あれは、なんだ
俺は私兵の一人と共に、地下牢へと続く廊下を歩いていた。
見張りと一緒にいたことで、どうやら俺はシャーロットを拷問するために呼ばれた"拷問官"と勘違いされたらしい。見張りは、俺が侵入者だとバレる前にとっととこの街から逃げ出すだろう。あいつは屋敷の見取り図、見張りの配置、貴族の部屋の位置まで、すべての情報を俺に渡してしまっている。たとえ俺に脅されてやったのだとしても、タダでは済まないはずだ。
「あの・・・拷問官どの?今回は地下牢で、しかも拷問官様お一人で仕事をなさるので?いつもは拷問はお嬢様とご一緒に――」
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!ご゛う゛も゛ん゛し゛た゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!!」
「ひっ!?」
ヤバい。質問されればボロが出る。会話が成立するとバレてはまずい。ここは徹底して狂人を演じるしかない。俺はスキップをしながら私兵の周りをグルグルと回る。
「拷問!拷問!楽しい拷問♪お前も拷問!焼けた鉄をおしりにドリル!おしりにおしりにドリルドリル回転注入ぐるんぐるん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛」
俺は白目を剥きながら、鉄の棒を意味不明な方向へ突き刺すような謎ジェスチャーを繰り返す。
「おっ、お待ちください!拷問相手は私ではございません!相手は地下牢にいますから!さあ早くどうぞこちらへっ!!」
その後、牢にたどり着くまで、彼は俺に一言も話しかけては来なかった。
◇◆◇
「あちらです・・・」
地下牢にたどり着き、私兵がおずおずと指を差す。
指し示された先に、女が一人、膝を崩して座っていた。
うつむいたまま、まるで壊れた人形のように動かない。
薄暗い牢の奥、鉄格子の向こう側で、ぼんやりとその輪郭だけが浮かんでいる。
口は半開きで、目はうつろ。
息をしているのかさえ分からない。
顔の下半分しか見えないのに、それだけで、何かが決定的に“違う”と分かった。
――あれが、シャーロット?
まさか、と思う。
けれど、その髪の色、輪郭、服・・・間違いなく、彼女のはずだった。
なのに、俺の知っているシャーロットの気配が、そこにはまるで感じられなかった。
まるで、魂だけが抜け落ちて、空っぽになった抜け殻のようで――
そんな思いがよぎる中、俺は静かに鉄格子へと近づいていった。
――ちょっと待て。
俺は、思わず立ち尽くす。
――なんなんだ、あれは?
――シャーロットの後ろに転がっているものは、いったい、なんだ?




