4-8 友情が終わる刻
開会式という名の死刑宣告が終わり、第1試合という名の処刑が始まる。
会場の静まり返った空気が、ガルダスの癇に障った。
「おい、ヴァルト!この盛り下がりは何だ!貴様の口で説明しろ!」
「はっ、陛下。本大会は陛下の慈悲深さの象徴。
単に人を減らすのではなく、己の力で生を掴み取る機会を与え、さらに陛下に仕えるという最高の名誉まで用意されている。
この静寂は、愚民どもがその御心を理解できぬ為です」
「ふむ、そうか」
「横から失礼いたします」
ベルナルドが静かに口を挟んだ。
「しかし、この静けさは愚民どもに陛下の威厳が損なわれたと誤解させる恐れがあります。」
「全く、せっかくの催しだというのに、民どもは想像以上に愚かだったか。」
「はい、そして、民は死に慣れておりません。ここは緊急措置として、敗者へのご配慮が必要かと。」
ガルダスは顎を引き熟考する。
しばらくの間、特別席は沈黙が支配した。
(つまらん。民も、この試合も…両脇の2人も…)
ガルダスは、心の中で呟いた。
闘技場の中央、ライルとオーウェンが相対する。
「オーウェン、俺はお前と殺し合いなんて出来ないよ…」
ライルは俯き、震える声で言った。
「棄権したい…」
「ライル、昨日あのクソ皇帝が乱入してくるまでは最高だったのにな…」
オーウェンは上を向き、遠くを見つめるように言った。
「俺は賞金も騎士の称号も、観衆の前で強敵と腕比べをするのも、全部楽しみだった。何よりもお前との試合が楽しみだったよ」
オーウェンは、ライルの肩に手を置き、力強く言う。
「もし敗者を殺せと言って来たら、そんな奴ら俺がまとめてぶっ飛ばしてやる!
やろうぜ、ライル。殺し合いなんかじゃない、俺たちの試合を!」
ライルは決意したように顔をあげる。
「俺も…お前との対戦を1番の楽しみにしていた」
ライルは剣を抜き、足を大きく開き構える。
「やってやるかオーウェン!」
「おう!見せてやろうぜ!」
開始の合図と共に互いに飛び込んだ。
ライルは剣を振るいながら思う。
(さっきまであんなに震えていたのに、オーウェンはいつも俺を勇気付けてくれる)
激しい攻防が続き互いに血飛沫をあげる。
(心の問題だけじゃない、オーウェンがいなければ俺はどこかで命を落としていただろう)
ライルの斬撃1つ1つにはオーウェンへの感謝が込められていた。
(お前はいつだって俺のわがままを聞いてくれたな、そうだ試合が終わったら今度は俺がお前のわがままを聞いてやろう)
互いに血を流し、息があがり、動きは鈍くなっていく。
(お前は俺の最高の親友だ!)
オーウェンへの思いを込めて渾身の一撃を繰り出す。
─キーン
ライルはオーウェンの剣を弾き飛ばす。
オーウェンの剣は空中で弧を描くと地面に突き刺さった。
「ライル、お前いつの間にこんなに強くなったんだよ…」
(勝った!俺が、オーウェンに勝ったんだ!)
ライルは勝ちを確信する、親友のオーウェンに勝った事に高揚を隠せない。
「だが、まだ甘ちゃんだな、これからも俺が守ってやるぜ!」
オーウェンは素早く組み付き、ライルの腕を掴むと脳天から地面に投げ落とした。
「勝負あり」
係員の声が響く。
「ライル、お前が強すぎて手加減無し出来なかったよ。」
静まり返っていた会場は盛大に歓喜をあげる。
拍手と喝采が鳴りやまない。
ライルは衝撃で立つことが出来ず、倒れたまま言う。
「勝利おめでとうオーウェン、やっぱりお前は最高だよ」
「そうだろぅ〜、今日も俺がベストバウトだな」
「おいおい、それなら俺も含まれるだろ」
「そうだな、俺達がベストバウトだ!」
ライル上体を起こすが動けずその場に座っている、オーウェンは観客席に手を振り声援に応える。
特別席のガルダスは不気味に言う。
「民が愚かすぎてやむを得まい、敗者の死はひかえるか…
だが、あの勝者は昨日の奴だな…
アイツは今後の成長の為に今試練が必要だ」
ガルダスは特別席から最前列の客席へと移動すると、闘技場の側面の壁に足をかけた。
ガルダスを見たオーウェンは、反射的に怒りが込み上げ、目を血走らせ皇帝を睨みつける。
(クソ皇帝、出てくんじゃねぇ)
ガルダスはゆっくりと闘技場へ飛び降り、オーウェンの前まで歩み寄った。
オーウェンはガルダスを真正面に見据え、鋭い眼光で睨みつけ言う。
「おい皇帝、とっとと引っ込め、ふざけた事をしゃべるなよ」
ガルダスはニヤリと笑う。
「ふっふっふっ、いい気概だな。
次に余が発する言葉はもちろん分かっているだろう?」
ガルダスは息を吸い一拍置いて言う。
「敗者を殺せ」
その一言がオーウェンの逆鱗に触れる。
「出来るわけねぇだろ!
今すぐ引っ込まねぇとてめぇの首が飛ぶぞ!」
「そうか出来ないのか…お前に期待していただけに残念だ…」
ガルダスは剣を抜くと、その剣は黒い炎を纏っていく。
「クソ皇帝いい加減にしろよ!」
オーウェンは湧き上がる怒りを抑えきれず、ガルダスの首元めがけて渾身の一撃を放った。
ガルダスは黒い炎を纏った剣でオーウェンの一撃をいとも容易く打ち払った。
オーウェンの剣はまるでガラス細工のように粉々に砕け散る。
ガルダスは返す剣でオーウェンの首を躊躇なく斬り落とした。
オーウェンの首はまるで花が散るように宙を舞い、鮮血が闘技場を赤く染め上げる。
首はライルの足元に転がり落ち、その目は怒りに満ちて見開かれていた。
「はっ…はっ…オ、オーウェ…がっ」
ライルはパニックになり、まともに言葉を発する事が出来ない。
ガルダスはマントを翻し係員に言う。
「敗者はとっとと退場させろ、死体は速やかに片付け第2試合を準備しろ」
静まり返った死の舞台は、怒号と悲鳴が入り混じる生きた地獄へと姿を変えた。




