8-10 盾の終焉、孤独の告白
必滅の一閃に両断されたイリスの体は、もはや再生の輝きを失っていた。
血溜まりの中に横たわっているのは、驚くほどか細い孤独な女性の姿だった。
ライルは折れた腕を庇いながら、静かに彼女を見下ろした。
「あんた、かつての英雄イリーナだろ? なんでだよ……人類の盾となるこれほどの力を持っていながら、どうして……」
イリスは力なく、自嘲気味に唇を歪めた。
「……私にそんな力など無い…………私には、何も……」
イリスの視線は、もはやライルを見てはいなかった。
彼女の脳裏には、七十年前、共に戦い、先に『伝説』となって去っていった仲間たちの背中が浮かんでいた。
「ラインハルトのような、どんな逆境でも諦めない心と機転も……
アルフレッドのような、後世に発明を残す比類なき才能も……
ジークのような、人を惹きつけ勇気づける眩いカリスマ性も……私には、何一つ備わっていなかった……」
語るそばから、イリスの体は足元から粒子となって崩れ始めている。
残された神木の魔力が、彼女の命を代価として回収し始めたのだ。その苦痛さえ、今の彼女にとっては穏やかな微睡みのようなものだった。
「ジェイク……懐かなかったお前を……我が子のように思っていたぞ……」
消えゆく意識の中で、彼女は震えるその手を虚空に伸ばすが、何も掴めないことを知っているかのように、その手は力なく灰となり散っていく。
かつての幻影を追うように、彼女の唇がかすかに動く。
「……ゼブル……あなたに…………」
最期の言葉は、音を結ぶ前に風に溶けた。
直後、魔塔首席イリス――英雄イリーナであったその体は、一筋の灰となって完全に消滅した。
主を失った庭園に、耳鳴りがするほどの静寂が訪れる。
だが、その静寂を切り裂くように、リアナがライル達を見下ろして言う。
「何を騒いでいるの?」




