成功か、地獄か
その夜、シャーロットは、スラム街と歓楽街の境目にある場末の酒場にいた。
テーブルを挟んで向かいに座っているのは、蛇凶の男。
今夜、呼び出した相手が現れる前に、任務の報告を済ませるためだった。
「どうやら誘い出せたな?」
中肉中背の、真っ黒な革服で全身を固めた男がシャーロットへ問い掛ける。
「ええ、心配ないわ。今日このあと、この酒場で落ち合う予定」
「恐ろしく簡単に釣れたな。いったいどんな手を使ったんだ?」
それはシャーロット自身も不思議だった。なぜあんなにも簡単になびいてくれたのか。
警戒を解く為に、店に通い詰めて少しずつ距離を詰めるつもりだったのだ。
「なにも。彼の腰に差してある剣がとても珍しくて高価そうだったから、それを褒めて今夜見せてもらいたいと誘っただけよ」
「・・・謎は解けたぜ。達人と呼ばれるほどの剣士には、自分の剣を命と見立てるヤツすらいると聞く。そこを褒められ、気を良くしたんだろうよ」
「なるほど。ずいぶんと嬉しそうな顔をしていたと思ったら、そういうことだったのね」
「ああ、間違いねぇ。それだけ腕が立つってことだろう。事実、10人を一瞬で斬り捨てたんだ。人間業とは思えねぇ」
シャーロットは、昼のやり取りを思い返す。
胸元に視線を落としながら、ちらちらとこちらの顔を伺っていた、落ち着きのない態度。彼が本当にそこまで恐ろしい剣技の持ち主なのだろうか。
「どうしてあの人を襲ったの? 何か理由があった?」
「フン・・・余計な詮索はするな。お前は言われたことだけやってろ」
「・・・ごめんなさい。それで、どう動けばいい?」
「ヤツはソアラって女に気があるんだろう。でなきゃ、あんな小さな店で用心棒なんかやってるわけがねぇ」
「つまり――」
「お前が、その娘の代わりになるんだ。ヤツをお前になびかせろ。そのためにチャンスをやったんだ。哀れにも泣いてすがったお前にな」
「・・・・・」
「成功すれば親に会わせてやる。だが・・・この仕事にもし失敗すれば、分かっているんだろうな」
最後の言葉に、嫌悪が走った。
黒革の男がこちらを舐めるように見つめ、薄く笑みを浮かべている。
「・・・ええ、分かっているわ。必ず成功させる」
男の目を避けるように、シャーロットは視線を落とす。
でも、心の奥ではすでに覚悟を決めていた。
失敗すれば、両親の命は――ない。
そして自分は一生、蛇凶の玩具として、見世物のように客を取らされる。
まだ経験すらない。けれどそれは、逆に“売り”になると聞いた。
良家の娘の処女は、異常な高値で売れるそうだから。
絶対に、失敗できない。
お父様とお母様のために。自分自身のために。
自分が組織にとって「使える」存在であることを示さなければ。
――どんなことをしてでも。
シャーロットは静かに背筋を伸ばした。
待ち合わせの時間まで、あと少し――。
こんなところまで読み進めていただき、ありがとうございます。読んでもらえるというのは、こんなにも幸せなことなのかと。こんな感動がこの世にあったのかと、いつも深く感謝しております。
ちなみにこれぐらいの量でも、完成済みの文章を1時間半くらい推敲して練りに練って出してるとです。決してサボってるわけじゃないの。信じて・・・




