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6-14 空虚な聖域 (6章完)

轟音と共に帝都の各所で火柱が上がった。


崩壊を始める実験場から這い出したライルは、凄まじい熱と痛みに視界を焼きながらも、玉座の間で膝を付いていたビャクを見つけた。


「……おい、ビャク! しっかりしろ!」

「……ライル、か。……すまん、ベルナルドの足止めで手一杯だった。ガルダスは倒せたのか?」

「いいから黙ってろ。生きて帰るぞ」


ライルは、もはや感覚の失われつつある脚を叱咤しったし、待機させていた馬にビャクを無理やり乗せると、自らもその後ろに跨った。ヴァルトの姿は、もうどこにもない。


「……ビャク、行くぞ」


ライルたちを乗せた馬は、炎上する帝都の正門を突破する。


(ヴァルトは上手く逃げ出せたのだろうか……)


死地を共にしたヴァルトの安否を案じ、ライルは背後で帝国の栄華が崩れ去る音を聞きながら暗い街道を進んだ。


夜を徹しての逃走。馬の手綱を握るライルの手は、いつの間にかどす黒い紋章に覆われていた。


(……熱い。いや、氷のように冷たいのか……?)


時折、内臓を直接植物の根で締め上げられるような激痛が走り、ライルの意識を暗転させかける。


(なぜだ……。ガルダスは、こんな地獄を抱えながら、あんな動きができたっていうのか……!?)


かつてガルダスは、リアナ女王から神木の呪いを直接打ち込まれた。その身に「澱」を溜め込み、避雷針となることで滅亡を遅らせてきたのだ。一人で呪いを受け継いだライルにとっては、一秒一秒が精神を削り取る拷問に等しい。絶望感が脳を支配しようとする中、背後で自分を支えるビャクの声だけが、彼を現世に繋ぎ止めていた。


「ライル、リアナはあの後どうなっていたんだ?」


ライルは、シエラと名付け匿名で匿っていたこと、金髪を切り髪を隠して過ごした日々、そしてガルダスとの決戦……そのすべてを、苦しい息の中でビャクに話した。彼女が守ろうとした『希望』が、懸命に生きてきたかを伝えるように。


一晩中、止まることなく馬を走らせ続け、東の空が白み始めた頃。


周囲の景色が一変した。不浄な魂が集まりやすいその土地は、常に澱の気配を孕み、それゆえに独特の疫病が蔓延まんえんしている。霧の向こうに、目的の教会が見えてくる。


「……着いたぞ、聖域に」


聖域の入り口を抜けた瞬間、ライルの限界が訪れた。馬から転げ落ちるように崩れた彼は、駆け寄る人影に気づく。


それは、帝都を脱出する前にシエラを預けた、あの元宮廷魔導師の老婆だった。


「ライルさん! お戻りになられたのですか!」


「……ああ、シエラを……迎えに来た……」


「ライルさん、シエラちゃんがいなくなってしまったのです! 三日前の夜から、忽然こつぜんと行方が分からなくなり……どこを探しても……!」


「……何、だと……?」


ライルの思考が停止する。

彼女は恩人であるヴァルトから預かったシエラは、あくまで客分として守るつもりだった。だが、シエラはこの地の不浄な澱に呼応するかのように、闇へと消えてしまった。


「……シエラ……どこに……」


シエラを案じるビャクの悲痛な叫びが、ライルの遠のく意識の端に響く。


ライルが引き継いだ『おり』が、聖域の不浄な大気と共鳴し、激しく脈打った。


ライルを見下ろす老婆の眼は鋭く細められる…。


シエラは拉致されたのか、それともこの地に眠る何かに引き込まれたのか。


世界の滅亡を巡る本当の戦いが、ここから始まろうとしていた。

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