第5話 見参!勇者バーミリオン
どういう意味だ、国を渡すって?
よくわからんが、何で今日初めて会った知らないブタさんに、俺は怒られないといけないんだよ。
ゴンザレス国王と会話したほんの数分で、俺は気分が悪くなっていた。
俺を魔王と恐れている人は今もまだ、世界に数多くいる。
さっきのゴンザレス兵などがいい例だ。
支配者というイメージがまだ強いのだろう。
別に怖がって欲しいわけではないが、そんな人がまだ世界には多くいる中で、ここまで魔王である俺に対して、横柄な態度を取れるのはすごい度胸があると思うし、それと同時に、やっぱりおかしいヤツかなとも思ってしまう。
それに魔王でもあるけど、そもそも俺は今、セントドグマの国王でもあるのだ。
他国から来た王に対して敬意を払うってのは、どこの国でもしっかりしなくてはならないはずだろ。
なのにコイツときたら。
他国の王に対しての態度も悪ければ、自国の民にもひどい仕打ち…………。
「……トール。話し合い、話し合いだからね」
「ん? ……あぁ、すまん、サリナ」
サリナはまた俺の手を握り、気持ちを落ち着けようとしてくれる。
怒りで少し強く握り過ぎたか。
気づいたら、爪で手のひらが切れてしまっていた。
俺は100パーセント、コイツが嫌いだ。
用がなければ、今すぐにでも帰りたいぐらいだ。
しかし、勇者召喚の件と国民の生活をどう思うかを聞いておきたい。
俺は王として、ここは落ち着いて話をしなくてはと思うのだ。
「申し訳無いのですが、さっきからゴンザレス王の言っていることが、私にはわからないのです。私たちの話す言語って、違わないですよね、わかりますか? 何を言いたいのか、そしてなぜ怒ってるかを落ち着いて、ゆっくりと、詳しく聞かせてもらえませんか?」
俺は落ち着いて、国王らしい態度で言ったつもりだったが、サリナの呆れ顔と、ゴンザレス国王の真っ赤になった顔を見て、何か良くないことでも言ったかと思うのだった。
学校で習った医療面接の授業では、いつもこんなカンジで話せと言われてたんだが、違ったかな?
実は落ち着ききれていないトールには気づけなかった。
自分の言った『言語、違わないですよね、わかりますか?』発言は医療の授業でも習ってない、ただの挑発だということを。
「ぽっと出の魔王のくせに偉そうに言いやがって。俺をゴンザレスの王と知ってての狼藉か!」
「「!?」」
トールの失言にゴンザレス国王は怒り心頭。
大きな腹を上下に揺らし、勢いよく立ち上がり、トールに飛び掛かろうとする。
「トール待っ……」
「悪い、サリナ。待てなかったわ。でも、大丈夫だ」
サリナはトールを抑えようとするが、トールはすでに『吹き荒れる風』を発動していた。
トールとゴンザレス国王との間には、風で出来た見えない壁が形成され、ゴンザレス国王は1ミリもトールに近づくことが出来なかったのだ。
それでもトールに怒り狂うゴンザレス国王。
天に向かって、大声で叫ぶ。
「ぐぬぬ、進めん……ば、バーミリオン、助けてくれ、バーミリオーン!」
風の壁によって行手を阻まれるゴンザレス国王は、バーミリオンと叫んでいた。
また訳のわからないわからないことを言ってと思っていたが、ゴンザレス国王が呼んでいたバーミリオンがこの空間に現れるのを、俺とサリナは瞬時に察知した。
目の前にある机の上から砂埃が、ぱらぱらと落ちてくる。
それを見た瞬間に、俺とサリナは天井を警戒。
すると、次第にミシミシっと音をたてて、天井に亀裂が走る。
そして、広がった亀裂から顔を覗かせるのは、剣の先端だったのだ。
「下がれ、サリナ!」
俺はサリナに指示を出し、2人して机から距離を取る。
そして、先端しか見えてなかった剣は天井を突き抜け、謁見の間に、大きな音を立てて突き刺さるのを目視するのであった。
「呼びましたよね? 私の名前を!」
土煙が上がる中、突き刺さる大剣を握りしめた人影を確認する。
そして、その者はゴンザレス国王に呼んだかと問いかける。
「呼んだとも。バーミリオンよ、魔王が現れたのだ! コイツを何とかしてくれ!」
「なんと、魔王だと!?」
土煙がだんだんと晴れ、俺とサリナはゴンザレス国王、そしてバーミリオンと呼ばれる、大剣を握りしめる男を目視する。
白い肌に綺麗な顔立ち。
金色の長髪を後ろで結び、なびかせる。
金の鎧を纏い、鋼鉄の大剣を握り、凛とした表情をしている。
魔王を赤い瞳が見つめている。
ゴンザレス国王から魔王と言われても物怖じしない、自身に満ちた顔を見て、俺は確信した。
「お前だな、新しく転生して来た勇者ってのは」
俺はバーミリオンと呼ばれる男に問いただす。
すると、男は高笑いしながら、俺の問いに答えてくれる。
「いかにも! 私の名前はバーミリオン・フルボディー。弱きを助け、強きをくじく、この世界を救いに来た勇者様だ! 覚えておけ、世界に害をなす悪党、魔王トールよ。貴様は私が退治してやるぞ、はっはっはっはっはっ!」
バーミリオンは胸を張り、腰に手をあてながら、自分の正体をご丁寧なことに、転生してきた目的と共に明かすのであった。
そうか、このパターンか。
俺は頭を抱える。
魔王を打ち滅ぼすために来たってことは、多分だが、コイツを転生させたのは俺が知ってる2人の内のどちらかだろう。一応聞いておくか。
「ちなみにお前を転生させたのは、何て名前のヤツだ?」
「ん? 悪に答えることなど無いぞ! 私は勇者、貴様を倒す者である!」
俺の質問にバーミリオンは答えてくれない。
まぁ、敵だと思ってる相手に明かすことなんて普通は無いよな。
でも、コイツ……喋ってるカンジ、なんか頭悪そうな気がするぞ。
上手くやれば、聞き出せそうだけど……よし、これだろ。
「はっはっはっ、俺は魔王トール! 神アレスを打ち砕く野望を阻止しに来たのだな、勇者よ!」
「あ、アレス……何を言っている? 我らが神は武神、ヘラクレス様であろう。貴様は世界の常識も知らんのか!」
はい、上手に聞き出せました。
俺はバラムに勇者を送ってきたのが『武神ヘラクレス』だというのを、直接バーミリオンから聞き出すことに成功した。
バーミリオンにキャラを合わせるのは、少し恥ずかしかったが、まぁ上手いこといったからよしとしよう。
でもそっか、今回の神はヘラクレスか。コイツが送ってきた勇者ということは……ダメだ、やっぱり話し合いでは終わらなそうだな。
今まで神様の内の1人であるヘラクレスが転生させてきたヤツらって、まともに話せ無いヤツしかいないんだよ。
勇者、パターンその1:魔王は絶対死すべし。
ヘラクレスが転生させてくる勇者ってのは、このパターンしかいないんだよな。
元の世界で悪の魔王と戦ってた経験をしてから、ここに転生してきたヤツら。
魔王って名前を聞いた瞬間に「絶対悪だ!」って決めつけてくる。
俺ってそんな悪い訳じゃ無いんだけど。魔王ってのも名ばかりで、世界を支配って言っても、安全に管理してるぐらいなんだよな。
戦うとかってのも、出来ればやりたくないし。
ヘラクレスの名前を聞いて、話し合いはダメそうだと悟った俺は、肩をガクっと落とし、それを見たサリナも「ダメですかね〜」と気の抜けた台詞を漏らすのであった。
「何をごちゃごちゃ言っている、魔王よ!」
「!?」
バーミリオンは手に持っていた2メートルは超えるであろう巨大な剣を、トールに向かって、勢いよく振り下ろすのであった。
肩を落とし、よそ見をしていたトールは、突然の事に反応が遅れた。
咄嗟に『吹き荒れる風』で風の鎧を作り、直撃は凌いだものの、バーミリオンの異常な怪力によって、トールは壁まで吹き飛ばされるのであった。
吹き飛ばされたトールは壁にぶつかり、そして壁を貫通。
トールは外の廊下まで押し出されるのであった。
はじめましてゴシといいます。
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