ヒロインがニャンニャンされるのを柱の陰から見守る係
店の客も何事かと静まり返り、アウトロー集団に注目する。
そして例のメイドオッパイも不安そうにしている。
かわいそうに・・・おしりがプリプリしてる。
男達の先頭にいるリーダーと思わしき人物が髭オヤジに口を開いた。
「蛇凶の者だ。約束通り店を明け渡してもらいにきたぞ」
これを聞いて、髭オヤジは驚いたように言う。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。約束は今日の営業時間いっぱいのはずだろう。それまではまだ時間がある。店じまいしたらすぐに娘のソアラとここを出て行くさ。それまで待ってくれないか」
するとアウトローリーダーは小馬鹿にしたように言った。
「娘のソアラを連れて行ってもらっちゃ困るんだよ。言っただろう、借金の利息分をチャラにする代わりに、お前以外の店の物、全てを明け渡せとな。当然ソアラも貰っていく」
「なっ・・・そんな馬鹿な!」「えっ?えっ?」
髭オヤジが絶句する。続いてソアラちゃんも見る見る顔面蒼白になっていく。
・・・何ということだ。
とんでもないことになった。俺は泥酔して淀んだ頭をシャッキリさせる為、さらに酒を何杯も何杯も一気飲みした。ほどなくして周りの景色がぐるぐる回り始めたがきっと頭の回転が速くなったせいだろう。オレは現在の状況を冷静に分析する。
このままでは、ソアラちゃんは連れ去られ、どこかの薄暗い部屋に監禁され、謎の訓練メニューをこなされ、最後には「研修合格おめでとう!」と称され、人知れず“プロ”になってしまう可能性がある!
……それだけは絶対に、断固として、見届けなければならないッ!!
このままじゃソアラちゃんが何かしら業の深い人生に突入してしまう。
それならむしろ……最初の研修担当は俺にやらせてくれ!
くっ、酔いで頭がまわらん!もっと酒だッ!!
俺はガバガバとグラスを煽りながら、全身を震わせて決意を固めた。
――うん、そうと決まれば即実行だ!
考えがまとまって彼らを見やると、緊張した面持ちで何とかアウトロー達と交渉しようとする髭オヤジ。蒼白な顔でそれを見守るソアラちゃん。
にやつきながら取り付く島も無いアウトローリーダー。
・・・髭オヤジは頑張って説得しようとはしているが、どうやら交渉は難航している。アウトローリーダーが剣を抜き、髭オヤジが押し黙ったところで俺は立ち上がった。
足元をふら付かせながらも髭オヤジとアウトロー集団の間に割り込む。
全てはそう、オレの大きな野望のために。
「え、ア、アンタ?」「お、お客様っ?」「なんだあいつ、殺されるぞ・・・!」
後ろで髭オヤジとソアラちゃんから、驚愕したような声色が上がった。
周りの客も信じられないと言ったような面持ちでざわめき、こちらに注目している。
すると目の前のアウトローリーダーが口を開く。
「ほほぉおう?いったい、何のつもりかな?」
そう言って獰猛な笑みを浮かべる。
うーん、どんなふうに彼らと交渉したものか?
・・・僕と仲良くしてください。そしてソアラちゃんの訓練は私に任せてください。
いや、ちょっと無理があるか。初対面なのに図々しすぎる。非常識だと思われそうだ。
酔っ払った頭でうんうんと唸っていると、
俺が押し黙ったのを見てアウトローリーダーは続ける。
「この店の常連か?ただの馬鹿か、それともその娘に惚れでもしているのかな?」
うん?常連ではないな。この店は初見だ。
しかしこちらの言い分を色々と正当化するためには、なるほど惚れていることにしたほうが良いかも知れない。
それ採用!俺はこの店の常連でソアラに惚れている。
しかし、作戦が決まったそばから髭オヤジが否定する。
「そのフラフラの酔っ払いは、今日が初見だよ・・・。アンタ、ありがとうよ、庇ってくれて。でもどう考えてもこの人数相手じゃ無理だ。なぁ蛇凶のリーダーさん。こいつは正義感の強いただの酔っ払いだ。殺してもしょうがないぞ」
おのれぇ髭オヤジ。俺の完璧な作戦がパーだ。
初見客では、ソアラに惚れているというのは無理がある。
しかし、では一体どうしたものか・・・
アウトローの彼らと仲良くなり、ソアラの教育係をさせてもらうためには。
俺は仲良くなりたい気持ちを伝えるため、リーダーの目を、曇りなき真摯な眼で見つめ続ける。
まさにチワワの如きこの瞳。これで少しは想いが伝わるはずだ。しかしどう説得すれば分かってもらえるだろうか。
しばらく頭を悩ませていると、こちらを見ていたアウトローリーダーが吐き捨てるように口を開いた。
「濁った眼だ。俺をそんな風に睨みつけて命があったやつはいない。今までで一人もな。残念だなオヤジ。コイツは命を捨てる気のようだぞ。――犬死にだがな!」
「そっ、そんな」「おっ、お客さまっ!」
ざわざわっと店内がざわめく。客達が青ざめた顔で何やら囁きあっている。
アウトローリーダーはこちらを睨めつけて独り言ちる。
「しかし少し気になるな。どうして死ぬと分かっている戦いをする?
・・・フン、まさかそんなにもここのメシが美味かったとでも言うつもりか?」
・・・うん?なんかリーダーに話しかけられてるぞ。作戦を考えるのに夢中でちゃんと聞いてなかったけど。ええと、メシが美味かったかって?内容がよく分からないけど、これから仲良くなりたい相手の話を無視するのはマズイ。何とか話を合わせないと。
オレは出来るだけ真剣な表情を作ってから返答を考える。ちゃんと聞いてた。聞いてたよキミの話。
「ええ、その通りですね。ここの食事は大変に美味しかったので」
店内がざわめく。
後ろからソアラちゃんのグスグスとえずく声が聞こえる。
アウトローリーダーがスラリと剣を引き抜く。
「そうか・・・ならば死ねぇっ!!」
えぇっ!?なんで!?
アウトローリーダーが剣を斜め下に構えながらこちらへ踏み込んでくる。
こちらの顔面に下から上へと振るわれる剣閃。上体をそらしてかわす。
さすが夢。やたらと体のキレがいい上に相手の太刀筋が良く見える。
アウトローリーダーとその仲間達が叫ぶ。
「ちぃっ、ちょこざいな!」「そんなっ、リーダーの太刀がかわされたっ!?」「しかしまだだっ!」「掛かったなアホが!」
アウトローリーダーの肘が延びきり体勢が崩れるかと思いきや、剣先が頭上に到達した瞬間、まるで速度を落とすことなく、そのまま軌道が真下に変わった。
「おうふっ!」
こちらの刀を抜こうとしたが間に合わない。刀を納刀状態のまま腰からぬいて持ち上げ、そのまま刀の柄を相手の剣閃に合わせてカチ上げる。
ガツっという音と共にアウトローリーダーの剣が真上にはじかれ、その目が驚愕に見開かれる。
「ば、馬鹿な!」「なっ、あんなの初めて見たぞ!」「いつもアレで確殺なのに!?」「まさか無傷で!?」「気をつけろ、かなり使うぞこの男!」
馬鹿なーはこっちのセリフだよちくしょう!
話の途中なのに何でいきなり斬りかかってくるんだ!?
・・・いや待てよ、まさか俺の狙いがバレた!?
くそっ、やっぱり蛇凶の皆さんを差し置いてオレだけニャンニャンさせてもらうのは無理があったか!
ならばどんなお願いなら聞いてもらえる・・・!?
俺は断腸の思いで作戦を下方修正し、身の程をわきまえたお願いをアウトローリーダー達へ叫ぶ。
「待ってください!貴方達は誤解している。私は貴方達と仲良くなって、プロになるソアラちゃんを柱の陰から見守りたいだけなんですっ!」
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