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2-7 鋼鉄と業火

メルランはゆっくりと膝を折り、3人に挨拶をする。その仕草は、真意を仮面のような礼儀正しさの裏に隠しているかのようだ。


オーウェンはメルランに向い乱暴に言う。

「祭典で暴れやがって、何がしたいんだ。」


メルランは呆れたように言葉を返す。

「おお、何と言う愚かな発言。その愚かさの基は未熟な思考であり、それは無知ゆえに起こるもの、あなたは無知を正すといいでしょう。」


講義のような口調にライルは憤慨を覚え口を挟む。

「ゴーレム泥棒が何を言ってるんだ。」


メルランは静かに言い返す。

「主張は根拠が支えており、根拠は事実から作られる。アルフレッドが所有権を譲った事実はありません、つまり王室こそが、ゴーレムを盗んだ泥棒なのです。よってあなたの主張は間違っています。」


ビャクはメルランの理屈っぽい会話に耐えられず端的に怒鳴る。

「あいつは馬鹿だ、会話が通じない、力ずくでねじ伏せるぞ。」


3人は、メルランに襲い掛かる。

メルランは片手を突き出し、無詠唱で魔弾を放つ。

3発の魔弾が、それぞれの喉元、心臓、眉間へと吸い込まれるように飛来する。


「私が叩き落とす!2人は両サイドから!」

ビャクは閃光のような太刀筋で魔弾を全て叩き落とし、

ライルとオーウェンは、両サイドからメルランに斬りかかる。


メルランは素早く防衛の魔術を行使する。

周囲の大気が歪み、2人の斬撃はまるで蜃気楼を斬ったかのように空を切る。

その直後、メルランは至近距離で魔弾を浴せると、2人は床を滑り、埃を巻き上げて吹き飛ばされた。


メルランの講釈めいた言い回しがまたはじまった。

「今、この空間において、斬撃は有効ではありません。あなた達の目に映る私は、洞窟の壁に落ちる影のようなもの、真なる実体を捉えられないのです。」


ビャクに魔弾を放ちメルランは言う。

「避ける事をおすすめします。」

その魔弾は、まるで獲物を追い詰める猛獣のように、ビャクに迫る。


ビャクは腰を落とし、俯いて深く集中する。

静寂が、深海のように彼女を包み込む。

外界の音は遠のき、意識は研ぎ澄まされていく。

ビャクは空間内の実体を捉えると顔を上げる。


迫りくる魔弾を、背骨を軸に身体を1回転させかわし、勢いそのままに、刀は舞う様にメルランに向う。

魔術による干渉を受けない、僅かな隙間を縫うように刀を通すと、空間は次元ごと斬り裂かれたかのように歪む。


メルランは血飛沫を上げ膝をつく。

「馬鹿な…!?」

メルランの顔は、驚愕と屈辱に歪んでいる。

ビャクはメルランを見下し、冷たい口調で言い放つ。

「ははっ、やっと自覚出来たじゃないか。貴様は馬鹿であると。」


メルランは後退し、ゲオルクに起動用の魔力を送り込む。

ゲオルクは、目を赤く光らせると、まるで大地を揺るがすように重々しく巨体を立ち上げた。


ゲオルクはビャクめがけて拳を打ち下ろす。

その拳を斬り落とすかのごとく、ビャクは刀を叩きつけた。

火花とともに凄まじい轟音と風圧が巻き起こる。

メルランは、ゲオルクの後方から魔弾を放つ。

ビャクは魔弾を叩き落とすと、ゲオルクのわき腹に一撃を入れる。

しかし、その鋼鉄の肉体は微動だにしない、まるでビャクの攻撃を嘲笑うかのようだ。

ゲオルクの攻撃により、ビャクは嵐に舞う木の葉のように翻弄されていた。


地下の空間、柱の上部。

人影が、静かにその光景を見下ろす。

それは、ヴァルトだった。

彼の表情は冷静で、瞬き一つせずに、じっと観察していた。


迫りくる拳を紙一重でかわし続けていたビャクを、ついにゲオルクが捉える。

ビャクは刀越しにゲオルクの拳を受けると、壁まで吹き飛ばされた。


(この人形、生半可な斬撃じゃ通じない)

ビャクは顔をあげメルランを見る。

「お前の切り札の人形、なかなか強いじゃないか」

心の言葉とは反対に強気に発言をした。


「これが切り札?違いますよ。

所望に応え、お見せいたしましょう。

師をも超えた、私の魔法を!」

メルランは浮遊すると、杖に魔力を一気に集める。

大気は震え、杖は灼熱に輝き出す。


ライルに戦慄が走る。

(あれは村を焼き払った、太陽を落とすかのような魔法だ)

「ビャク、今すぐ逃げろ!

俺達の事はいい、あれはヤバい!」

ライルは必死に叫ぶ。


ビャクはその魔力を見ると、全身から湯気を噴き出すかのように、怒りを露わにする。

「忌まわしい魔法使いめ、貴様の死刑が、たった今確定したぞ。」

ビャクは、鬼の様な形相で睨み、腰を落とす。

刀を鞘に収めると、抜刀の構えを見せる。

右手は、今まで使っていた刀ではなく、祖父の形見である刀の柄に添えられていた。


その時、戦場に不似合いな格好をした女性が入ってきた。


長い髪を揺らし、ドレスのような服を身につけている。

スカートの下には鎧を着用しているのか、歩くたびに重厚な金属音が響く。

あまりに場違いな外見に、ライルは呆気にとられ、ビャクも驚いた様子で目を瞠る。


メルランは、杖の前に集まった巨大な魔力の塊を、大きな火球に変え解き放つ。

長い髪の女性は、躊躇することなくメルランめがけて飛び込んだ。

拳が叩き込まれると、凄まじい衝撃音が鳴り響き、火球は弾け飛び、灼熱の破片が流星のように降り注ぐ。

女性は火球を打ち砕くと、そのままメルランに拳を直撃させる。

メルランは床に叩きつけられ、その床はメルランを中心に深い亀裂を刻んだ。


ゲオルクは、背中に携えた巨大な剣を取り出すと、刃をみるみる赤熱化させていく。

溶岩のように煮えたぎり、発光するその剣を高々と掲げると、光線のように鋭く地面に叩きつけた。

轟音が鳴り響き、古城は激しく震え、土埃は天井まで舞い上がる。


埃が晴れると、巨剣は粉砕されており、女性の右腕はゲオルクの心臓部に深々と突き刺さっていた。

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