勝てない
「そっちこそどこから湧いて出やがったんですかね・・・」
「俺は天井の死角に張り付いてたのさぁ。そっちも気配を消すのはうまいようだが、それで姿まで消えるワケじゃないからな、丸見えだったぜぇ。貴族を狙うアサシンにしちゃあ作戦がなってねえ。初心者かい?」
知るかよボケ。こちとら現代日本のイチ市民だっつーの。
「まぁそんなところですね。オレはこの先にいる貴族の娘に用事が――」
オレが言い終わらない内に、死神野郎の姿が突如、目の前に現れた。閃光のような何かが、オレの首元へと放たれる。その閃光を、かろうじて刀の根本で受け止めた。まるで大砲でも受け止めたのかと思うような衝撃。しかも、そのままギリギリと体重を乗せて圧力をかけてくる。身動きが取れない。
「がっ・・・くっ、くそっ・・・!」
「おお、またしてもか。今、完全に呼吸を外したのに、よく防いだなぁお前。戦術にはあっさり引っかかる癖に反応速度がズバ抜けてやがる」
「そ、そりゃどーも・・・っ!?」
手元に掛かった圧力がふっと抜けた瞬間、死神野郎は後ろに下がりながら横薙ぎに刀を振るってくる。オレは刀で防ごうとし、戦慄する。刀を持つ腕がさっきの一撃の衝撃で、ビリビリと痺れて動かせない!オレは首を傾け、必死に身を沈める。紙一重で頭をかすめる刃――躱した勢いで体勢を崩すが、そのまま横に跳んで死神野郎との間合いを広げ、地面に手をつきすぐに跳ね起き対峙する。
それを見た死神野郎は余裕の表情でヒュウと口笛を鳴らした。
対照的に、オレは――いつのまにか、ぜぇぜぇと口で息をしていた。
極度の緊張状態のせいか額からは脂汗がにじんでいる。
……これは、ヤバい。
正直、勝てる気がしない。
そこで、オレはふと、脳裏に浮かんだ自分の考えに違和感を感じた。
――いや、ちょっと待てよ。
勝てる気がしない?
……勝てなきゃ、どうなるんだっけ?
そこまで思い至り、オレの背中はゾワリと総毛立つ。
――死。
負ければ、当然、死ぬ。




