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暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった  作者: ちんくろう
4章 皇帝ガルダスの負けたら死ぬ闘技場 〜復讐を誓う男は絶望の淵で刃を研ぐ〜
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4-1 月影草の願い

シエラの髪は、星々を閉じ込めたように輝いていた。

絹糸のように滑らかな髪を梳きながら、彼女は小さくため息をついた。


「ああ、早く伸びないかなあ…。」

「伸ばしたいのか?変装のため外では必ず帽子を被るのに、意味がないと思うがな。」


鏡に映るシエラの美しい髪に見惚れながら、ライルはからかうように言った。


「ライルには分からないの、髪は乙女の宝なのよ。」

シエラはふくれっ面で言い返した。


その時、玄関からノックが聞こえた。

「オーウェンだ、準備は良いか?食材の買い出しに行こうぜ。」

オーウェンの明るい声が聞こえた。


「今行く!」

シエラは髪をまとめ、頭にバンダナを巻くと急いで玄関へ向かう。


市場へ向かう道すがら、ライルはシエラの髪に目を留めた。


「シエラの髪がもう少し伸びたら、髪結いに売りたかったんだがなぁ。」


「切りはしないわよ!これからもっと伸ばすの」

シエラはライルの言葉に反発した。


「まあまあ…、なぁシエラ俺ら2人はコロシアム参加のため、3日ほど家を空ける。留守は頼んだぞ。」

オーウェンは、そう言いながら、シエラの頭を撫でた。


「3日の暇つぶしに、刺繍道具でも買おうかしら。」


「どこにそんな金があるんだよ。昔の婦人はな、戦地に赴く旦那の無事を願って馬の彫刻を家に飾って待っていたらしいぞ。シエラも見習え。」

ライルは呆れて言った。


その時、オーウェンは何かを思い出したかのように言った。


「そう言えば、昔俺が入院したときにな、ライルは泣きながら馬の彫刻を彫ってたっけ。ぷぷっ。」


「おい、その話は言うな。」


ライルは顔を赤らめ顔を伏せる。

ふとライルの視線に道端の雑草が飛び込んできた。


「おや、これは…。」

ライルは赤い花の雑草を指さした。


「この前植物に詳しい魔女が言ってたんだが、これは月影草といって本来青い花なんだがまれに赤く咲くらしい。

赤く咲いた花を大事に育てると願いが叶うって迷信があるらしいぞ。」


「へ〜。」

シエラは全く興味なさそうに相槌を打った。


市場に着くと、3人は食材を探し始めた。


「ライル、そのお肉は臭くて苦手なの。今日は魚と鳥中心にしてくれる?」

シエラは、獣肉をカゴに入れようとするライルに釘を刺した。


「なんだよ、この臭みがうまいんじゃないか。パンと良くあうぞ。」


「あの肉煮込み料理はあたしは苦手なのよ。今後禁止にして欲しいくらいだわ。」


「昔オーウェンに作って貰ってなぁ、いやぁ美味かったなぁ。あれ以来好きになってた。

だが、おこちゃまには理解出来ないか。」


ライルは、肉煮込みの味を思い出すと、自然と過去の記憶が蘇ってきた。


───

薄暗い山の中で焚き火の前で食事の用意をする。


「うまいなぁ、この肉煮込みは。」

オーウェンは、豪快に肉にかぶりつきながら言った。


「ああ、お前が作ってくれた料理は、どんな高級料理にも勝るよ。」

ライルもまた、満足げに頷いた。


あの時、2人は敵地で迷子になり、数日間山にこもって生活していた。

食料は尽き、疲労困憊だったが、ライルが狩ってきた獣をオーウェンが調理した肉煮込みは、2人にとって最高の贅沢だった。


こいつといればどんな窮地も乗り越えられる、オーウェンの存在はライルをそんな気持ちにさせてくれていた。

───


ライルは獣の肉を棚に戻すと代わりに鶏肉を手に取った。


買い物が終わりライルの部屋に戻る。

今日はオーウェンも夕食に呼んでいた。


ライルは荷物を置き、剣の手入れを始める。


「いよいよ明日からか…」

ライルは、剣に映る自分の顔を見つめながら呟く。


オーウェンはギルドでもらってきたチラシを眺めている。

「今回のコロシアム、相当な猛者が集まっているらしい。

特に、あの『剣聖』ベルナルドは、間違いなく優勝候補だろう」

オーウェンの言葉に、ライルは頷く。


「ああ、奴は別格だ。

だが、俺も負けるつもりはない」

ライルは、剣を鞘に納め、静かに目を閉じた。


シエラは、夕食の準備を進める中、2人の様子を心配そうに見つめる。


その夜、シエラは眠れずにいた。

部屋のベランダには、帰り道そっと持ち帰った月影草が鉢に植えられている。


シエラは月影草に優しく水をかけ、本人の前では伝えられなかった思いを語る。

「どうか、2人とも無事に帰ってきてください…」

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