4-4 さらなる強敵
闘技場では午後の試合が始まっていた。
闘技場東側の控室にはライル、オーウェン、ノエル、そしてギルドの新人がいる、当然西側控室にはベルナルド達がいるだろう。
ギルドの新人は赤い巻き毛のやや細身、年齢はかなり若そうだ。
新人は祈るように顔の前で手を組み、大量の汗を滲ませ座っている。
オーウェンが新人に話しかける。
「緊張してるのか?そんな時は先ず深呼吸だ、ゆっくり息を吐け落ち着くだろう?」
「あーざす!」
「後は自分で脚を揉むのもいいな、震えが止まるぞ」
「あーざす!」
オーウェンは少し顔あげると、笑みをこぼす。
「ははっ、お前面白い返事をするなあ。
声を出すのもいいぞ、一緒に発声しようか」
控室の隅では、オーウェンと新人が『あーざす、あーざす』と掛け合いをはじめた。
(何やってんだ、あいつらは…)
ライルは呆れて2人を見ていた。
観客席からは午前の試合とは打って変わり、静まり返った空気が漂っていた。
原因はもちろん皇帝ガルダスが視察に来ている為だ。
「ちっ、期待して来てみれば雑魚ばかりではないか。」
ガルダスは不機嫌そうに言う。
「しかも、雑魚の癖に誰も死んでいないとは…。
人減らしもこの大会の目的だというのに…」
ガルダスは、退屈そうに頬杖をつき、闘技場を見下ろした。
「特定の種が過剰に増えると、より強い捕食者が現れてしまう。
次の試合からは、わしが直接…」
傍らに控えるヴァルトは、ガルダスの言葉に一切反応せず、ただ冷たい視線を闘技場に向けていた。
「次のグループ、入場するように」
係員の低い声が響くとライル達が入ってくる。
オーウェンは新人の肩に腕をかけ発破をかける。
「男を見せろ、今日からお前の伝説がはじまるんだ、アーザス」
「イエス隊長!やってやるであります!」
新人はいつの間にかアーザスと呼ばれていた。
控室での緊張は嘘のように、はつらつとした表情で闘志を燃やしている。
ライルはオーウェンの対応に感心した後、ふと客席を見ると驚愕する。
「予選なのに皇帝が来ているだと!?
しかも縁起の悪い事にヴァルトもいるじゃないか!」
動揺するライルを見たノエルは釘をさす。
「目の前の相手に集中しろ、ライル」
ライルはノエルの言葉にハッとし、反対側から入ってくる4人の選手を順々に見ていった。
向かって1番左の男、『剣聖』の称号をもつベルナルドだ。レイピアの達人で正確無比な神速の突きを放つと言われている。
(皆ベルナルドが勝つと思っているだろう。
だが、ノエルだって凄腕だ、必殺の魔法剣が当たれば分からないぞ)
その隣り、剣闘士のチャンピオンと言われている奴隷身分の男。浅黒い肌に両手にはウルヴァリンを装備している。
(かなり分が悪そうだが、俺はオーウェンの強さを知っている、どっちが勝つか分からない…)
ライルは右から2番目の男を見た。
爵位を持つ騎士で、装飾の細かい高級そうな装備をしている。
ライルの対戦相手だ。
(腕は大したこと無いだろう…
しかし、ここにいるという事は午前の試合で勝ち抜いている証拠。
武具にいたっては、おそらく全て1級品だ。
油断は禁物、何か隠し玉を持っているかもしれない…)
最後に1番右、アーザスの対戦相手を見る。
身長は2m位の巨体で、普通なら両手で持つであろうロングソードを二刀流で持っている。
黒く長い髪をたなびかせ、落ち着いたその佇まいは得も言えぬ風格さえ感じる。
(俺達は誰が勝つか分からない…ただ確実に言える事はアーザスの勝利だけは絶対に無いだろう…)
各自担当のブロックへ向かった。




