葛藤
「ちょ、ちょっと!?」
「後生だ!もちろん、ソアラが昨日の連中に狙われている以上、アンタにも危険が及ぶ。だがアンタは強い!アンタが家族同然にこの家で暮らしていると言うだけで、連中は手が出し辛いはずだ!」
そう言えばそんな話・・・だったか?ズキズキと痛む頭を押さえながら思い出す。ソアラちゃん、昨日のマフィアに命を狙われてるんだったか。ジャキョウとか言ってたような・・・。
「頼むっ!生活するのに精いっぱいでろくに報酬も出せないが、命がけで闘ってくれとも言わない。この家に居てくれるだけでいい。あの子には何とか、生き長らえられる希望だけでも持たせてやりたい!どうか頼むこの通りだ!!」
そう言って、涙目になりながら土下座の格好で頭をゴンゴンと床に叩きつけるオヤジ。
俺は自分が何歳なのかすらよく覚えていないが、この髭オヤジはきっと俺よりは年上だろう。感覚でそれぐらいは分かる。
そしてそんな人間に、こんなことをさせてはいけない。
「わかりました!もうやめて下さい!」
髭オヤジの肩を掴んで体を起こし、ジッと目を見つめる。しかしいいのだろうか。昨日の話に本格的に巻き込まれることで、これはひょっとしたら、俺も、死んでしまう可能性だってゼロではないのでは。
しかしそうは言っても、この話を断ったところでこれからの当てなど無い。俺は路地裏に居た物乞いを思い出す。自国民ですらあの有様。異国人に対しての風当たりはきっともっと冷たいだろう。国に保護を求めたところで、保護を申し出てきたのは記憶喪失のアジアンフェイス。下手をすれば牢屋に連行されるかも知れない。この国の常識も分からず無一文。さらに寝起きする場所もない。
差し当たっては、この家で世話になる以外に道が無いようにも思える。そしてさらに言うなら、俺はこの、強面なオヤジの泣き顔に、なりふり構わず年下に土下座をしてでも我が子を助けようとするこのオヤジの心意気に、自らの身を危険に晒しても惜しくはないような気がした。
俺は決意を固めて深呼吸をする。
真っ直ぐにオヤジの目を見つめたまま、力強く言った。
「私に、任せてください」