3-1 図書館の魔女
王立図書館、石造りのその建物は王国の知恵の象徴だ。
ライルとオーウェンは、仲間のノエルと共に深夜図書館の警備依頼についていた。
ノエルは、中性的な顔立ちをしており、やや小柄ながら、剣に炎や氷の魔法を付与して戦う魔法剣士で、その実力はギルド内でも指折りだ。
「最近、無断で侵入してくる奴がいるみたいだから、見かけたら追い払ってくれって話だ。」
ノエルが、依頼内容を簡単に説明する。
「捕まえるんじゃなくて、追い払うだけでいいのか?ずいぶん簡単だな。」
オーウェンが疑問を呈するが、ライルは特に気にも留めない様子で返す。
「まあ、依頼内容がそうなんだからかまわないだろ。」
ライルはオーウェンに顔を寄せると、小声で言う。
「それより、せっかく普段入れない最上階に入れるんだ、分かってるな?」
それを聞くとオーウェンは静かに頷いた。
ライル達は重要書籍が置かれている最上階の書庫へと足を運ぶ。
彼らの目的は、警備ではなく、魔塔に関する資料探しだった。
「お、これだこれ!」
ライルは、魔塔に関する書類を見つけ、目を輝かせる。
「オーウェン見てくれ、魔塔の見取り図も手に入ったぞ。これでメルランの部屋も特定できる。」
「よし、これで準備は万端だな。
あとは、新首席の就任式に紛れ込むだけだ。」
オーウェンも満足げに頷く。
その時、誰もいないはずの暗闇から動く人影を感じた。
そこには、大きなとんがり帽子を被り、背中には鴉の翼のような飾りをつけた人物が本を探している、外見は、まさに魔女そのものだった。
腕には持ち出し禁止と思われる書類をいくつか抱えている。
「誰だお前は!」
ライルは声を上げる。
「うわっ!びっくりさせないでよ、直ぐに出ていくからもうちょっと待ってて。」
「待つわけないだろ泥棒が、守衛に引き渡す、付いてこい。」
ライルは魔女に近づこうとする。
しかし、魔女は腰につけていた犬のぬいぐるみにキスをすると、それを軽く前に放り投げた。
ぬいぐるみが宙を舞い、着地すると、まるで生きているかのように自立し、ライルたちの前に立ちふさがった。
「な、なんだあれ!?」
オーウェンは呆気にとられて言う。
ライルはぬいぐるみを蹴飛ばそうとしたその時。
─ドゴッ
逆にぬいぐるみに蹴飛ばされ壁に叩きつけられた。
「抵抗するなら容赦しないぞ」
オーウェンは剣を抜いてぬいぐるみを斬りつけた。
ぬいぐるみはその柔らかそうな見た目と裏腹にオーウェンの剣を受け止めるとそのまま体当たりをし、オーウェンを吹き飛ばす、本棚に身体をぶつけ本が飛び散る。
「どうした!」
物音を聞きつけたノエルが走り寄ってくる。
「不審者だ、気をつけろそのぬいぐるみ妙に強い。
3人で囲い全力でやるぞ。」
ライルは指示を出し3人はぬいぐるみを包囲する。
ぬいぐるみはライルの突進を軽やかに躱すと、オーウェンの剣を器用に掴み取り、そのまま投げ飛ばした。
ノエルが背後から斬りかかるが、ぬいぐるみはひらりと身を翻し、回避する。
そして、跳躍し空中で回転しながら、3人に同時蹴りを放った。
3人は為す術もなく、吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。
魔女は戦闘には目もくれず書類を探し続けている。
「この泥棒が」
起き上がり怒りをあらわにノエルが剣に魔力込める、剣はみるみる氷を纏っていく。
「やめろ、本を傷つけたらどうする。」
ライルが言うがノエルは耳に入らない。
「くらえ!」
ノエルが剣を振り下ろすと、氷の刃が放たれる。
ぬいぐるみはその柔らかそうな拳で撃ち落とす。
「砕け散れ!」
その隙にノエルは飛び上がり垂直に氷の剣を振り下ろした。
ぬいぐるみは避けず、逆に頭突きで迎え撃つと、ノエルの剣を粉砕しそのままノエルを吹き飛ばした。
「ぐぁっ」
ノエルは壁に叩きつけられ、鎧の胸部には破損が見られる。
「あったあった、帰るわよ。」
魔女は、目当ての書類を見つけ手に取ると、ぬいぐるみを呼んだ。
ぬいぐるみは魔女に飛びつくとただのぬいぐるみに戻った。
魔女は背中の鴉の翼のような装飾に投げキッスをすると、翼が羽ばたき出し、そのまま窓から書類を持って飛び立ってしまった。
物音を聞きつけ守衛が走り寄って言う。
「ちっ…また出たか。怪我はないか。」
「まぁ大丈夫だが、ノエルは骨が折れてるかも知れない。」
ライルは倒れているノエルを見て言う。
「何だ今の魔女…とんでもなく強いぞ」
オーウェンは守衛に言う。
「あれは王国でも最強格と言われている、通称『命を与える魔女エレイン』だ。
しかしこっぴどくやられたな、勝てるわけないから追い返すだけで良かったのに…。」
守衛は可哀想に3人を見て告げる。
(そう言うのはちゃんと言ってくれ、まぁこっちも目的を達成出来たからいいけど)
ライルは心の中で呟く。
「今日はもう帰っていいのか?」
オーウェンが守衛に聞く。
「そこに倒れてる者は俺が医療棟に連れて行くから、君たち2人は朝までに、散らかった本を元の棚に戻しておいてくれ。」
あたりに散乱する本の量を見て、ライルとオーウェンは言葉を失った。
彼らの表情は絶望に染まり、疲労困憊の体を引きずって、本の山へと向かうのだった……。




