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犬上家と愉快なおともたち

ご主人はお料理上手です

作者: 黛ちまた

『世の中には見えなくていいものって、あるよね』の続編です。

相変わらずなんちゃってホラーですみません。

 わぁ……どうしよ。


 水面に映る自分を見て絶句してしまった。いつの間にか人を辞めてたみたい。どう見てもオコジョだ。可愛い生き物で良かったけど、野生でどうやって生きていけばいいのかな……。やっぱり肉食……?

 

「あれ?」

「どした?」

 

 声のする方を見ると、男子二人とでっかい狼がこっちに向かって歩いてくる。

 

「オコジョ? それともイイズナ? フェレット?」

飯綱いづなだ』

 

 いづな?

 

 っていうか狼がしゃべったー!? いや、自分が人じゃないから話してる内容が分かるとか??

 

「いづな?」

管狐くだぎつねともいう。人に取り憑く』

 

 あ、管狐は聞いたことある。っていうかオコジョじゃなかったのか。言われて自分の身体を見る。確かに細長い。

 

「取り憑く?!」

『嘘を吐かせたり裸足で歩かせる』

「え、平和」

「確かにねー」


 タンスの角に小指ぶつけるみたいな呪いだ。いやそれ以下かも? 使い途が分からない。

 

 片方の男子が私の前に屈んで手を出してきた。少年よ、よく分からない生き物に手を出してはいかんと思うぞ。

 

「ハクジ、この子って飼えるの?」

『飯綱使いなぞになっても彼奴等とは戦えんぞ』

「わかった。それにしても可愛いなー」

『筒状の物を好み、住まう』

 

 男子の後方からなにやら黒い塊が、狼の隣に立つ男子に向かって突っ込んで来た。なにあれ怖っ!!

 

『鬱陶しい』

 

 狼の爪にやられて黒い塊は消えた。背後にいたのに気付いたの凄いな!?

 

「管狐ってアイツらに見つかったらどうなんの?」

『下手をすれば取り込まれるな』

 

 取り込まれると聞いた瞬間、目の前に差し出された手に乗っかってしまった。

 

「オコジョそっくりで可愛いね」

『その様子なら名付ければおぬしを主人とするのではないか?』

「管狐のエサってなに?」

『食する必要はないが、食べられんこともない』

「ハクジと同じかぁ」

 

 私を手に乗せたまま男子は立ち上がり、「オレの名前は昴だよ」と名乗る。

 

『ご主人、すばる』

 

 カタコトにしか話せない。

 

「そうだよー」

 

 もう一人の男子は羨ましそうに私を見てる。

 

「いいなぁ……」

「悠里にはハクジがいるでしょ」

「そうなんだけどさ」

 

 悠里と呼ばれた子は小動物好き男子とみた。

 とりあえずご主人の制服の胸ポケットに入る。

 

 管狐の姿は霊感のある人しか見えないらしい。ハクジと呼ばれた狼は犬神で、悠里を守っているんだそうだ。

 ご主人の家に向かう途中、所謂悪霊とか地縛霊という奴に何度も遭遇した。その度に悠里は怯えてた。全部自分に向かって突撃してくるんだから、無理もないと思う。犬神が強くて良かったね。




 ご主人の家は誰もいなかった。

 

「うち両親は共働きだからね、兄キは家を出てるし」

 

 家の中にもアレがいる。

 帰り道、見えないフリをするとそのうち何処かに行くから、気にしないようにと言われた。できるかな……。

 もし私が見えないフリができなかったら、ご主人が襲われてしまうのでは!?

 

「そういえば名前つけてなかった」

 

 ご主人は腕を組んで考えている。変な名前は嫌だなぁ、なんて思っていたら、ご主人の表情がパッと明るくなった。

 

「レラ、はどう?」

『れら?』

「そう、レラ」


 良かった、変な名前じゃない!

 

『れら』

「そうだよー」

 

 ご主人は私の頭を沢山撫でた後、右手を差し出してきた。乗れってこと?

 乗ると、左肩に手を近付けた。なるほど、肩に乗れということか。かの有名なアニメで小動物が主人公の肩に乗っていたのを思い出した。

 乗ったものの、ご主人の襟元が気になって仕方なかった。襟とご主人の首の間に潜り込んだらしっくりきた。

 

「あー、そこでも良いんだ?」

 

 笑いながらご主人は私の頭を撫でた。

 

「さてと、今日の夕飯は何にしようかな」

『ゆぅはん』

「そう、前は弁当を買ったりして食べてたんだけど、飽きちゃったから、自分で作ってるんだよ。レラにも作るから」

『ごはん』

 

 犬神のハクジさまは私に食事は必要ないと言ったけど。なんとなく食べたい。かつて人だった身としては食べる必要がないと言われても、食べたくなる。


 アレがのそりと身体を起こした。ご主人は見えないフリをしてる。見ちゃいけないんだけど、怖いもの見たさというか、見ちゃった。目が合っちゃった。

 なにかブツブツ言いながらこっちに向かってくる。どうしようどうしよう! ハクジさまが飯綱は弱いって言ってたのに!

 ぬらりと伸ばされてきた手に反射的に噛み付いてしまった。きしゃーっと威嚇したところ、逃げていった。

 

「おーっ、頑張ったね」

 

 パチパチとご主人が拍手する。

 

『がんばった。ご主人、まもる』

 

 ハクジさまに、なんとか強くなる方法を聞かなくちゃ。

 

『ぞーとーひん』

「贈答品?」


 ご主人の返しに頷く。

 

『強くなりたい。ハクジさま、教えてもらう』

「なるほど」

 

 犬神が喜ぶものってなんだろうね、という話をしながらスーパーに行く。

 私の姿は霊感のある人しか見えないから、店員さんに立ち入りを止められることもないのでありがたい。見えていたらスーパーの入り口で首輪つけてお座りして待つしかない。

 

「レラ、食べてみたいものある?」


 前世人間だったことって話したほうがいいのかな。後からバレるよりもいいのかな?

 

『レラ、前、人だった』

「えっ! そうなの?」

 

 ご主人が驚いてる。それはそうだよね。

 

『でも、死んだの覚えてない。起きたらあそこにいた』

「そんなことがあるのかー、世の中不思議なことばっかりだなぁ」

 

 そう言いながら驚いたのは一瞬で、全部受け入れてる様子のご主人もどうかと思うけど、毎日あんなの見てたらそうなるのかな。

 

『あ』

「食べたいのあった?」

『カニカマ』

 

 前世では特に好きじゃなかったのに、なんだか今はカニカマが食べたい。

 

「よし、じゃあ今日はカニカマのせ天津飯にしようかな」

 

 天津飯。ご主人はお料理上手と見た。

(天津飯とっても美味しかった!)







 翌日、学校に向かう道すがら、ハクジさまに質問する。

 

『ハクジさま、強くなりたい、です』


 自分の身を守るというのもあるけど、ご主人を守りたい。成り行きとはいえ、私を助けてくれたし、ごはんくれたし美味しいし(朝も目玉焼き美味しかった)、ご恩返しするのですよ。

 ここには最強の存在もいるわけだから。いや、生まれながらにして最強の可能性もあるなぁ。

 

『飯綱の分際で生意気だが、その心意気や良し』

 

 落とされて上げられた。

 でもそれぐらい飯綱って弱いんだなぁ。

 

『矮小なものから屠っていくがよかろう』

 

 経験値とかあるのかな。

 

『飯綱であることは変えられんだろうが、悪質なものを排除し続ければ霊格は上がる。さすれば自ずと強くなろう』

 

 なるほど!

 やっぱり最初はスライムからなんだ!

 

 頑張る要素が分かって喜んでる私を悠里くんが撫でて、デレデレしてる。

 

「可愛いなぁ、飯綱ちゃん」

「あ、レラって名前にしたんだ。よろしく」

「なしてレラ?」

「なんとなく?」

 

 戦う→(霊格)レベルアップ→強くなる

 というのは分かったけど、一つ疑問。

 

『ハクジさま、全部自力必要ですか?』

 

 上手いこと舌が回らない。そんな状態で話そうとすると、なんかちょっと変な話し方になっちゃうけど、そこはご愛嬌です。

 でもハクジさまは私の言わんとすることを分かってくれたみたいで。さすができる犬神は違う。

 

『倒さねば霊格は上がらんだろうが、慣れは必要だ。精進せよ』

『はい』

 

 やっぱり倒さないといけないらしい。

 

「ハクジ、助けてあげて。昴がいくら慣れててもやっぱり心配だし」


 悠里くんの言葉にハクジさまは頷いた。嫌がられるかと思っていたから、ちょっと驚き。

 

『我が戦闘中に割り込む慮外者が現れても困るしな』

 

 ハクジさまが悠里くんに気が届かないほどの戦闘に割り込んでくる奴をなんとかできるようにって、かなりハードル高い気が、する。

 

『程良いのが来る。まずアレを屠って見せよ』

 

 そう言ってハクジ様に放り投げられた。

 

「わーっ! レラちゃん!」

「レラーっ!」

『わーっ!?』

 

 放り投げられた先にいたのは、ちっこいオジ。

 前世でも霊感ある子たちがよく言ってた。なんかちっさいオジが見えるんだよね、と。まさに、これ。本当に存在していたとは。

 

 戦闘なんかしたことなかったけど、ご主人と暮らすためにも頑張るぞ!

 そもそもご主人に拾われなかったらどうやって生きていけば分からなかったし!

 

 

 

 よし、勝った!

 ハクジさまには時間がかかりすぎだと言われてしまったけど。悠里くんは我がことのように拍手して喜んでくれた。

 ご主人は私が怪我をしていないかが気になったみたい。

 

『昴の霊力により回復するから問題ない』

 

 ほほー、ご主人の霊力で……。

 悠里くんを見る。実はすっごい少年なんだな。見るからに最強感溢れるハクジさまの霊力の元ってことでしょ?







 授業中もちっこいオジ達と格闘し、ご主人にちょっかい出そうとする輩に威嚇し、としていたらあっという間にお昼になった。意外なことに、戦うことにそれほど忌避感がないのは、人じゃないからかもしれない。

 悠里くんもハクジさまにごはんをあげたいタイプらしくって、人のいない屋上でランチ。

 

「なんかすっごい腹が減ってるんだよね」

『それはそうだろう。飯綱がそなたの霊力を消費しているからな』

 

 あれ? それって良いのかな?

 

「なるほどね、そういうことか。レラ頑張ってたもんなぁ」

 

 そう言ってご主人がタコさんウィンナーを一つくれた。

 タコさんウィンナーってなんかお弁当感あって好き。味は変わらないのにね。

 

「ねぇ、オレは全然腹減らないのはなんで?」

 

 ハクジさまが呆れた顔をして主人の悠里くんを見る。

 

『我にとっては雑魚だからだ』


 おぉーっ! かっこいいー!

 さすがの最強感。

 

 タコさんウィンナーの次は甘い卵焼きをひと切れもらった。美味しい。

 

「はぁ……レラちゃん可愛い……」

 

 ため息吐いて言うことがそれなのは、どうかと思うよ、悠里くん。

 

 突然飯綱に生まれ変わってどうしようかと思ったけど、優しい飼い主の元で目標もできたし、飯綱ライフを楽しむぞー!

 

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― 新着の感想 ―
 小さいオッサンはスライムくらいの強さなんですね。ただでさえ続編は嬉しいのに、犬上家周辺に可愛い仲間が増えるなんて、嬉しさ倍増です。レラちゃん、意味は忘れてしまいましたが、確かアイヌ語の名前ですよね。…
尻尾が9本ある管狐になるまでがんばってください。
続編ありがとうございます!!!! レラちゃん、かなり近代の人間ですねえ。スライムが雑魚とわかるレベル。竜を探究するゲームは知っていると見た。 昴くんはこれで少しでも自衛できるようになってよし、悠里く…
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