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5-4 「死」という欺瞞

豪華なシャンデリアが続く特権階級専用通路。

その静寂の中を歩く皇帝ガルダス。半歩後ろにはベルナルドが付き従う。


─!


ベルナルドが違和感を察知し、身を乗り出そうとした時、それをガルダスは手で制した。


「……よい、ベルナルド、下がるがいい」


ガルダスには、生命力を視覚化する特殊な「魔眼」があった。通路の出口、左右に立つ衛兵。その人影に、もはや命の灯火はない。代わりに、右の壁際に淀んだ生命の気配が揺れている。


「はぁ……暗殺を計画するなら、相手の能力くらい把握すべきだ。隠れているのがバレバレだぞ。血の匂いさえする」


出口付近で足を止めたガルダスは、床に張られた細い紐を見下ろした。


「これを踏めば、衛兵の死体が倒れ込んでくる手筈か……」


直後、ガルダスは抜き放った剣で、壁越しに、裏に潜む賊を斬りつけた。


「ぐわっ……!」


悲鳴と共に、脇腹から血を流す男が崩れ落ちる。


「なんと粗末な計画か。せめてベルナルドがいない時を選ぶものだ」


片膝をついた賊が、殺意を込めて顔を上げる。ライルだった。

ガルダスは、かつて闘技場で見た男の顔を思い出す。


「オーウェンの無念、ここで晴らしてやる!」


「貴様、大会の時の負け犬か。腰を抜かして震えていた貴様が、わしに仇討ちだと? いいだろう。今は機嫌がいい、特別に相手をしてやる」


ガルダスの剣に、禍々しい紫黒のオーラが収束していく。

ライルが咄嗟に後ろ手に隠した紐を引くと、頭上から大きな花瓶が落ちてきた。


「……稚拙な策だ」


ガルダスが花瓶を切り捨てた刹那、ライルはその隙を突き、全力で踏み込んだ。


「死ねぇぇぇ!」


剣が届くかと思われた、その瞬間。

ベルナルドが割り込み、ガルダスの視界を遮るように高速の突きを放った。


ライルはその一撃を胸に受け、糸が切れた人形のように仰向けに倒れ、動かなくなった。


「貴様、何をする!」

バチィィィィィンッ!


乾いた音が通路に響く。ガルダスがベルナルドの頬を激しく叩き飛ばした。


「わしがこんな雑魚に後れを取るとでも思ったのか!」


「……滅相もございません。ただ、賊の返り血で陛下のお召し物が汚れてしまうことを危惧いたしました」


「服などどうでもいいだろう!」


ガルダスは荒い呼吸を整え、冷たい目でベルナルドを睨みつけた。


「わしの前で二度と勝手な真似はするな」


「はっ。肝に銘じておきます」


騒ぎを聞きつけた衛兵たちが駆け寄る。


「陛下、何かありましたか!」


「賊が紛れ込んでおった。不備を詫びるがいい。この三体の死体、安置所に放り込んでおけ」


ガルダスは、生命反応が消えたライルを冷たく見下ろすと、鼻息を鳴らしてその場を去った。


死体安置所。

そこは大会で死人が出ることを前提とした不気味な地下室だった。灯りのない闇の中、無数の「骸」が転がっている。

その中の一つが動く。


「……また、生き返ったのか」


むくりと起き上がったのは、ヴァルトだった。

左肩から脇腹まで凄絶な傷跡があるが、出血は止まっている。不思議なことに、胸に刻まれていたガルダスの刻印が、今はかすれ、その効力を失っていた。


「竜の血を使い果たしたか……。だが、これで自由だ」


ヴァルトは何か武器になるものはないかと周囲の死体を漁り、ある遺体の上にかかったシートを剥いだ。


そこには、ライルが横たわっていた。

胸には綺麗な穿孔。だが、それは神業的な精度で急所をわずかに外している。


「こんな事が出来るのはベルナルドだけだ。あいつめ、無駄な殺しを嫌う性質タチは変わっていないようだな」


(まてよ、何故ベルナルドにやられている……ガルダスを暗殺しようとでもしてたのか!?)


ヴァルトはライルの胸に手を当て、力強く心臓マッサージを施した。


「起きろ。ここで寝ている場合じゃないだろ」


「がはっ……!?」


死の淵から、ライルが意識を覚醒させた。

闇の中で、かつての敵と、復讐に失敗した男が静かに見つめ合う。


「……ライル。地獄の続き、やる気はあるか?」

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