6-8 再会の刃
白虎は階段の上から、冷ややかにヴァルトを見下ろした。
「そうか。その汚れた身体に竜の血を流し込み、無理やり死の淵から這い上がってきたか」
「ああ……。お前を殺すためにな」
「ふん。なら今度は、殺した後に逆さ吊りにして、その血を最後の一滴まで抜いてやろう」
ヴァルトは今にも飛びかからんとするほどの殺気を放つが、白虎はそれを柳に風と受け流し、隣に立つライルに視線を向けた。
「ライル。何故そいつと一緒にいる。……お前はそいつの仲間なのか?」
その透き通った声、立ち姿。ライルは目の前の女の正体を確信していた。
「闘技場でヴァルトを斬り伏せた剣士って……君のことだったのか。ビャク……」
ビャクはゆっくりと、その顔を覆っていた仮面を外した。
現れたのは、かつて共に戦ったあの時の、凛とした美しさを湛えた素顔だった
「ライル……。お前は髪を掴まれ、地を這っていた私を助けてくれた。私は、あの村の惨劇はお前が嵌められ、騙されていたのだと……ずっと、そう信じていた」
(……ビャクは何を言っている? あの村? ヴァルトに雇われ襲撃した村のことか?)
ヴァルトは二人の間に流れる奇妙な空気に、微かな疑問を抱く。
「もう一度聞く、ライル。お前は本当にヴァルトの仲間なのか?」
ビャクから放たれる凄まじい殺気が、重圧となってライルの全身にまとわりつく。
一歩でも答えを間違えれば、その瞬間に首が飛ぶ。そんな極限の静寂の中、ライルはビャクの瞳を真っ直ぐに見据えて言い放った。
「仲間だ!」
ビャクの瞳が、一瞬だけ悲しげに揺れた。だが、それは刹那のこと。
次の瞬間、彼女の顔は裏切りへの激しい怒り、夜叉の形相へと塗り替えられた。
「ならば一緒に死ね」
その言葉と共に、ビャクが抜き放った一閃は、もはや「斬撃」というよりは、空気を断ち割る「真空の衝撃」だった。
咄嗟にライルを庇うように身を乗り出したヴァルトだったが、迎撃の一撃すら間に合わず、二人は凄まじい衝撃波に弾き飛ばされて階段を転げ落ちた。
「ぐっ……、はあ……ッ!」
右腕を失い、魔力を消耗した今のヴァルトには、彼女の剣撃を捌き切る余力はない。
闘技場で見せつけられた、竜化した身体を一撃で両断するあの切れ味。その恐怖が、冷たい汗となって背中を伝う。
(あれは恐ろしい一撃だった)
ヴァルトは激痛に耐えながら、剣を構える。
(そういやあの女、ラインハルトの村の復讐とか言ってたな…)
ヴァルトは長階段から冷然と見下ろすビャクを睨みつける。
彼女の腰には、まだ抜かれていないもう一振りの宝剣が鎮座していた。
(そうか!あれこそが本物の『竜殺しの剣』だ。
あの村で俺たちが回収した剣は偽物だったのか……あるいは、最初から対として二本存在していたのか)
すべての断片が、ヴァルトの脳内で一つの結論へと収束していく。
銀竜ラインハルトの村の出身。
本物の『竜殺しの剣』。
そして、その使い手としてかつて五竜の一人に数えられた、伝説の男……。
確信を得たヴァルトは、荒い息を吐きながら問いかけた。
「……お前のその剣、そしてその身のこなし。貴様の師匠は、五竜の一人『ジーク』だな?」
ライルは、向けたくない剣を握り締めながら、その会話を聞いていた。
問いを投げかけられたビャクは、わずかに目を細める。
「いいや。ジークは私のおじいちゃんだ」
その言葉は、ヴァルトにとって死刑宣告にも等しい衝撃だった。
かつて、あのルナと互角とも称されたジーク。その英雄の血を直接引き、真なる遺産を継承した「正統なる竜殺し」。
満身創痍の自分たちが、今、最も戦ってはいけない相手と対峙していることを、ヴァルトは嫌というほど理解した。




