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暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった  作者: ちんくろう
4章 皇帝ガルダスの負けたら死ぬ闘技場 〜復讐を誓う男は絶望の淵で刃を研ぐ〜
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4-9 2つの誓い (4章完)

町外れの貧困街、ライルの自室。

そこは簡素ながらも温かみのある空間だった。

シエラはテーブルの上に並べられた料理を何度も確認する。

明日のライルたちの帰りを心待ちにしながら、苦手な獣肉の調理練習をしていた。

パンに獣煮込みのスープを浸し、一口試食する。


「うん、これならあたしでも食べられるわ。パンをしょっぱくするソースと思えば大丈夫ね」


シエラは満足そうに頷く。

しかし、その表情にはどこか無理をしているような影があった。


「ライル達はスープまで美味しそうに飲み干すけど、それはあたしには無理ね…」


好物を振る舞いたいと言う気持ちも勿論あったが、同じ食材を囲み一緒に食べるといったありきたりの幸せを、シエラは大切にしていた。


「乙女の髪を売ってまで買ったこのお肉を、不味いなんて言ったら承知しないんだから」


シエラ自慢の金髪は短く刈り上げられている、それは彼女が何かを決意した証のようだった。


部屋には見慣れない歪な馬の彫刻が置いてある。

馬と呼べるかも怪しいその木の塊は、シエラがライルたちの無事を祈って作ったものだ。


慣れない彫刻をした為、シエラの指先には痛々しい生傷がいくつも付いていた。


明日二人が帰ってくるのを待ちきれず、シエラは1人芝居をはじめてしまう。


「おーシエラの作る肉煮込みは、オーウェンにもまさるな」

「ああ、シエラには敵わない、この馬の彫刻も見事だ」

「ふふ、いいのよ2人とも、もっとわたしを称えても」


大きな自分の声で我に返ると、シエラははしゃいでいた事が恥ずかしくなり顔を赤らめる。


(明日2人が帰ってくるまでに料理も彫刻も、もっと完璧にしなくちゃ…)


馬の彫刻を彫り進めながら、シエラは二人の帰りを楽しみに待ち続けていた。


─ガチャ


扉の開く音にシエラが振り返ると、そこにはライルが立っている。

しかし、その表情はシエラが見たことのないほど暗く、憔悴していた。


「えっ、もう帰ってきたの…大会は明日まででしょう!?」


シエラは驚いて駆け寄る。

ライルはゆっくりと部屋に入り、力なく椅子に腰を下ろした。

ライルの様子から、何か良くないことがあったのだとシエラは察した。


「ははーん、負けちゃったのね。

でも無事に帰ってきたから今夜はご馳走にしてあげる。」


しかし、ライルは何も答えず、ただ俯いている。


「あたしとライルの2人分でいい?オーウェンも帰って来ているの?」


シエラが何気なく尋ねた。その瞬間、ライルの肩が大きく震えた。


「オ、オーウェンは…」

「どうしたの?一緒に帰って来てるの?」


そして、ライルはまるで子供のように泣き崩れた。


「死んだ…首をはねられ…殺されてしまった」

(オーウェンが…?そんな…)


シエラは信じられない気持ちでライルを見つめた。

ライルの嗚咽が、静かな部屋に響き渡る。


「ライル…!」

シエラはライルを強く抱きしめると、何も聞かずにただ背中を優しく撫でた。


(ライル…ごめんね。あたし、何もできなくて…)


シエラはライルの背中を撫でながら、静かに目を閉じた。


どれくらい時間が経ったのだろう。

ライルはぼんやりとした意識の中で、身体がゆっくりと浮遊しているような感覚を覚えていた。

何がしたかったのか、何処に行きたかったのか…思考が纏まらず何も分からない…

そうだ確か親友がいたな…思い出すと幸福感に包まれる…

さっきから何かが頬をくすぐっている…


ライルは意識を覚醒させる。


目の前には泣き腫らしたシエラの顔が飛び込んだ。


シエラは暖かいタオルでライルの頬を拭いている。


ライルは闘技場で負けた以降の記憶が曖昧になっていた、いつ帰って来たのかも分からない…

ただ、朦朧としていた間、シエラが献身的に尽くしていた事を理解する。


シエラをそっと抱き寄せる。


「すまない、心配かけたな…

そして帰りを待っていてくれてありがとう」


ライルはガルダスへの殺意を思い出す。


(ガルダスを討つ。それは俺のオーウェンへ対する誓いだ。

だがガルダスは強大、復讐を果たそうとすれば、ほぼ確実に命を落とすだろう…。

もし、俺が死んだら…シエラはどうなってしまう…)


ライルは自分の胸に顔を埋め小さく震えるシエラに視線を落とす。


(置いていけるわけがない…

そしてガルダスを許せるわけもない…)


ライルは両立し難い2つの誓いを立てる。


(例えどんな困難が待ち受けていようともだ)

4章あとがき 豚と呼ばないで


いつものライルの部屋。

今日のライルは鼻眼鏡をかけて何か数式を書いている…


「ふぉっふぉっふぉ、シエラ君、ワシはこの世界の真理に気がついたぞ!レベル上げの効率についてだ!」


「はぁ…それで、何か分かったんですか、博士」


「うむ、通常、主人公と言うのは、指数関数的に強くなっていくのだ!

しかし、何とこの世界ではワシは強くなれんのだ!」


「それは環境の問題じゃなくてライル自身の問題でしょう?ただの努力不足ね」


「もう嫌だ〜、わしゃーもうレベル上げしても全然強くならないんだもん。

やる気が起きんわい」


そう言うとライルはソファーに倒れ込む。


「もー、仕事もせずにゴロゴロしてたら豚さんになっちゃうよ」


「やる気でないブヒー」


シエラはカチンと来てライルの胸ぐらを掴むと、上体を起こさせる。


「いい加減にしなさい、この豚!」


─ビターン


シエラはライルの頬を叩いた。


「ぶ、豚ね…」


ライルは謎の呟きをする、シエラは意味が分からず今度は反対の頬を叩く。


─ビターン


「に、2度も豚ね…」


シエラは意味を理解するとその顔はみるみる青ざめていく…


「ライル…まさか…そんなネタを言うために…」


うろたえるシエラを尻目にライルは口角をあげ、ドヤ顔で決め台詞を言い放つ。


「親父にだって、豚れたことないのにぃー!」


「おっさんにしか伝わらないわよ!」


部屋にはシエラの悲痛な叫びがこだまする。


「ジャロに訴えられたらどう責任とるのよー」

「ブヒー」

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