6-12 竜の腕
「……お前が踏みにじってきた命を、実験動物にされたイリーナを、受け入れられるわけないだろう!」
高重力に押し潰されながら、ライルが血を吐くような叫びを上げた。その瞳には、燃えるような怒りが宿っている。
「大局を見ろ、間引きは滅亡を遅らせる効果がある、イリーナは魂を抜いている、ただの肉塊を有効活用してどこに問題があろうか」
ガルダスは表情を変えず、手元のスイッチを再び操作した。
──カチリ。
二人を縛り付けていた不可視の重圧が霧散する。
「かかってくるがいい、私より強ければ、滅亡を弾き返せる可能性が今よりはあるということだ。……お前たちが、この理を覆せるかどうか、私が検分してやろう」
ガルダスは腰の剣を抜き両手を広げ構えた。
「……ヴァルト、行くぞ!」
「ああ……死んでも、あいつだけは道連れにしてやる!」
ライルの剣が走り、ヴァルトが稲妻を纏って地を蹴る。
だが、ガルダスは動かない。その不気味に発光する「魔眼」が、二人の生命の輝き、心音までもを完璧に捉えていた。
「見えるぞ……。筋肉と魔力の血流が」
ガルダスは最小限の動きでライルの刺突をかわし、ヴァルトの左腕からの斬撃を軽くいなすと、そのまま重い漆黒のオーラを纏った剣をヴァルトの胸元に叩き込んだ。
凄まじい衝撃。ヴァルトは壁まで吹き飛ばされ、激しく吐血して膝をつく。右腕を失い、バランスを欠いた身体では、ガルダスの絶技を捉えることさえ叶わない。
(……クソッ、全身竜化させるしかないのか……だが、右腕が無いこの状態でガルダスに対抗できるか?)
視界がかすむヴァルトの目に入ったのは、それでも止まらず、ガルダスの暗黒のオーラに焼かれながらも剣を振り続けるライルの背中だった。
(……アイツを、一人にするわけにはいかない!)
ヴァルトは目を剥き、体内の竜の血を無理やり逆流させた。膨大な魔力を、全身ではなく、失われた「右肩」の断面一点に集束させる。
(全身じゃない。一点だ……すべてをそこに凝縮しろ!)
ヴァルトがガルダスの懐へと肉薄する。その瞬間、ヴァルトの右肩から黒い炎が噴き出した。骨を編み、肉を練り上げる爆発的な再生。漆黒の鱗に包まれた「腕」が、瞬く間に形成されていく。
「……何……?」
ガルダスが初めて、その細い眼を見開いた。魔眼が捉えたのは、制御不能な怪物の膨張ではない。鋭利な爪を持ち、魔力の奔流をその内に閉じ込めた、静かなる「竜の義腕」だった。
「グレンの無念を……刻めッ!!」
ヴァルトの右腕が閃く。かつての腕を遥かに凌ぐ密度と速度。その五指の鉤爪が、ガルダスの防壁を切り裂き、その胸元へと深く斬り上げられた。




