5-2 地獄からの復讐者
「何奴だ! 下がれ、無礼者め!」
槍を構え、一斉に詰め寄る衛兵たち。その中心で、仮面の女剣士は不敵に肩を揺らした。
「私の飛び入りに盛り上がっているじゃないか。お祭りなんだから認めてくれよ。」
鈴を転がすような声。だが、その背後に渦巻く殺気は、先ほどまでの「剣聖」ベルナルドのそれすら凌駕していた。
特別席から身を乗り出した皇帝ガルダスが、愉悦に瞳を細める。
「……相手はわしか?」
「いやいや。あんたじゃない。そこの、隣の男だ」
女剣士の刀が指し示したのは、ヴァルトだった。
一瞬の沈黙。指名されたヴァルトは眉根を寄せ、ガルダスは耐えきれないといった風に爆笑した。
「クク……ハハハハハ! ヴァルト、指名されているぞ! 面白い、余興だ。行け。この女を八つ裂きにして、観客を喜ばせてやれ」
皇帝の命令は絶対だ。ヴァルトは重い足取りで闘技場へと降り、女剣士と対峙した。
「……この俺に何の用がある、貴様何者だ。」
「ああ、私はこういう者だ」
女剣士は腰の収納魔道具に手を伸ばし、何かを取り出した。そしてそれを、ゴミでも捨てるかのようにヴァルトの足元へ放り投げる。
ゴロリ、と。
地面を転がったのは、血の気の失せた男の生首だった。
「グ……グレンッ!?」
ヴァルトの顔が驚愕に染まる。かつての戦友、先ほど死亡した男の無惨な姿。
「アルバスのもあったんだが、腐ってしまったので捨てたよ」
「き、貴様ぁぁぁッ!!」
怒りに狂ったヴァルトが、腰の剣を抜き放つ。
刹那、彼の剣から激しい稲妻がほとばしった。帝国でも上位に位置する魔法剣士ヴァルト。その一撃は落雷の如き速度で女剣士を襲う。
だが、女剣士は刀でそれを弾き返す。
キィィィィィィンッ!
火花が散り、稲妻が四散する。
「なっ……!?」
ヴァルトの猛攻を、彼女は一歩も引かずに受け流し、逆に鋭い斬撃を叩き込んだ。
激しい剣戟の音。魔法を纏ったヴァルトの剣と、ただの鉄とは思えぬ鋭利な刀が激突する。
互角――いや、女剣士がじりじりとヴァルトを押し込み始めていた。
「お前は何者だ! なぜ我々を狙う!」
死の気配を察知したヴァルトが、防戦一方の中で叫ぶ。
「お前たちは私の村を滅ぼした。その罪、死刑をもって償わせてやる」
「村……だと?」
復讐。ターゲットは特殊部隊。村の殲滅。ヴァルトの脳裏に、数ある虐殺の記憶の中から一つの光景が浮かび上がった。
「……ラインハルトの村の、生き残りか」
「そうだ。お前ら全員、地獄へ送ってやる。お前が最後の一人だ」
ありえない、とヴァルトは戦慄した。
(あの村は焦土と化し、生存者など一人もいなかったはずだ)
「私は見ていた。ラインハルトに石化され、石の中に閉じ込められ……目を閉じることも、耳を塞ぐこともできず! お前たちが村を蹂躙し、皆を殺していく様を、一秒残らず見ていたんだッ!!」
凄まじい絶叫と共に、女剣士の剣筋が加速する。
激情に任せた剣ではない。それは研ぎ澄まされた、呪いにも似た執念の剣。
「ぐ、あああああッ!」
防具が引き裂かれ、ヴァルトの体に鮮血が舞う。劣勢は明らかだった。
ヴァルトの脳裏に、最悪の結末がよぎる。
(強い、負けるかもしれない……だが逃げでもしたら陛下に殺される。……出すしかないのか、あの力を。だが、あれを陛下に見られれば俺はただでは済まない……!)
逡巡するヴァルトを見透かすように、女剣士が冷たく告げた。
「お前を殺すのは簡単だがすぐには殺しはしない。皆の苦しみを、その身に刻んでから死ね」
その言葉が、ヴァルトの最後のリミッターを外した。
「……ほう。ならば、こっちも貴様を殺すのは簡単だということを見せてやろう。『竜』の力を!」
ヴァルトの身体から、先ほどまでの稲妻とは比較にならない、禍々しい圧力が溢れ出した。




