3-7 星空の葛藤 (3章完)
王国北の庭園、草花は陽光に煌めき宝石のようだ、その森の奥深くに佇む神木は巨大な威容を誇り、この地を見守っている。
神木の前には天幕が張られ、中にはベッドが2つとベッドの周りに4人の人影がある。
そして、天幕の外やや離れた位置の木陰にはルナは目を閉じて座っている。
天幕内、神木に最も近い位置に立つ女王リアナは長く美しい金髪を背中に流し、長いドレスの裾を引きずっている。
それぞれのベッドに寝ているグレンとイリスに対し、リアナは祈るように目を閉じ手をかざす。
彼女の手から淡い光が溢れ出し、横たわるグレンとイリスを包み込む。
リアナの体を通して、神木の力がグレンとイリスへと流れていく。
ベッドを挟んで反対側に皇帝ガルダス、剣聖の称号をあたえられた帝国の騎士ベルナルド、皇帝の横ではヴァルトがひざまずく。
皇帝ガルダスは、黒曜石のように冷たい瞳を持つ男だった。
精悍な顔つきは、長年の戦乱を生き抜いた歴戦の勇士を思わせる。
漆黒の鎧に身を包み、腰には巨大な剣を携えている。
その姿は威圧感に満ち溢れていた。
ベルナルドは金髪碧眼の美青年だ、その顔は能面のように無表情でどこか神経質な雰囲気を漂わせている。
白銀の鎧に身を包み、腰には装飾の施された剣を携えている。
その姿は美しさと共に、鋭利な刃物を連想させる。
ヴァルトがガルダスに説明する。
「グレンとイリスは現在治療中、医療棟は暗殺事件があり、安全を考えグレンもここで治療させています。
グレンは魔塔での戦いで、ゼブルの弟子を名乗る男に負わされた腕と腿の傷が深く、部隊への復帰は難しいでしょう。」
「他には?」
「ゼブルの弟子を名乗る男は死亡し、恐らく竜魔法は伝承されていないと思われます。ここでの警戒すべき脅威はありません。ただ…」
ヴァルトは深く息を吐き、言葉をつづける。
「医療棟での暗殺者はアルバスを殺した物と同一の可能性があり、目的は恐らく私とグレン、つまり特殊部隊を狙っている可能性が大きいです。」
ヴァルトは低い声で簡潔な報告を終える。
ガルダスは片膝をつき報告しているヴァルトの後頭部を押さえると、次の瞬間。
─ドゴッ!
ヴァルトの頭は地面に叩きつけられた。
「お前の目は節穴か?イリスをよく見ろ、竜の鱗が割れる怪我を負わされているぞ!
魔塔の護衛でここまでの攻撃を出来る者がいたと言う事だ。
まあ、不完全な状態のイリスにこの程度のダメーでは警戒するレベルではない、だが正確に報告しろ。」
「申し訳ありません。」
ヴァルトは頭を地面に押さえつけられながら答える。
(竜の鱗を割った…一体何者が…?)
ヴァルトはイリスの怪我の状況から、ダメージを与えた相手の実力を推し量ろうとしていた。
ガルダスはヴァルトの頭を離し、立ちあがるとリアナに視線を向ける。
「女王、神木から神託はありましたか?」
リアナは静かに目を閉じ、神木に意識を集中させている。
しばらくしてゆっくりと目を開き、どこか悲しげな表情で呟いた。
「…人が、少しずつ増えている。
このままでは、また、"間引き"が始まるかもしれない。」
「なるほど、人減らしが必要だな、あとは特殊部隊の補填か。」
ガルダスは少し考えた後、ヴァルトに言う。
「コロシアムを開催するぞ、優秀な人材は部隊に迎えろ、身分は問わん捕虜でも奴隷でもいい、どうせ奴らは我々の目的を果たすための道具に過ぎん。」
「はっ。」
「イリスは回復次第特殊部隊に迎えろ、魔塔の首席と両立させるのだ。」
「畏まりました。」
「それと、グレンは医療棟に移せ。」
「警備をつけて、と言う事ですか?」
「いや、暗殺されてもかまわん、部隊に戻れないなら暗殺者をおびき寄せる餌にするのだ。」
「……」
「何か言いたいことがあるのか?」
ガルダスの視線が、ヴァルトを射抜く。
「いえ、ありません。」
ガルダスはヴァルトの返答に満足げに頷くと、ベルナルドに視線を向けた。
「ベルナルド、コロシアムの準備を急げ。
優勝者には我が直属の騎士の称号を与え、褒美として領地をくれてやってもいい。
盛大に執り行い、民衆の士気を高揚させるのだ。」
「はっ、早急に対応いたします。」
ベルナルドは恭しく頭を下げると、足早に天幕を後にした。
ガルダスは再びヴァルトに視線を戻す。
「ヴァルト、後でグレンに術をかけておけ、命を奪った者を追跡する為の術だ、暗殺者は場合によっては少し泳がせろ。」
「……承知いたしました。」
ヴァルトは複雑な表情を浮かべながら、ガルダスの命令に従った。
その夜、月が空高く昇り、庭園は静寂に包まれた。
天幕の中では、グレンが静かに眠っている。
彼の腕と腿には、痛々しい傷跡が残っている。
ヴァルトはグレンの寝顔を複雑な表情で見つめていた。
(グレン…すまない…)
グレンに心の中で謝罪する。
(だが、ガルダスの命令だ、逆らうことなどできない…)
ヴァルトは"追跡の術"の準備を始めた。
その術は命を奪った者を特定し、追跡するための術。
ヴァルトは、グレンの身に何かが起こった時に、せめて真実を突き止められるようにと、密かに願いながら術をかけた。
ヴァルトは夜空を見上げる、空には満天の星空が輝いていた。
(…一体、何が正しいのだろうか…)
自問自答を繰り返しながら、夜空を見上げ続けた。
翌日、ライルは冒険者ギルドの片隅で、"コロシアム参加者募集"と書かれた張り紙を見つめていた。
張り紙には、"勝者には莫大な賞金、更に上位入賞者には帝国騎士の称号を与える"と書かれている。
しかし、ライルの表情は晴れない。
彼は、張り紙の端に小さく書かれた
"生殺与奪は勝者に委ねる"
という文字に視線を釘付けにしていた。
(また人が死ぬのか…)
ライルは胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
(…だが、参加し勝利すれば大金が手に入る、それに帝国騎士の称号を貰えればシエラを守るのに役立つかもしれない…)
ライルは張り紙から目を離せずにいた。
その時、ギルドの扉が開き数人の男達が入ってきた。
彼らは皆屈強な体つきをしており、一目で冒険者だとわかる。
男達は張り紙の前に群がり、互いに話し始めた。
「今回のコロシアム、賞金が凄いな!」
「帝国騎士の称号も魅力的だ。」
「腕に自信のある奴は、挑戦するしかないだろう。」
男達の会話を聞きながら、ライルは複雑な表情を浮かべる。
(…やはり、参加するしかないのか…)
ライルは覚悟を決め、張り紙から目を離すと受付へと向かった。
3章あとがき 裸と王様
町外れ薄暗い住宅街、ライルは自室で頭を抱えていた。
「シエラ、聞いてくれ。3章が終わったのに評価が全くつかないんだ…。」
ライルは震える声で言った。
「そこでだ、ビャクを温泉に誘おうと思っている。ビャクは凄いぞ。体を鍛えていてな、腹筋なんか薄っすら割れているんだぞ。」
シエラは心底軽蔑した眼差しをライルに向ける。
「ライルさぁ、ビャクは肩に手をまわされただけで激おこするほどのセクハラ嫌いなのよ。
それにねぇ、斬撃無効の空間で無効を無効にして斬撃を当てる…あたしも言っててよく分からないんだけど、とにかく凄い斬撃の使い手なのよ。」
シエラは腕を組み、鼻をふんっとならし言う。
「弱いライルなんて、簡単にボコボコにされちゃうわよ。」
「確かに今は弱いけど、俺には努力が強さに反映され易い謎の恩恵があるから、最終的にはきっとすごい力持ちになるんだぞ!王様にだってなれるんだ!」
「今弱い事の反証ができてないわよ!ライルが弱いから評価がつかないの!」
「俺だけのせいにするな!」
─ガチャ
その時、玄関のドアが開く。
「やあライル。ノックしたけど誰も出てこないから、もしかして鍵が開いてるのかなと思って入ってみたよ。」
「ビャク…、こんな夜中にどうかしたのか?」
「実は部屋の風呂が壊れてしまってな、風呂に入らせてもらえないだろうか。」
(このタイミングで現れて…その台詞を言うだと…!? 彼女は女神なのか!)
ライルは素早くビャクにかしずく。
「ビャク様、お風呂の準備は万端でございます!このライル、ビャク様の美しいお体を洗わせていただく光栄に預からせていただきます!」
「なに?一緒に入るのか?」
「わたくしはお背中を流させていただくだけです!ご希望されるようであれば髪なども…」
─ドス
「がはっ!」
ライルのみぞおちにはビャクの膝がつき刺さっていた。
「ライル、お前未婚だったな、潰しても良かったが急所は外しておいたぞ。」
ライルはみぞおちを押さえると、その場に崩れ悶絶する。
ビャクはライルの部屋を出て、大衆浴場へと向かった。
薄暗い部屋には軽蔑の眼差しを向けるシエラと、みぞおちを押さえながら「女神様…」と呻くライルが残された。




