3-5 奈落の底へ
イリスは、死霊の群れに身を囚われながらも、高く舞い上がろうともがいた。
しかし、操られた肉体は重く、彼女の自由を奪う。
それでもイリスは、数体の死体を鎖のように引きずりながら低空飛行を続ける。
死体は地面と激しく擦れ、肉が削がれ、骨が露わになる、が、それでもなおイリスを離さない。
壁際でイリスは急旋回すると、捕らえていた死体を石壁に叩きつけ粉砕する。
しかし、新たな死体が再びイリスに組み付く。
終わりのない悪夢の具現のようだ。
ジェイクは、迫りくる死体の群れに対し、周囲に巨大な火柱を発生させる。
死体は炎に焼かれ、肉が焼け焦げ、異臭を放ちながらも、ジェイクに襲い掛かる。
イリスは、無数の死体に身動きを封じられながらも、高く飛び上がると、全身に紅蓮の炎を纏う。
その姿は、まるで業火を身に宿した不死鳥のようだった。
イリスは、組み付いていた死体を焼き払いながら、その身を巨大な火球と化し、エレインめがけて隕石の如く急降下する。
「イリス、ちょっと痛いけど我慢してね。」
エレインは、炎を纏い向かってくるイリスを、凄まじい威力の杖の一振りで撃ち落とす。
イリスが床に衝突した衝撃は、轟音となって魔塔全体に響き渡る。
床は、爆発したかのように崩壊し、瓦礫が四方八方に飛び散り、そして大穴があけられた。
「ライル!」
オーウェンは手を伸ばすが、ライルは一瞬の出来事に為す術もなく、ドミノ倒しのように地下空間へと雪崩れ落ちていく。
地下空間内、瓦礫の中からグレンがイリスを抱えてが這い出る。
「イリス、無事か。」
しかしグレンの呼びかけには反応しない。
ジェイクも瓦礫を掻き分けて出てくる。
全身に瓦礫の粉塵を纏い、傷だらけの体を引きずりながら、ジェイクは虚ろな目でエレインを見据える。
「ゼェ…ゼェ……追い詰めたぞ…魔女……。」
「追い詰められたのは、あなたの方でしょう?
魔塔をこんなに壊して、一体どうするつもり?」
ジェイクは、エレインの言葉を嘲笑うかのように、空中に無数の剣を出現させた。
剣は渦を巻きながら集束し、やがて巨大な槍へと姿を変える。
「依り代もない人形使いが…どう戦うと言うのだ。
強がりもここまで…死ぬがいい!」
ジェイクは、渾身の力を込めて巨大な槍をエレインめがけて放つ。
槍は音速を超えるかの速度でエレインに迫る。
エレインは、3重のバリアを展開する。
2つのバリアは、巨大な槍の勢いの前に砕け散る。
しかし、3枚目のバリアで、槍は受け止められた。
凄まじい衝撃が、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
「終わりにしましょう。」
エレインが静かに言い放つと、彼女の頭上に、まるで太陽のような灼熱の球体が3つ生成された。
その光は、周囲を白く染め上げるほど強烈だった。
瓦礫から這い上がったライルは、その光景を目撃し、愕然とする。
「あれは……!
あの村を焼いた魔法と、そっくりだ。それが3つも。」
「悪魔め…」
ジェイクは自分の敗北を悟ったかのように呟く。
3つの太陽は、情け容赦なくジェイクに降り注ぐ。
炸裂する光と熱量。
轟音と共に巨大な火柱が立ち昇り、中空構造の魔塔は、まるで巨大な煙突と化した。
爆発の衝撃は、魔塔全体を揺るがす。
建物の窓という窓は全て割れ、壁には無数のヒビが入り、大地は地鳴りを上げ、激しく振動する。
火柱が消え去った後、そこは灰燼と化した瓦礫の山となっていた。
ジェイクは瓦礫のシミへと変貌していた。
エレインは倒れているグレンには目もくれず、その隣のイリスをそっと抱き上げ、地下から出ようとすると、瓦礫の一部に目をやった。
そこには、小さな苗木が瓦礫の中から顔を出し、まるでライルを庇うように懸命に根を張っている。
「神木が何でこんなところに?
挿し木かしら、しかもあの人を守ろうとしてるなんて…」
生き残った魔塔の研究員があわてて降りてくる。
「一体何がどうなったのでしょうか?」
「見てわからないの?
ゼブルの弟子を名乗る男がこんなに壊しちゃったのよ、もう死んじゃったけど」
エレインは、静かにイリスを研究員に託した。
「イリスは少し弱っているようだから、お願いね。
安静にしていれば、きっと大丈夫よ。」
そして、ライルを抱き上げる。
「この人は、このままじゃ危ないから、私の家で手当てをしてあげるわ。」
エレインは、鴉の濡羽色の翼を大きく広げると、意識を失っているライルを抱えたまま、空へと消え去った。




