5-3 復讐の一撃
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!」
ヴァルトの咆哮が、人ならざる獣の響きへと変わる。
彼の身体から噴き出した魔力は銀色の鱗となり、背からは禍々しい翼が突き出す。
それはラインハルトから吸収した、禁忌の「竜の血」による変貌だった。
銀竜と化したヴァルトが動く。その鉤爪による一撃は闘技場の防壁を粉砕し、女剣士を嵐のような衝撃が襲う。
圧倒的な暴力の前に、女剣士は血を吐き、膝をついた。
銀竜と化したヴァルトが動く。その巨躯からは想像もつかない速さで、鋭利な爪が女剣士を襲。
ドォォォン!
空気が爆ぜるような衝撃。女剣士は紙一重で致命を避けるが、防ぎきれなかった衝撃波で全身の皮膚が裂け、鮮血が舞う。
「どうした、先ほどまでの勢いは」
銀竜の猛攻は止まらない。翼による薙ぎ払いが闘技場の防壁を粉砕し、逃げ場を奪う。
女剣士は天才的な剣捌きで急所への直撃をいなすが、重戦車のような質量攻撃の前に、肋骨が折れる鈍い音が響いた。
「ぐっ……!」
膝をつき、大量の血を吐き出す女剣士。視界は赤く染まり、意識が遠のきかける。
だが、その瞳に宿る復讐の炎だけは消えていなかった。
銀竜は首を高く掲げ、最大出力の咆哮とともに、全てを消し飛ばす「竜息」の予備動作に入る。
「その身にまとった過去も、数多の因縁も、等しく無へと帰してやろう、神に祈れ。」
灼熱の光が放たれようとした、その瞬間。
女剣士は静かに、今まで一度も触れなかった**「二本目の刀」**の柄を握った。
「わたしには祈る神などいない…命を喰らうこの宝剣は、過去も、神も、運命さえも斬り捨てる。お前の肉体ごとこの一太刀で断ち切らせてもらう!」
刹那、世界から音が消えた。
放たれたのは、自身の命さえも刃に乗せた極限の抜刀術。
凄まじい一閃が放たれ、放たれたブレスを真っ向から切り裂き、そのまま銀竜の首から胴体までを一刀両断した。
「が……はっ……!?」
空中に鮮血が舞い、銀竜の姿は無惨に斬り裂かれたヴァルトの死体へと戻る。
静まり返る闘技場。満身創痍の女剣士は、刀を杖代わりにした後、その場へ崩れ落ちた。
「うむ、良い戦いだった!」
特別席では、皇帝ガルダスが立ち上がり、歓喜に震えながら拍手を送っていた。
傍らには、いつの間にか戻っていたベルナルドが静かに控えている。
「ベルナルド、あの女を回収するんだ。特殊部隊に組み込み、望むもの全てを与える破格の待遇で迎え入れろ」
「はっ」
その後ガルダスは軽く舌打ちし、冷徹に思考を巡らせる。
(ヴァルトの奴、ラインハルトから奪った『竜の血』を隠し持っていたか……。皇帝の刻印を刻まれながら、よくも隠し通していたものだ、まあいい、これで1つの竜の脅威は完全に消えただろう…)
ガルダスは次々と残酷な命令を下していく。
「漆黒の騎士と決勝の大男も帝国へ連れて行け。刻印を刻み、魔塔で強化術を施すのだ。……実験に耐えられず死ぬならそれまでだがな」
「はっ。仰せのままに」
「ふん、満足だ。帰るぞ」
「陛下、表彰式は見られないのですか?」
「そんなつまらない式など知るか、お前も出なくてかまわん」
ガルダスは背を向け、悠々と特権階級専用エントランスへ続く長い通路を歩き出した。
半歩後ろを、影のようにベルナルドが従う。
皇帝は、自らの気まぐれが「最高の駒」を手に入れたと信じて疑わなかった。
その通路の先に、自分を殺すためだけに地獄から這い上がってきた**「死神」**が待ち構えているとも知らずに。




