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【完結】暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった  作者: ちんくろう
8章 そして世界の境界が収束する
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8-3 竜腕、不退転のその覚悟

 白霧の立ち込める道中、ライルの背でシエラが小さく身悶えした。


「ライル……手を握って。とても……寒いの……」


 消え入りそうな声。それを最後に、シエラは静かに意識を失った。ライルの背中に感じる彼女の体温は、もはや冬の石のように冷え切っている。


「シエラの命が尽きようとしている……」


 絶望に染まりそうなライルの声に、隣を走るビャクが鋭い視線を向けた。


「神木の中枢ちゅうすうへ連れて行かなければ、このまま魂が崩壊して死ぬ……。急げ、ライル」


「……神木の元に連れて行けば、シエラを救えるのか?」


 ライルの問いに、ビャクは一瞬だけ瞳を揺らした。だが、すぐにその迷いを冷徹な光で塗りつぶす。


「ライル、迷うな。神木の中枢、生命の奔流ほんりゅうがある場所こそが、彼女を繋ぎ止める唯一の救いになるんだ。……それ以外に道はない」


(だが……その『救い』の形を、お前は認めないだろうがな……)


 庭園が近づくにつれ、霧の向こうから鉄錆てつさびに似た濃厚な血の匂いが漂ってきた。


「……何だ、これは」


 ライルが絶句し、足を止める。ビャクもまた、その瞳に鋭い警戒を宿し、霧の奥を睨み据えた。前方に大きな魔力の残滓ざんし……それと、死臭がする。

 門前には、二つの巨大なむくろが転がっていた。

 魔塔首席イリスの手で『執行人』へと改造された『漆黒の騎士』と『双剣の巨漢』。魔塔が誇る最高戦力であったはずの二人は、鎧を紙細工のようにひしゃげさせ、抵抗の跡もなく物言わぬ肉塊へと成り果てていた。


「首席様の『お気に入り』だったらしいが……。ハエが二匹、道を塞いでいただけだ」


 霧の奥から、低く、冷徹な声が響いた。ゆっくりと姿を現したのは、ヴァルトだった。

 彼の右腕は、肩までを禍々しい漆黒の鱗が覆い尽くしている。五竜の一人、ラインハルトから奪った『竜の血』により作り変えられたその腕は、鋼を凌ぐ硬度を放ち、過負荷による魔力の蒸気を立ち昇らせていた。


「ヴァルト……何故ここに。それに、この二人を一人で?」


「通さぬと言うから排除した……。来ると分かっていたぞ、ライル」


 ヴァルトは短く答えると、血の混じった唾を吐き捨てた。その瞳に、かつて呪いに怯えていた男の影はない。ただ、自らの命であがなおうとする、静かな覚悟だけが宿っていた。


「ライル。……神木の律を砕きに行くのだろう。俺も行く」


「それが何を意味するか、分かって言っているのか?」


「まともにやり合えば、ほぼ死ぬだろうな。……だが、お前のおかげで目が覚めたぜ。世界の不条理に耐えて立ち止まっているだけなら、そんなのは死んでるのと同じだ」


 ヴァルトはそう言い切ると、先頭に立って歩き出した。


(……だが、まともにぶつかっては、それすら叶わずに潰えるだろう。あの魔女に、皆殺しにされて……)


 ヴァルトは、霧の向こうから漂う不穏な気配を見据えた。底知れぬ怪物の影を振り払うように、懐の内ポケットに収めた二つの魔道具へ、そっと指先を添えた。


(俺が道を作ってやる。……その先は任せたぞ、ライル)


 庭園の入り口へと続く道には、異形の石像が立ち並んでいる。その入り口直前、少し開けた場所の左右には、巨大な斧を振り上げた無骨な石像が二体、門番のように座していた。

 ライルがシエラを背負ったまま、その間を通り過ぎようとした瞬間。


「下がれ」


 ヴァルトの漆黒の腕が、強引にライルの肩を後方へ引き倒した。


「ヴァルト! 危ないじゃないか、シエラが──」


 ライルの言葉は、空気を切り裂く風切り音によってかき消された。


 ──ヒュンッ!


 左右の石像が構えていた斧が、目にも止まらぬ速さでライルの眼前へ振り下ろされ、地面を深く穿った。


「危なっ……。何だ、この石像は……!?」


 いつの間にか、周囲の石像たちが一斉にその視線をこちらへ向けていた。左右の巨大な石像も、無機質な瞳でライルたちを『侵入者』と定め、再び斧を振り上げる。

 ビャクが、鋭い声を張り上げた。


「……来るぞ! 庭園の防衛機構システムが起動した!」

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