6-7 白虎の矜持
──地下制御室。
薄暗い室内には、三人の人影があった。
一人は、東洋の装束に身を包んだ細身の女剣士、白虎。
一人は、彼女に叩きのめされ、ボロ雑巾のように転がっている「破壊神」。
最後の一人は、その惨状を震えながら見守る、当番兵の男である。
「……五月蠅い装置だ。これでは、まともに落ち着くこともできん」
静謐な声が地下室に響く。
魔力に敏感な彼女にとって、装置から発せられる妨害波は、城のどこにいても感じる不快なノイズだったのだ。
白虎はその仮面の下で神妙な顔つきをし、装置を睨みつける。
(……駄目だ、仕組みが分からん)
白虎の額に汗が滲む。
(……取り敢えず、叩く……か!?)
白虎は考えることを放棄した。
彼女が目の前の妨害装置を拳で乱暴に叩くと、妨害波が止み、城内を覆っていた不快な結界が晴れていった。
「おっ」
直後、パチパチッと火花が散り、装置からは不気味な黒煙が立ち昇る。
「よし、直ったぞ!」
「えっ? 白虎様、今の明らかに壊しましたよね?」
白虎は口を尖らせると、先ほど自分で叩きのめして気絶させた「破壊神」の襟首を掴み上げた。
「おい。お前の細工のせいで壊れたぞ。一体何をしたんだ?」
勿論、相手は白目を剥いてのびており、答えることなどできない。
「……黙秘か。殊勝な心がけだ」
「白虎様、そいつ、あなたがさっき失神させたばかりじゃないですか」
「……」
白虎の動きが止まる。彼女は掴んでいた破壊神の顔と、衛兵の顔を交互に二度見した。
「いいや、死んだふりだ。おい、起きろ。狸寝入りしてるのは分かってるぞ」
「いえ! それ狸寝入りじゃなくてガチ寝入りです! 口の端から魂が半分抜けかかっているじゃないですか!」
白虎は顔を真っ赤にすると、そっぽを向いて背中越しに怒鳴った。
「やかましい! ……ほら、こいつを投獄しておけ。陛下への報告は私が行く」
白虎は破壊神を衛兵に向かって投げ渡すと、そそくさと玉座の間へと向かった。
だが、たどり着いた玉座の間にガルダスの姿はなかった。
「なんだ、誰もいないのか。まあいい、明日にでも報告するとしよう」
白虎はあっさりと踵を返す。ガルダスの行方を探し回る律儀さを、彼女は持ち合わせていなかったのだ。
――同じ頃。ベルナルドの執務室前。
重い足取りで歩き出したヴァルトが、隣を歩くライルに声をかけた。
「よくやった。……奇跡的にベルナルドを封じることができたな」
「……だけどヴァルト、ガルダスを倒すための切り札を使い切ってしまった」
ライルの表情は暗い。ベルナルドを捕らえた黄金の結界『鳥籠』は、もう手元にはないのだ。
「ガルダスは先の戦争で常に先頭に立ち、周辺国をねじ伏せ、属国化させた生粋の武人だ。
一代で皇帝にまで登り詰めたこの国の英雄……。容易い相手ではない」
会話の内容とは裏腹に、ヴァルトの顔に迷いはなかった。
「だからと言って、俺に後退は無い」
ヴァルトの言葉に、ライルは静かに頷いた。
「勿論だ。俺も同じ気持ちだよ、ヴァルト」
「ライル、ガルダスはこの時間、玉座の奥にある隠し通路先の軍事施設にいるはずだ。基本的に警備はいない。実質、ガルダスの巨大な私室だからな」
自らの武勇のみを信じる皇帝の傲慢か、あるいは自信か。
二人は意を決して、玉座へと続く道に歩を進める。
─その時。
肌を撫でる、針のように冷たい空気が通り抜けた気がした。
直後、低く鈴の鳴るような声が静寂を切り裂く。
「何故、お前が生きている」
こだまが響くその長階段を見上げると、そこには白虎が立っていた。
ベルナルドのそれとは比べ物にならないほどの、狂気にも似た殺気が、鋭い突風となって階段を吹き抜けた。




