのとき、イーツァは無意識に短剣を抜くと、内ももに切りつけた。


「な……」


 反抗など思いもしないひ弱な祭司の不意打ち。リーダーは縁に足をひっかけて転げ落ちた。すぐに立とうとするが、切りどころが悪く、足に力がはいらない。どす黒い血だまりが広がっていく。


「てめぇ!」


 2拍ほど遅れ、もう一人が、仲間がやられて事態に気づく。斬りかかろうと、剣を抜いた。カンっ、金属音がして動きが止まる。ぐらりと倒れた兵の後ろには、青銅の鍋を打ち下ろしたシアミムとべつの姉さんがいた。


「姉さんたち」

「ナネット。縛るもの。なんでもいい」

「あ、えーと、ハンモックが」


 男の剣を取りあげる。縛り上げるのに身ぐるみを剥ぐと、銭の袋がでてきた。


「ウソつきね。こんなに銀貨もってたのに」


 兵。いや、帝国を抜けた元帝国兵2人を行動不能してしまった。もはや後に退けない。イーツァは馬車を降りると、苦しんでるリーダーを見下ろす。


「さ、祭司が人を殺していいのか」

「あらゆる戦は神の御業と説いてる。祭司が示してイケないわけがない」


 戦でない場面で殺したのは初めて。いるかどうかわからない|ラシャイ<天の神>は、どうせ苦難しか与えない。やならなければ殺されるなら、苦難は先伸ばしがお得だ。


「そちらの神のもとへ去れ」

「……」


 止めをさした。さして感慨はわかない。


 先方に馬車が停まってる。さきほどの元兵が、誰かひとりと戦ってる。帝国兵は部隊で動く。急な追手を出つとしても、ひとりってことはない。暗くて、ほかの兵が見えないだけか、まったくちがう敵か。


「見てくる。味方かどうかわからないけど」

「気をつけてイーツァ」


 ナディアが身を案じてくれた。誰にともなく言ったのだが悪くないなとニヤつきながら、足音をたてず近づく。


 月は出てるが暗く見えにくい。誰と誰だ。盗賊に襲撃されてるのかも。少なくとも部隊同士ではない。一人が昏倒し、倒した側がちらりとみえた。それは女性で、知った顔だった。


「ユディがなんで」


 馬車を盾がわりに周回しながら敵を避け、車の下に身を隠すと逆から現われ、または、隠れたそのままの場所にでたりと、3人相手に足でかく乱しながら、単独で戦ってる。いつもコンビのムズクムは、見当たらない。離れたところの女性たちを月明りが照らす。おびえてうずくまってる。あれも娼婦か。


「やるなユディ。短髪女兵はだでじゃねぇか」

「オトム。速さでわたしが勝ってるぞ」


 あれがオトム。オトムと2人の元兵――ハゲとバンダナだ――を翻弄してるのだ。言うほどにはユディが有利にみえないが、数で勝ってるのに押しきれないため、オトムが焦ってみえた。


「みてぇだな。んじゃ、こうしたら」


 オトムが、剣の|握り<グリップ>で馬の尻をたたく。馬はたまらず|嘶く<いななく>うと、後ろ足で立ちあがる。砂を蹴りって走り出した。繋がった馬車を曳いて。護っていた遮蔽物が移動。隠れる物がなくなったユディは、たちまち囲まれた。


「盾がなくなったな」


 元兵たちは、有利を手に入れたじりじり囲みを詰めていく。馬は、乗っている誰かが止めた。


「さすがオトムだ。げへへ。ヤっちまっていいのか」

「仮にも英雄だ。下心かかえて勝てる相手じゃねぇ」


 イーツァは身を低くすると、後ろから近づいていく。夜陰は味方。ユディがいれば、楽勝だ。オトムにとびかかれ距離まで、あと一歩。


 そのとき、ユディと目が合ってしまった。表情の動かない奴なので、態度を変えなければいい。掌を下に向けて押さえる身振りをする。余計なことはするな。


「そ、そういえばオトムに質問があった」


 イーツァは頭を抱えたくなった。なにもしなくていいのに話しかけた。気をそらそうとしてくれるのだが、下手くそだ。敵が、気づかないようにと祈った。


「ふん。下手な時間かせぎか。命が惜しくなったか」

「そ。素朴な疑問だ。虜囚を殺せば兵士もれなく制裁される。オトムも例外じゃない」

「逃げる身だ。しったことじゃない」

「ほかの兵がひどい目にあわされる。故郷の仲間だろう。いいのか」

「故郷、ハハ……ハハハハ。故郷な」


 オトムがとつぜん笑いだす。腹をよじり、身体を二つ折りにして、止まらない。ツボにはまったらしい。ハゲとバンダナが、ギョッとして、狂喜な笑いを注視した。これは大きなスキだ。いける。イーツァは短剣を握りしめ、オトムの背にとびかかった。


「ハハ。滅びるといい。帝国もセントメディウムも」


 オトムは前ぶりなくふり向いた。イーツァのいる真後ろへ、剣を投げつけた。やはり気付かれたかと、小さくユディに悪態をつく。片足を上げてかわしたものの、転んでしまった。


「仲間か、てめっ さっきの小僧」

「女の園で鼻の下を伸ばすガキめ。許せん!」


 遅れて、元兵らが気づかれた。

 妙な怒りが湧いたらしい2人は、攻撃対象をイーツァへ切り替えた。やばっと、寸でのところで剣をかわし立つ。連続に繰り出される2つの剣を、必死で避け続けるが、リーチ、腕力、技術。兵に勝てる要素はひとつもない。まともに受けても力負けだ。


 あっけなく逃げきれなくなり、追い詰められたイーツァは、目つきだけ鋭く怒鳴った。


「ガキひとりに二人がかりか。一対一で勝負するのが大人だろ」


 空威張りというやつであるが、ハゲが剣を止めた。面白い生き物を見るようにイーツァを見下ろす。一片の隙も無く構えたうえで、仲間と話し合う。


「言うじゃねぇか。気勢がいいヤツは嫌いじゃねぇ。そうさな……どうだ。こいつをやったヤツが一番いい女を取るってのは」


 言われたバンダナが横目でオトムとユディの戦いを眺める。オトムが鞭を揮ってユディを追い詰めてる。明らかな優勢を認めると、数歩下がって砂に座る。肩に剣を抱いた。


「もう選び放題みてぇなもんだが。いいぜ。てめぇが負けるのを横からみてるわ」

「ほざけ」


 戦闘の再開。ハゲは嬉しそうに剣を握りなおす。


「死に際だ。見せ場くれぇつくってみせな……おっと。ぷっ」


 余裕の上段で斬りつけてくる男にイーツァは砂をあびせた。が、眼と口を閉じて剣を振り続け、砂をやり過ごす。「定石だぜつまんね」とバンダナが笑った。


「くそくそくそっ」


 イーツァ砂を何度も何度も、しつこく浴びせ続けた。男は、上下左右。攻撃が止めない。目は閉じているが、イーツァの声めがけて攻めるのだ。1対1で味方はバンダナだけ。障害物もなし。弱いガキの声を追えばよく、うっとうしいが、見えなくてもそのうち倒せる。


「どうだ! どうだ! どうだ!」

「がはは。やられてるじゃねーか。だがそろそろ目を開けとけ」


 バンダナの囃したてに、首をふって拒否。下手から振り上げた、そのとき。ハゲの右横腹に衝撃が走った。砂の目をこするが、ざんざんまぶされた目元の砂はぶ厚く、なかなか目が開かない。今度は逆、左横腹に別の痛みがはしる。ハゲの手から剣がおちた。


「……だから言ったのによ」


 バンダナが立ちあがり、ハゲに代わって襲いかかる。イーツァは、刺した男から離れながら、またしても、砂をかけた。バンダナは、ステップして砂を避ける。


「砂をかけながら声をだしたのは、沈黙をつくるためか」

「信じがたいほど、はまってくれたよ」

「感心したぜ。俺にゃ通じねぇがどっかで使わせてもらうわ」

「そうかい。手はほかにもあるぞ」


 イーツァは、短剣を投げつけた。バンダナが剣で弾いた。そのスキに、イーツァは、死にかけてる男の剣を拾った。ロングソードだ。短剣の3倍は重い。


「それが次の手か。はんっ。重さ負けしてるじゃねぇか」

「おおおおーー!」

「来い!」


 切っ先を向け、叫びながら突撃する――ようにみせて後ろへ下がっていく。


「なんだ。威勢がいいのは声だけか」


 バンダナは姿勢を受けから攻めに変えて、追いかけた。1歩、2歩、3歩目。足が何かにからめとられるのを違和感があった。「なに?」と、うめく間に、足が絡んで転倒。


「あ、網か」

「ハンモックだ。何か所かに埋めておいた。うまくはまってくれて小司感激だ」


 イーツァは、重い切っ先を砂に引きづりながら、バンダナの元へ引き換えす。立とうとするバンダナだが、足の指にまで絡んで外れない。


「このっ、くそっ」


 剣で切ろうとするが、重みで叩ききる武器の刃先は鋭くない。1本だけ切断したところで、目の前にイーツァがいた。


「さらばだ。キミの神に祈るといい」

「ま、まて」


 イーツァは、迷いなく剣を振り下ろした。腕と剣で防がれるので、2度、3度、4度……頭、首、胸、背中と、振り下ろしていく。12度目、やっと動かなくなった。


「つかれた……」


 ユディはどうなったろうか。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ