6-10 英雄の末路
「ボロボロのお前たちではベルナルドの相手は無理だろう。殿は私に任せてくれ」
ビャクが低く、だが確かな信頼を込めて言った。
その腰には、祖父から受け継いだ『竜殺しの剣』が妖しい輝きを放っている。
ヴァルトとライルは短く頷くと、背後のベルナルドをビャクに任せ、足早に長階段を駆け上がる。
玉座の間へ滑り込み、ヴァルトの案内でガルダスの私室へ続く隠し通路へと足を踏み入れた。
石造りの通路の先、そこに広がっていたのは、豪奢な王城の面影を微塵も感じさせない、冷酷な軍事施設……いや、今はもう「研究所」と呼ぶことさえ生ぬるいその場所…。
「……なんだ、これは」
ライルが絶句し、喉を鳴らす。
並ぶのは、複数の獣を無理やり繋ぎ合わせたようなキメラの残骸。肉を削ぎ、機械や魔石を埋め込まれた兵士たちの「失敗作」。
鼻を突く薬品の匂いと、腐敗した魔力が混ざり合い、肺の奥まで侵食してくるようだ。
そこはおぞましい人体実験場だった。
二人が身震いを堪えながら奥へと進むと、室内の中心に鎮座する巨大な円筒形の水槽が、怪しい燐光を放っていた。
「これは……」
ヴァルトの足が、根を張ったように止まった。
「……イリーナ」
「えっ? あの五竜の一人の? ヴァルト、知っているのか?」
水槽の中に浮かんでいたのは、かつて『竜殺しの英雄』と讃えられたイリーナの、無惨な末路だった。美しかったはずの面影はどこにもない。
ヴァルトの震える声が響く。
「十年前、大怪我を負った彼女が帝国に運び込まれた……表向きは、治療のためだったはずだ……」
ヴァルトの発言に息を呑み、ライルが呟く。
「実際は、こっちが目的だったんだな……」
「だろうな……身体は使い物にならなくなったから、魂を別の人体に移す処置をして復活させたと聞いていたが……」
実際の姿は、あまりに乖離していた。
腕は肥大化して鱗に覆われ、顔は半分が崩れ、内蔵も脳も剥き出しのまま無数の管に繋がれている。
それはもはや生命としての尊厳を剥奪され、ただ効率よく竜の力を抽出するためだけに生かされている「肉塊」だった。
(俺は……竜化した姿を、あの男に見られている……)
ヴァルトの全身を、氷のような戦慄が駆け抜けた。
(もし失敗すれば、もし奴に捕まれば……自分もこの水槽の中で、自我を奪われ、それ以上の苦痛を未来永劫味わわされることになる……。
もしかしたら、それ以上のことを……)
水槽に手を当て、額からは一筋の汗が冷たく流れる。
「一体、何をしたらこんな有様になるんだ……」
ヴァルトの震える声が、静寂の中に漏れ出す。
──その時だった。
「気になるのか? これから起こる自分の末路が」
闇の中から、冷徹な響きを帯びた声が届く。
二人が弾かれたように視線を向けると、そこには帝国の最高権力者、ガルダスが静かに佇んでいた。




