8-1 瓦解する天の方舟
──魔塔、それは高く積み上げられた石の塔。
神木は地面を伝い、種の生命と生態系を検知する。滅亡が起きた際、天空へと逃れて検知を逃れること、それこそが魔塔が建てられた真の目的だ。
その空を統べるはずの叡智の結晶が、いま、内側から食い破られていく。
「……見事な代償ね。あの時、地下の瓦礫に芽吹いた苗木を、ただの奇跡だと見逃した結果がこれというわけ?」
魔塔首席イリスは、激しく振動する回廊に立ち、崩れゆく壁の向こう側を見つめていた。
かつてジェイクとの死闘の末、魔塔の地下深層に刻まれた大穴。そこに顔を出した小さな苗木は、今や魔塔の心臓部を貫く巨大な『杭』へと変貌していた。
その苗木は石の塔の深部へと根を張り巡らせ、庭園の神木へ魔塔の正確な位置を指し示す道標となってしまっていたのだ。
轟音と共に天井が崩れ、瓦礫となって地上へと墜落を開始する。天空の『保険』は、いま完全に潰えた。
「隠れてやり過ごすことが不可能になった以上、道は一つしかない
……リアナ、あなたの隣で、私が直接人の数を……生態系を完璧に管理する。そうすれば、滅亡は起こらない」
神木が『滅亡の実』をつけ、そこから無数の竜が産み落とされる最悪のシナリオ。
イリスが考えるそれを防ぐ方法は、神木に十分な魂を供物として捧げ、その飢えを管理し、滅亡の進行を停止させることだ。
そのためには、神木との接続を維持する女王リアナを掌握し、秩序ある『間引き』を断行しなければならない。
「……来なさい、あなたたち。私の城を壊した代償を、世界に払わせに行くわよ」
暗闇から、二つの重厚な殺気が歩み寄る。
かつての闘技大会で、その武を見せつけた『漆黒の騎士』と『双剣の巨漢』。イリスの手によって魔塔の最高戦力へと再調整された二人の騎士は、もはや言葉を介さず、ただイリスの意志を体現する執行人として瞳を光らせた。
英雄イリーナとしての誇りを鎧のように纏い、彼女は崩落する魔術師たちの塔を捨てた。目指すは、神木がそびえ立つ庭園の最奥。
世界の滅亡という避けられぬ運命を、自分の支配下に置くための、首席としての勇壮なる行軍であった。




