7-4 崩落する最果て
崩落が続く洞穴の最深部。
巻き上がる土煙と不気味な赤光の向こう側で、ライルは異様な光景を目の当たりにした。
そこには、制御を失い、のたうち回る赤縄の奔流と、その中心で魂を削られながら吊されたシエラの姿があった。
「シエラ――!!」
ライルが叫び、駆け寄ろうとするが、手前で立ち往生している影があった。ビャクだ。
彼女はその清廉な剣技で崩落の岩塊を振り払うが、迫り来る赤縄から放たれる圧倒的な『不浄の生気』に阻まれ、踏み込めずにいた。
「ライル、来るな! この縄は生者の命を直接汚染する……っ!」
ビャクの警告を無視し、ライルは迷わず赤縄の渦へと踏み込んだ。
「――っ、あ、あああぁぁ!!」
肉を焼くような激痛がライルを襲う。しかし、赤縄が放つ不浄な呪いは、ライルの体内に巣食う漆黒の『澱』に触れた瞬間、霧散していった。
毒を以て毒を制したのか。既に澱に深く汚染されているライルの肉体にとって、赤縄の呪毒はもはや異物ですらなくなっていた。
「お前なんかに……シエラは渡さない!」
ライルは澱を拳に凝縮させ、赤縄の核を直接掴み取ると、強引にそれを引き千切った。
本来、生身の人間が触れれば即座に命を吸い尽くされるはずの呪縛を、ライルはその『汚れ』ゆえに無効化し、粉砕したのである。
縛めから解放され、崩れ落ちるシエラの体を、ライルは間一髪でその腕に抱き止める。
「シエラ、しっかりしろ! シエラ!」
その瞬間、シエラの口から目に見えるほどの輝き――魂の欠片が溢れ出している。欠片の一部は背後に鎮座していた御神体へと吸い込まれていった。
「グ、オオオォォォッ!!」
魂の一部を得たことで、干からびていた御神体が、不気味な咆哮を上げた。不完全な、だが圧倒的な『生』の圧力が洞窟を震わせる。
祭壇の隅では、司祭が崩れゆく天井を見上げて狂笑していた。
「御神体が、更なる浄化の力を得ようとしておられる……この力なら疫病も、テオも完治するぞ!」
直後、巨大な岩盤が司祭を無慈悲に押し潰した。短い絶叫と共に、司祭の気配が完全に消える。
「いけない、ここも崩れてしまう! 早く逃げて!」
フイユの叫びが響く。ライルは意識を失ったシエラを抱きかかえ、ビャクと共に、崩壊し続ける出口へと決死の脱出を開始した。




