4-3 皇帝の眼光
試合開始の合図が鳴り響くと、闘技場は一斉に土埃が舞い上がった。
ライルの相手戦士は、腰を落とすと盾を構え距離を詰める。
盾の陰から覗くショートソードは、まるで獲物を狙う獣のようだ。
そして戦士の眼光には、獲物を決して逃さないという強い意志が宿っている。
(相手は距離を潰す狙いだ、間合いを保つぞ)
ライルは両手持ちの剣を構え、戦士の周囲を回り隙を伺う。
観客席からは息を呑む声が、そして、闘技場のあちこちでは剣がぶつかり合う金属音が響く。
相手の戦士は盾を構えた姿勢で、獲物を追い詰める猛獣の如く踏み込んだ。
ライルは咄嗟に剣で反撃する。
その時、相手の口角が僅かにあがる。
戦士はライルの攻撃のタイミングを完全に把握し盾で難なく防ぐと、ライルの首元めがけてカウンターを放った。
─ブンッ
ライルは上体を反りそれを躱すと、前髪は風圧で舞い上がり、まるで全身を鋭い刃でなぞられるような感覚に襲われる。
ライルはタイミングを把握されている事を理解すると、あわてて距離をとる。
「どうした若造…逃げてばかりでは勝負にならんぞ」
戦士の哄笑が、闘技場に響き渡る。
その声は、ライルの焦りを煽るようだった。
戦士は強引に距離を詰める。
(まずい、タイミングは悟られている…)
ライルの額には汗が滲む、しかし、彼は必死に集中力を研ぎ澄ませた。
戦士が眼前に迫ったその瞬間。
─ドゴッ
ライルは剣ではなく、足で戦士の脛を蹴り飛ばした。
戦士は予想外の攻撃に体勢を大きく崩す。観客席からは、驚きの声が上がる。
ライルは、その一瞬の隙を見逃さなかった。
「隙あり!」
ライルは渾身の力を込め、戦士の脇の鎧の隙間を狙い、剣先をねじ込む。
「ぐっ…!」
戦士は脇から血を流し、膝をついた。ライルは剣を抜くとそのまま天高く剣を振り上げる。
「参った!」
ライルの心に不安がよぎる…ライルは審判と客席のベルナルドを横目で確認する。
(まさか…相手が死亡するまで戦うのか…)
「勝負あり!」
審判の声が響く。
ライルは大きく息を吐くと剣を鞘に納め、膝を付いている相手に手を伸ばす。
「お疲れ様でした」
「俺もヤキが回ったか…」
相手は手を取り起き上がり、ライルの背を軽く叩くと、肩を落として去っていった。
(そうだ、これはどちらかが死亡するまで続けられる奴隷の剣闘ではない、試合なんだ)
そう思うとライルの心の支えは楽になった。
出口の通路に向うと、オーウェンが腕を組んで待っていた。
「よっ、勝利おめでとう」
「なんだオーウェン、お前はもう終わってたのか」
「このオーウェン様をなめてもらっちゃ困るぜ、瞬殺劇を見せたかったな」
2人は互いの健闘を称えると闘技場を後にする。
時刻は昼になり、ライルとオーウェンは選手に用意された食堂にいた。
「騎士は普段こんな豪華な料理を食べてるのか」
ライルは驚いた様子で言う。
「騎士に選ばれれば毎日最高だな」
オーウェンも頬張りながら言うと更につづける。
「午後にもう1勝し、明日も勝てば明後日の決勝に進出出来る。
そうなれば騎士に選ばれる確率はかなり高くなるらしいな。」
そう言った後、1人の男がやって来た。
「おっライルにオーウェンじゃないか、俺も同席いいか?」
現れたのはノエルだ。
「なんだ参加してたのか、怪我はもういいのか?」
ライルが尋ねる。
「そんなのとっくに回復してるよ。
それよりもこれを見てくれ、次の対戦表を貰ったんだ。」
3人は広げられた午後の対戦表を覗き込む。
「次の俺の相手ベルナルドなんだよな…」
ノエルはがっかりした表情で告げる。
「うわ、ご愁傷さま…てか俺の相手もエグいな…」
オーウェンの相手は剣闘士のチャンピオンだった。
「俺はおぼっちゃま騎士か、これは楽勝だな」
ライルの相手は爵位のある騎士で、戦闘経験はほとんど無い貴族の人物だ。
落ち込むノエルを弄りつつ、3人は談笑に花をさかせた。
その頃、闘技場の特別席には黒い鎧を着た男が威厳と風格を漂わせ椅子に座わる。
その男こそが、皇帝ガルダスであった。
右側にはヴァルト、左側にはベルナルドを従えている。
ガルダスは足を組み、虫けらでも見るように、不気味に闘技場を見下ろしていた。




