4-7 生首が語る恐怖
夜の帳が下り、選手たちは貴族が使用する高級宿舎へと集められていた。
豪華な夕食が並ぶ大広間は、まるで嵐の前の静けさのように、異様な静寂に包まれる。
ガルダスの裁きによる恐怖と絶望が、選手たちの心を重く沈ませていた。
「もし仮に辞退が許されないのであれば、この豪華な宿舎も監禁と変わらないな…」
ライルは暗い表情で呟いく。
「あの皇帝が辞退なんて許しそうにないけどな。
それに明日の本戦からは、惨めな試合をすると首を刎ねられるだろう…」
オーウェンは高級な料理を不味そうにチビチビと食べながら言った。
「なぁオーウェン、仮に勝ち進んでも帝国の騎士に取り立てられるのは俺は断るぞ」
「ああ、願い下げだ」
隣のテーブルでも、似たような会話が交わされていた。
「俺は帰る、じゃあな」
そう呟き、一人の男が立ち上がり足早に去って行った。
後に続くように数人が大広間を後にした。
ライルは彼らの背中を見送りながら、深くため息をついた。
(彼らの気持ちも、分からなくはない…)
ライルは心の中で呟いた。
「よっ、隣りいいか?」
ライルが振り向くと、そこにはノエルがいた。
「お前、負けたのに何でここにいるんだ?」
「リザーバーだってさ。怪我人とか欠場が出た場合、敗者復活があるんだってよ」
ノエルは負けても殺されなかったせいか、その緊張は薄い。
「俺なら断ったな、負けたら殺されるんだぞ」
オーウェンは言った。
「それは言いすぎだって。
そうならベルナルド以外皆死ぬぞ?
騎士に取り立てるなんて出来ないじゃないか」
ノエルが楽観的なのかライル達が心配性なのか、ノエルとの温度感にはかなりの差があるようだ。
「それに俺はまだ諦めてない。
ベルナルドに一矢報いるチャンスを狙ってるんだ」
ノエルは力強く言った。
「まぁ、お前らしいな」
ライルは苦笑いを浮かべた。
三人はしばらくの間静かに夕食をとった。
大広間には時折食器の音と、選手たちの小さな話し声だけが響いている。
しかし、その声もガルダスの恐怖を忘れようとするかのように、どこかぎこちなかった。
食事を終えると選手たちはそれぞれの部屋へと戻っていく。
ライルも自室に戻ると窓から外を眺めた。
宿舎の入り口で警備の騎士と、大会を辞退した選手がもめているようだ。
そこに金髪に白銀の鎧を着た男が駆け寄る、ベルナルドだ。
「直属騎士のエリートさんがこんな夜中に呼び出されるなんて…ベルナルドも大変だな…」
ライルは憐れみの表情を浮かべ呟いた。
「宿舎に戻るように説得しているのだろうか?
しかし帝国の労働環境はどうやっているのやら…」
ライルは帝国騎士に取り上げられる事について、完全に興味を無くしベッドに入った。
(ベルナルド…お前も、この狂った皇帝の犠牲者なのか…?
そして明日の大会はどうなる…)
ライルは不安を抱えながら、眠りについた。
翌日、闘技場は異様な空気に包まれていた。
観客たちはざわめきがらも静まり返っている。
選手たちも開会のために闘技場へ足を踏み入れた。
ライルが闘技場に入るとその異様な雰囲気に息を呑んむ。
その目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。
闘技場の中央に、四つの生首が並べられている。
その顔は、昨夜宿舎を抜け出した選手たちだった。
彼らの目は恐怖に歪み、口は絶望を物語るように開かれていた。
(こんな…!こんなことが…!)
ライルはその光景に言葉を失った。
全身に氷が張り付いたように恐怖が体を駆け巡る。
(辞退も、許されないのか…!)
ライルは怒りと恐怖で拳を強く握りしめる。
ガルダスへの憎悪が、心の奥底から湧き上がってくるのを感じた。
係員の声が響く。
「そこに並ぶ首は本大会で不正を行った者たちです。
皇帝陛下の作る法は絶対であり、選手達は真摯に従うようお願いします」
オーウェンは全身を震わせる。
「何だその嘘だらけの説明は!
マジでふざけんな、俺たちの命を何だと思ってやがる!」
無茶苦茶な説明に選手達は不安を隠せない。
不気味な空気に包まれて本戦が開始される。




