第6話 本気でやっていいらしい
「トール!」
サリナは、バーミリオンの攻撃で軽々と飛んで行ったトールを心配する。
穴の空いた壁をじっと見つめる。
だが、サリナの心配は必要なく、トールは飄々と開いた壁穴から再び姿を現す。
「大丈夫、大丈夫、これぐらいなら。いや、服が汚れちまったな。うへ、ホコリっぽい」
謁見の間に戻るトールは、砂埃を吸って、ゴホゴホと咳き込んでいたが、体はピンピンしていた。
風の鎧と咄嗟のバックステップで、トールにダメージは無かったのだ。
「これぐらいならだと? 魔王のくせに私の『竜殺剣』が効かないと言うのか? ふん、強がりを言いやがる! 聞いて驚け、私の剣の凄さを!」
俺が体に付いた砂埃を払っていると、バーミリオンは自分の大剣『竜殺剣』がどれほどすごい武器かというのを、聞いても無いのに語り始めた。
バーミリオンのメイン武器『竜殺剣』
伝説の勇者に選ばれたバーミリオンが、伝説の鍛冶職人に作らせた、伝説の竜魔王の首をも一振りで切り飛ばす、伝説の大剣。
伝説の長命族エルフの血を使い、伝説の聖女の祈りが付与されてできた竜殺剣は、伝説のスキル『自己修復機能』を持ち……
「……伝説、伝説って、ボキャブラリー少な過ぎ!?」
竜殺剣の説明をするバーミリオンの語りは聞くに絶えず、戦いになるであろう相手の能力は聞いておいて損は無いのだが、俺は我慢出来ずに途中でツッコミを入れてしまった。
勇者って言われるだけの凄い力はあるって、さっきの一撃で理解したけど……多分馬鹿、何だろうな。
何でもかんでも『伝説』ってつければ、凄い感が出ると思ってるんだ。
コイツは絶対話が通じないタイプだな、はぁ、どうしたもんかな。
俺はバーミリオンの行動で、もう戦いは避けられないと悟った。
「やっぱ戦うことになりそうだな。サリナが戦いたいのなら譲るけど……って、あっ」
バーミリオンが強い剣を持っているだけなら、サリナでも戦えるだろうと思い、振り返って聞こうとするが
「全然大丈夫そうね。いけ、トール! 魔王の力、見せちゃって下さい!」
と言いながら、俺が飛ばされて出来た壁の穴から、ひょっこりと顔だけ出して応援するサリナが居たのだった。
社長に率先して戦わせる社員って何だよ。
クソ〜減給してやろうかな、アイツ〜。
サリナに対して、人任せにしやがってと思っていると
「またよそ見して。ハッ」
隙をついて、バーミリオンは竜殺剣をトールに向かって振り下ろす。
トールは風で、今度は鎧ではなく、ゴンザレス国王に使った防壁を作る。それは一瞬、竜殺剣を止めることに成功した。
「ふん、こんな壁、うらぁぁぁ!」
バーミリオンの叫びと共に、風の防壁は紙切れのように半分に裂かれ、竜殺剣は再び盛大な音を立てて、地面に突き刺さる。
「ふぅ、すげーな。そんな簡単に切れるんか」
俺は防壁に剣が入って行くのを見て、すぐに防御から回避に切り替えていた。
サリナの隠れる穴の方へ飛び、竜殺剣の一撃を避けてみせる。
こっちに来ないでと叫ぶサリナは無視して、俺はどうしてやるかを考える。
バーミリオンの使う竜殺剣は今のままの『吹き荒れる風』では防ぎ切れないようだ。
かといって、本気でやるというのも気が引ける。
バーミリオンがバラバラに弾けるところなど、グロくて見たいとも思わない。
剣を破壊しなくても、バーミリオンを戦闘不能にするだけなら、今のままで十分と考えた。
要はギフトの使い方次第。力が弱くてもやり方はあるのだ。
「これでもくらえ!」
トールは『吹き荒れる風』をバーミリオンに向け、全力で撃ち込む。
バーミリオンは竜殺剣を盾にするため、床に突き立て、『吹き荒れる風』を剣の側面で受け止める。
ここだ!
トールはもう一度『吹き荒れる風』を発動。
今度はバーミリオンにではなく、部屋の周りに散らばる財宝に技を放つ。
財宝は宙を舞い、死角からヴァーミリオン目掛けて飛んでいく。
人の顔の部位で顎は誰もが持つウィークポイントの1つ。
顎先にくらわしてやれば、脳が揺れて機能障害を起こす。これで終わりだろ。
『吹き荒れる風』に乗って勢いのある財宝の1つがバーミリオンの顎先に見事に直撃する。
トールはその瞬間をハッキリと見ていた。
「貴様、何をするか!」
「!?」
しかし、バーミリオンに起きた変化は、顎が少し動いたかもしれないぐらいの微差しか無かったのだ。
脳を揺らすどころか、痛みすら感じてないような反応をバーミリオンは示していた。
トールはまた財宝を四方八方からバーミリオンに向けて飛ばし、竜殺剣で防ぎきれなかった財宝がバーミリオンに直撃するのを目撃する。
だが、いくら財宝を当てても、バーミリオンにはダメージの兆候がない。
バーミリオンは「ふざけているのか!」と激怒しながら、財宝が飛んでくるのを無視して攻撃に転じる。
「おいおい、びくともしないなんてことあんのかよ……待て、バーミリオン。お前怪我したことあるか?」
バーミリオンの攻撃を風の鎧と防壁で凌ぎながら、俺はある1つの仮説を立てて、質問をする。
「怪我? ……はて、そういえばいつしたっけな? 竜魔王の時……いや、そういば無傷で倒したような……ええい、考えてもわからん! 魔王の言葉なんぞに惑わされんぞ!」
トールの疑問に剣を振るのを止め、一度は考えを巡らせたが、今の戦いに関係ないことと思い、バーミリオンは再び剣を振り回すのであった。
トールは風の鎧を装備し、再び迫りくる竜殺剣の斬撃を受け止めるが、その威力に押され、セリナのいる方へとジワジワ押されているのであった。
それを見たセリナは、自分にも危害が及ぶと焦り、俺に向かって叫ぶ。
「アイツは体の硬さが異常なの! だから本気でやっても大丈夫なはずよ!」
「くぅ、やっぱりそうか」
サリナも俺が思ったことと、同じことを考えていた。
バーミリオンの勇者として特出してる点は、竜殺剣では無かったのだ。
それを振り回すバーミリオン自身の『強靭な体』の方だったのだ。
金属をぶつけられて、ミリも仰け反らないなんて異常。
怪我したのがいつかわからないと言っていたが、もしかしたら、生まれてから今まで一度も怪我など無く、ずっと無敵の勇者として君臨していたのかも知れない。
その特出さに何故かバーミリオン自信が気づいて無いようだが、間違いなく、剣よりもバーミリオン本人の方が俺には厄介だと思えた。
「今のままじゃ無理なのか、クソ」
ジリジリとサリナに近づいていく。
だが、バーミリオンに今の『吹き荒れる風』を直撃させたところで、びくともしないと思う。
使う気は無かったが……相手は馬鹿っぽくてもちゃんと最強転生勇者ってことか。
しっかり俺を殺しに来てるな、ヘラクレスってヤツは。
……仕方ない、使うか。
俺は聞く耳を持たなそうなバーミリオンを戦闘不能にするため、本来のギフトを発動する。
「2番、4番のスリープモードを解除。オートでは無く、マニュアルで始動させる。左打ちでだ。クロパチ、行けるか?」
〝2番、4番ならすぐに始動可能、通常マニュアルで開始します〟
「よし、打ち出せ!」
〝了解、マスター〟
はじめましてゴシといいます。
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