地獄の底から響くような声
これで良し。このくらいならきっと、皆さんも許してくれることであろう。
ところが、動きを止めたアウトロー達はポカンとした表情をこちらに向けた。店の客達も何やら目が点になっている。
「ええいワケの分からぬことを!皆、惑わされるな!虚言にてスキを作る作戦だ!油断せず散開して同時にかかれ!」
「・・・応ッ!!」
ポカンとした顔を引き締めた表情に変え、再びアウトロー取り巻きがこちらを囲い込もうと散開する。
オウッじゃねぇよダメだコイツラ。まったく話が通じねぇ!!
ちくしょう、無理なのか。もうダメなのか。
こんなささやかな願いですら・・・
そう。夢の中ですら・・・オレの願いは何も叶わないのか。
俺の絶望の表情を見て取ったのか、固唾を飲んで見守っていた店の客達が辛そうに顔を伏せ、こちらから目をそらす。
そして、正面を見るとアウトローリーダーと目が合う。その口がニヤリと笑った。
次の瞬間、散開した取り巻きとアウトローリーダーが一斉に殺到していた。
俺は素早く刀を抜き、アウトロー達の動きに集中する。
集中するにつれ、彼らの動きが段々とゆっくりになっていった。
こちらへ到達する頃にはまるで、スローモーションのように。
殺到する剣閃を最低限の動きで避けつつ、最短距離で全員にこちらの剣閃をお見舞いする。
剣を切り結んだ直後にアウトロー達の包囲を抜け、彼らと背中合わせになる形となった。
俺が鞘に刀をチンと収めると、その音が合図だったかのようにアウトロー達が崩れ落ちる。うーん、さすが夢!
そのまましばらくの間、シンと静まり返る店内。
「・・・す、凄え」
一人の客が出した声を皮切りに、店内がどよめきだす。
皆、興奮した表情で何やら言葉をゴニョゴニョと交わしている。
特に興奮した様子の数人の酔っ払った客がこちらにやってきて、オイオイやったなとか言いながらバシバシ叩いてくるが、叩かれるたびに足がもつれて頭がグワングワンする。
酔いが回って立っているのも難しい。
と、客の一角が割れて人が一人こっちに歩いて来た。
長い金髪を後ろに結んだポニーテール、ソアラちゃんだ。
やっぱり可愛いなぁソアラちゃん。
「グスッ、あ、ありがとうございます。わ、私、こわ、怖かったです。なん、なんとお礼を言ったらいいか・・・」
泣き顔も眩しいなソアラちゃん。
八重歯がチャーミング・・・ん?待てよ。
今なんと?お礼ですと?
ならちょっとくらいセクハラしても怒られないか?夢だし!
ふらつきながら歩み寄り、じっとソアラちゃんを見つめる。
「では、お礼をいただきます!」
言いながら、ソアラちゃんのおっぱいとおしりに手を伸ばす。だが・・・
触れる寸前で、空中停止。指先ぷるぷる。心臓がバクバクと高鳴る。
くっ、我が身のこの反応。まさか・・・まさか・・・ひょっとして・・・
俺は童貞なのか!?
ソアラちゃんはこちらの手と顔を交互に見て、
「あ、あの・・・・?」
「・・・やっぱ無理ッ!!」
代わりにギュッと抱きしめる。
あぁ、気持ちいいいなぁ、癒されるなぁ。
これぐらいならきっと、ソアラちゃんも許してくれるだろう。
・・・許してくれるよね?
「・・・何してやがるんだてめぇ」
地獄の底から響くような声が聞こえた。