表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった  作者: ちんくろう
5章 元帝国騎士ヴァルトとの禁断の共闘 〜事件の全貌と造られた真実〜
40/42

5-6 全てが始まった場所

王国の外れへと続く街道を、二頭の馬が駆け抜けていく。

背後の王国が遠ざかる中、ライルは隣を走るヴァルトに声を張り上げた。


「……なぁヴァルト、一つ聞かせてくれ。ベルナルドが家族思いだっていうのは本当なのか? あの堅物な剣聖が、そんな理由で動くとは到底思えないんだが」


ヴァルトは前を見据えたまま、答えた。


「あいつはかつて、戦で先妻を亡くして廃人同然だった時期があるらしい。今の後妻と子供に救われて今や帝国でも有名な愛妻家だ。……どんな強者にも『拠り所』はある。そこを奪えば、ガルダスの命令など無視するのは明白だろう」


ライルは、最強の騎士の意外な人間味に複雑な感情を抱いた。だが、自分たちがやろうとしていることは、その「拠り所」を蹂躙することだ。その罪悪感を振り切るように、ライルは馬の腹を蹴った。


やがて二人は、高い城壁に囲まれた異様な静寂を放つ一画にたどり着いた。


新興宗教の施設――「聖域」と呼ばれるその場所で、ヴァルトは奥から出てきた白髪の老婆と短く言葉を交わす。

かつての恩を売り交渉しているのだろう。

老婆は深い皺の刻まれた顔を歪めて微笑み頷いていた。


「……シエラ」


ライルは、馬から降りて震えている少女の肩を抱いた。


「ここにいれば安全だ。あいつら……帝国の憲兵も、ここまでは手が出せない」


「ライル……行っちゃうの?」


不安げに見つめるシエラの瞳を、ライルは真っ直ぐに見返した。

自分たちがこれから向かうのは、血と泥に塗れた復讐の道だ。

彼女を連れて行くわけにはいかない。


「……必ず、迎えに来る。だから、ここで待っていてくれ」


ライルはシエラの小さな手を一度だけ強く握ると、あえて振り返らずに背を向けた。


その後ろには、早くしろと言わんばかりの、冷淡な目をしたヴァルトが立っていた。


「さて。次は装備の調達だ。そのなまくらでは、帝国の兵士の鎧すら通らない」


ヴァルトが指差したのは、ライルの部屋から持ってきた予備の古びた剣だった。二人は没収された自分たちの武器に代わる「本物」を求めているのだろう。


「武器なら帝都の闇市でいいだろう。なぜ、わざわざ遠出をする必要がある」


ライルの問いに、ヴァルトは平然と答えた。


「俺の魔法剣に耐えられる業物は、そこらの市場には転がっていない。……心当たりがある。あのラインハルトの村だ。殲滅した際、質の良い武具を揃えた工房があるのを見た。あそこの主は死んだが、備蓄の武具は無事なはずだ」


ライルは非効率だと反論するが、ヴァルトの強引な主張に押し切られる形で、再び忌まわしき「始まりの地」へと向かうことになった。


(武器などおまけだ。あの場所にはまだ、竜の血の『残り香』があるはずだ)


馬を走らせながら、ヴァルトは思う。竜の力を取り戻せれば再び最強の戦力を味方につける事ができる。


数日後。二人がたどり着いたラインハルトの村は、かつての惨劇を物語るように、黒く焼け焦げた廃墟と化していた。


「……酷いもんだな」


ライルが思わず漏らした言葉は、風にかき消された。

かつて緑豊かだった村は、黒く変色した骸のような廃墟と化していた。建物は焼け落ち、炭化した柱が墓標のようにあちこちで突き出している。


ヴァルトは周囲を警戒するように見渡しつつ、足早に村の奥へと進む。


「さっさと工房へいくぞ」


(……感じる。あの忌々しくも強大な『竜の血』の残り香を。やはりここにはまだ、力が眠っている)


その時だった。

無風のはずの廃墟から、カラリと乾いた音が響いた。

ライルは反射的に、腰のなまくらに手をかけた。


「……誰だ」


返事はない。その時、後方の暗がりから、何かが風を切って飛んできた。


ライルは即座に反応し、それを空中で掴み取る。掌の中にあったのは、一機の**「紙飛行機」**だった。

微かな魔力が宿っており、それが無風の村をここまで飛ばせてきたようだった。


気付けばその周囲にはいくつかの紙飛行機が散らばっている。


ライルが掴んだ紙飛行機を広げると、そこには書き殴られた文字があった。


『変な薬を飲まされた。頭が、溶ける……。』

『観察した。見るほどにおかしい。完全に重心が狂っている。』


「なんだこの手紙は?」


ライルは足元に落ちていた次の紙飛行機の手紙も読んだ。


『ワシには見える、スカートの中が、解剖学レベルで』

『喧嘩になった、「直せ」と言われたから。嘘を彫れと。出来るわけがない、私は彫刻家なのだ』


「…!これはバッカスの手紙か!?」


震える文字は、バッカスの芸術家としての譲れない矜持を物語っていた。


『右側の左脚は、左脚の左脚と寸法がわずかに違う。つまりあの脚は強引に移植された別人のものだ。』

『移植された脚は血縁者のものだろうと言った、お前は疲れていると言われた、今度至高で希少な秘薬を飲ませてくれるらしい』


監獄島でよだれを垂らしていたバッカス。彼はその驚異的な観察眼で見抜いてた、血縁者の左脚が王女の右脚に移植されていた事を。それを手紙に託し続けていたのだ。


「何をしている。そんなゴミ、放っておけ」


前を行くヴァルトが、冷たく言い放った。


─!


生存者がいるはずのないこの場所。しかし確実に気配を感じる。それも、ただの気配ではない。じっとこちらを観察しているような、ねっとりとした視線。

廃屋の物陰から、緩慢な動作の人影が見える。


「おい、誰かいるのか?」


ライルが問いかけると、その影はピタリと足を止めた。


「おっ、小僧か……久しぶり、だな」


その声に振り返り、ライルの心臓が跳ね上がった。

そこに立っていたのは、あの日、自分と一緒に捨て駒として死んだはずの傭兵、ゴルザだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ