4-5 それぞれの勝利
開戦の合図が響き渡ると、ライルは腰を落とし身構えた。
対戦相手の騎士は2、3歩詰め寄り、にやけた笑みを浮かべて話しかけてきた。
「どうか、私に花を持たせてはいただけませんか?
報酬は弾みますので…」
試合開始早々、騎士はライルに不正を持ちかけてきた。その目は、ライルの力量を侮っているようだった。
ライルは相手の言葉を無視し、牽制の一振りを放った。
その一撃で騎士の鎧胸部に傷が付けられた。
「ぎ、銀貨20枚でどうですか?」
騎士は焦ったように金額を提示してきた。その目はまだ諦めていないようだった。
ライルは構えたまま鋭い目つきで騎士との距離を詰めた。
「わ、私に恥をかかせると、傭兵を雇い報復しますよ!脅しではありません!」
騎士は必死に脅し文句を並べ立てた。
その目は恐怖に歪んでいた。
「お前、少し黙った方がいいな」
ライルは冷たく言い放ち、上段に構え飛びかかった。
その動きは騎士に考える暇を与えないほど速かった。
「ま、まいった!」
騎士は剣を振るうことすらできず、膝をつき掌をライルに向け降参の意を示す。
その顔は絶望に染まっていた。
「拍子抜けだ…」
ライルは呆れつつも勝利が確定したことに安堵し、周囲の試合に目をやった。
まずアーザスのブロックを見る。
アーザスは大の字に倒れており、巨体の剣士は、やり過ぎたかと頭を掻いていた。
「あちゃー、まぁそりゃそうだよな…」
ライルはアーザスの惨状に苦笑いを浮かべた。
続いてライルはノエルの試合に視線を移す。
対戦相手は剣聖ベルナルドだ、注視しておく必要がある。
ノエルは剣に炎を纏わせ激しく攻め立てていた。
炎は一振りごとに美しい軌跡を描く。
(ノエルは、ああやって相手を誘導し、退路を狭めてから仕留めるんだよな)
ライルは心の中でノエルを応援する。
いつの間にかベルナルドの左右には炎の壁があり、正面からはノエルが炎を纏った斬撃を繰り出していた。
ベルナルドは素早く無駄のない動きで、ノエルと体を入れ替えた。
ノエルが向き直り再び剣を構えると、その顔は苦痛に歪んでいた…。
よく見ると眉間からは血が滴り、鎧の胸部と腹部には小さな穴が空いている。
(いつの間に突いたんだ…全く気付かなかった…)
ライルは驚愕した。
ノエルはその場で剣を振り、複数の氷の刃を飛ばした。
氷の刃はベルナルドの直前でバリアに弾かれたように砕け散った。
(あいつ、全て高速で撃ち落としたぞ…なんて速さの突きだ…)
ライルは見ているだけで額に汗が滲んだ。
ノエルは先ほどの倍はあろうかという手数で、氷と火球を飛ばした、出し惜しみなどしていられる状況ではなかった。
ベルナルドが撃ち落とした魔弾が地面に衝突するたびに、土埃があがる。
ノエルは左手に持った剣に炎を纏わせると、右手には魔力で氷の剣を作り、二刀流に構えた。
(氷の剣だと…あんなの見たことないぞ。ノエルが大会に向けて開発した新技か!?)
ライルはノエルの新技に期待を抱く。
ノエルは土埃の中に揺らめくベルナルドの像に炎剣で斬りかかった。
剣は空振りし、後方からノエルの首の横にレイピアが添えられた。
気が付くとベルナルドはノエルの背後に立っていた。
「ここまで読んでいたぞ!」
ノエルはそう叫ぶと右手の氷の剣を逆手に握り、後方のベルナルドへ突き刺そうとした。
その瞬間、氷の剣は刃の根本から崩れ、柄のみになった。
「既に砕かれていたのか…降参だ…」
「良い戦いだった」
ベルナルドは静かに言った。
その表情は穏やかで、ノエルへの敬意が感じられる。
ベルナルドの強さに、客席から歓声があがる。
ライルは目を丸くしてベルナルドの言動を見ていた。
(ヴァルトと同類と決めつけていたが、あいつ紳士じゃないか…)
その隣りでは激しい金属音とともに鉄火花を散らす。ウルヴァリンの圧倒的な手数の前に、オーウェンは防戦一方になっていた。
(お前ならやれる!勝つんだ、オーウェン!)
ライルは拳を握りしめ、劣勢のオーウェンに応援の念を送る。
剣闘士の攻撃はオーウェンの上腕に当たり、オーウェンの返す剣は剣闘士の腹を掠めた。
オーウェンの攻撃も当たってはいるが、ダメージレースでは明らかに負けている。
オーウェンは剣を振り下ろす。
剣闘士はパンチを繰り出すようにウルヴァリンで受けると、爪を剣に絡めた。
剣を制され無防備になったオーウェンに、もう片方のウルヴァリンで斬りつける。
「ぐっ!」
オーウェンは胸から血飛沫をあげ、後方に吹き飛んだ。
(ウルヴァリンは剣と絡むのか、やっかいだな…)
胸を傷を手で押さえた後、オーウェンは再び構え直す。
剣闘士は素早く距離を詰める。
その体力は無尽蔵なのか、スピードは落ちることなく、オーウェンに襲いかかった。
剣闘士のとどめの一撃と言わんばかりに、強く重い右の突きを繰り出した。
その時、オーウェンはとっさに閃く。
剣闘士の突きを剣で叩くように受けると、今度はオーウェンが剣でウルヴァリンを絡みつけた。
そのまま剣を下段に持っていき、背骨を軸に時計回りに身体を捻る。
剣闘士は右手を絡め取られ、うつ伏せに倒された。
(しまった!)
剣闘士はそう思うと、体勢を立て直そうとする。
オーウェンはその無防備な背中越しに側頭部を踏みつけようとした。
剣闘士は咄嗟に右手のウルヴァリンを離すと、距離を取り立ち上がった。
オーウェンは乱れた呼吸を悟られないように、息を整え強気に言った。
「あれれー、形勢逆転かぁ?」
そして剣に絡んだウルヴァリンを後方に投げ捨てる。
「武器を1つ奪った程度で形勢は変わらん」
呼吸を乱すことなく冷静に返答する。
剣闘士は飛び込み再び無数の攻撃を放った。
やはりオーウェンは防戦一方だ。
剣闘士の攻撃がオーウェンの腹部に当たり、オーウェンは体勢を崩す。
「これで終わりだ」
剣闘士はとどめの一撃を放った。
「お前が馬鹿で助かったぜ」
オーウェンは剣でその一撃を受けると、そのままウルヴァリンを絡め取った。
今度は先ほどの動きを反転したように反時計回りに回転し、再び剣闘士を転ばせた。
(くそっまたか!)
剣闘士は焦る、武器を離せば負けがほぼ確定することを理解していた。
しかし、オーウェンの動きは素早く、抵抗する暇もなく無慈悲に剣闘士の側頭部を踏みつける。
剣闘士はそのまま気を失った。
「そこまで!」
係員の声がオーウェンの勝利を告げた。
大逆転劇に会場は割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。
「やったな、オーウェン!格上相手に大金星じゃないか!」
ライルは我が事のように喜び、オーウェンに駆け寄り友を称えた。
「へへっ、ライル。今日のベストバウトは俺が貰ったぜ!」
オーウェンそう言い、ライルと抱擁をかわした。
歓声が止まないなか、特別席ではガルダスがより不機嫌そうに舌打ちをした。
「ヌルい試合ばかりしやがって…
闘技場へおりるぞ」
ガルダスはヴァルトを促し、闘技場へと向かっていった。




