5-8 亡者との宴
教会の地下室。湿った空気の中に、骨が軋むような音が響く。
「ゼノス……貴様、死霊術に手を出したか」
ヴァルトが工房で手に入れたばかりの、鋭い輝きを放つ業物を構える。
魔力は健在だ、剣に稲妻を纏わせ、暗闇を青白く照らし出す。
「手を出したのではない、私自身が『術』そのものになったのだよ、ヴァルト」
顔のないゼノスが手をかざすと、地下室の温度が急激に下がる。
同時に、背後のミラが不自然な角度で腕を振り上げ、目にも留まらぬ速さで斬りかかってきた。
「死ね、ヴァルト!そして仲間に迎えてあげる。」
脳が露出した頭を振り乱し、ミラが笑う。
ヴァルトはミラの斬撃を力任せに弾き返すと、即座に稲妻の奔流を放った。
バチバチバチ!
並の戦士なら即死する一撃だが、死霊化したミラは焼かれながらも前進を止めない。
「フン、しぶといな」
ヴァルトの動きに淀みはない。卓越した剣技と魔法が、狭い地下室で火花を散らす。ゼノスの放つ氷の礫を斬り捨て、ミラの手首を斬り飛ばす。
だが、ゼノスの本体を叩かねばこの泥仕合は終わらない。
ヴァルトは隙を突き、ゼノスの胸中央――肋骨の隙間で禍々しく脈打つ「黒い結晶」、死霊となったゼノスのコアを見定めた。
「そこか!」
ミラの追撃を背中で受け流し、ヴァルトは一閃。稲妻を凝縮させた切っ先が、ゼノスの心臓部にある結晶を貫き、粉砕した。
一方、村の工房。
ライルは、床を転がるゴルザの頭部と、そこから立ち上がった「胴体」を凝視していた。
「ライル……お前…美味そうだな……」
頭部のない胴体が、巨斧を振り回して突進してくる。同時に、工房の暗がりからもう一つの影が這い出してきた。全身が炭のように黒ずみ、服さえ肌に焼き付いた男――カインだ。
「カインまで……!」
ヴァルトの稲妻に焼かれた男。彼は声もなく、ただ黒焦げの手を伸ばしてライルに迫る。
ライルは咄嗟に工房の長剣を掴み、迎え撃った。ゴルザの力任せの斧を紙一重でかわし、カインの細い腕を切り落とす。だが、カインは止まらない。
欠損した箇所から黒い霧を噴き出しながら、ライルの喉笛に食らいつこうとする。
「俺を……地獄へ連れて行く気か!」
ライルは叫び、全身のバネを使ってゴルザの胴体を蹴り飛ばすと、転がっていたゴルザの頭部を剣で貫いた。
動きが止まった一瞬の隙を突き、カインの胸を深く突き刺す。かつての戦友に二度目の死を与える重圧を、ライルは気合で跳ね除けた。
─再び教会の地下。
ミラとゼノスを動かぬ肉塊へと変化させたヴァルトは、エメラルドグリーンの水槽へ歩み寄る。
「ラインハルト……お前の力、いただくぞ」
剣の柄で水槽を叩き割ると、妖しく輝く液体とラインハルトの肉片が溢れ出した。
ヴァルトはその泥濘の中に膝をつき、ラインハルトの傷口から流れる「竜の血」を自らの体に塗りたくり、飲み干した。
「あああああぁぁぁッ!!」
ヴァルトの背中に、かつての銀色の翼の幻影が浮かび上がる。失ってていた竜の力の一部をその身へ吸収した。
夜の静寂が戻った村の広場で、ライルとヴァルトは合流した。
互いに血と泥にまみれ、見るも無惨な姿だったが、ヴァルトの瞳には凄まじい力が宿っていた。
「遅かったな、ヴァルト。死体と踊る趣味があったのか?」
「フン、貴様こそ。戦友との再会を楽しんでいたようだな」
ヴァルトは手に馴染んだ魔法剣を鞘に収め、不敵に笑った。
「ライル。今のままでは帝国に潜入しガルダスを粉砕するにはまだ足りん」
「……どうするつもりだ」
ヴァルトの瞳に、かつての鋭い野心が戻っていた。
「最強の戦力を引き入れる。帝国軍を単騎で足止めし、あのガルダスに唯一『敗北』の恐怖を刻んだ力だ」
「最強の戦力……?」
「王国へ向かうぞ。そこに、かつて最強と謳われた『金剛姫』ルナがいる。彼女を味方に付ければ、帝国の城壁など紙屑に等しい」
「ルナだって!?お前そんなおとぎ話を信じているのか?」
「ルナは実在する、貴様もかつてその戦いぶりを目撃したはずだ、メルランとの戦闘で」
ヴァルトが示した次なる目的地。
ライルは、預けてきたシエラの無事を祈りながら、再び馬の背に飛び乗った。




