2-4 繋がれた絆、隔たれた心
薄暗い森の中、木々の葉がざわめき、足音が吸い込まれるように消えていく。
討伐隊は息を潜めて進んだ。
上から木の葉が舞い落ちる、見上げると、木々の間からこちらを狙う眼が赤く光っていた。
猿型の魔獣が、鋭い牙を剥き出した頭上から襲いかかる。
「来るぞ!」
オーウェンの叫びと同時に、魔獣が隊列に飛び込んだ。
悲鳴と怒号が入り乱れる中、ライルは迫りくる魔獣の爪を辛うじて躱し、剣を振るうが、魔獣は素早くそれを避ける。
次の瞬間、肩に鋭い痛みが走った。
魔獣の爪が肩を掠めたのだ。
体勢を崩したライルに、別の魔獣が背後から迫っていた。
「ライル!後ろ!」
オーウェンの必死な叫びが響く。
振り返ると、魔獣の爪が背中に迫っていた。
その刹那、オーウェンの剣が魔獣の首を斬り落とす。
「助かった…!」
ライルは息を切らしながら礼を言う。
「礼はいいから、集中しろ!」
オーウェンは周囲を警戒しながら叫ぶ。
「連携して一体ずつ確実に仕留めるぞ!」
その頃、隊列の前方では、東洋の刀が異様な輝きを放っていた。
ビャクは、眼前の魔獣を一刀両断にすると、頭上から降ってくる二匹の魔獣を、空を切り裂くかのようにまとめて斬りつけた。
刀は、まるで生きているかのようにうねり、魔獣の首を正確に斬り落とす。
その動きは、洗練された舞のようでありながら、同時に死を運ぶ刃でもあった。
「凄いな…」
ライルは感嘆の声を漏らす。
「いや、危ういぞ。あれは味方を全く信頼していない。全て自分で対処しようとしている。」
オーウェンは心配そうに言った。
その時、近くで戦っていたカイゼル髭の騎士が、魔獣の一撃で吹き飛ばされ、ビャクの方へ飛んでいった。
ビャクの背中に騎士が激突しようとした瞬間、ビャクは素早く振り返ると、騎士を確認することなく一刀両断にした。
騎士は悲鳴を上げる間もなく、真っ二つに斬り裂かれて絶命する。
その光景を見たオーウェンは、怒りを露わにビャクに詰め寄った。
「よく見ろ、味方じゃないか!」
ビャクは毅然とした態度で答える。
「不注意は認めるが、不用意に近づくな。」
「近づいたら仲間でも斬るのか!」
オーウェンは激昂した。
ビャクは唇を噛み締め、静かに言った。
「仲間…だと? 私に仲間なんていない。そこまで言うなら、戦場で私に近づくな。」
ビャクは全てを拒絶するかのように言い放った。
戦いは激しさを増す。
ビャクの孤高な戦い方は、周囲を遠ざけさせた。
誰もビャクの近くで戦おうとはしない。
孤立するビャクは格好のターゲットとなり、魔獣は自然とビャクに集まりだす。
圧倒的な数の暴力で魔獣は襲い掛かる、それを見たオーウェンは堪らず、ビャクを庇うように飛び出した。
次の瞬間、ビャクの刀が閃いた。
狙いは魔獣だったが、オーウェンが間に入ったため、刀は彼の肩を捉えてしまう。
「……っ!」
オーウェンはその場に倒れ込む、肩からは鮮血が溢れ出し、顔は苦痛に歪めていた。
「 なんで……」
ビャクは我に返り、愕然とする。
その直後、五体のゴーレムが上空から舞い降り、着地と同時に大地を揺るがした。
ゴーレムは、高さ二メートル五十センチを超え、全身を硬い岩石で覆われている。
その巨体は、まるで生きた要塞のようだ。
ゴーレムは鉄球を振り回し騎士達に襲い掛かる、その一撃は周囲の木々を粉砕する程の威力だ。
「これは悪夢か」騎士達からは心の声が漏れる。
疲弊の色が見える討伐隊に、更なる敵の増援は絶望感を募らせた。
隊列の後方、荷馬車の屋根に座っていたアルバスがゴーレムを見つめる。
「メルランの仕掛けはこれで全部だな」
静かに呟くと、ゆっくりと腰を上げた。
ふわりと浮き上がり前進しながら、身体を炎に包み込ませていく。
アルバスは、纏う炎を凝縮した火球を、矢継ぎ早に放った。
命中した火球は、ゴーレムの分厚い岩肌を貫き、内部に侵入する。
炸裂する炎は、ゴーレムの動力源である魔力を打ち砕き、数体の巨体を内部から崩壊させ、爆発四散する岩片は、周囲の魔獣をも巻き込み、次々に炭へと変えていく。
残ったゴーレムたちは、鉄球を振り回し、必死に抵抗を試みるも、アルバスはさらに両腕を広げ、自身を中心に渦巻く炎の竜巻を発生させた。
炎の竜巻は、ゴーレムたちを巻き込み、赤熱化した鎖を軋ませながら、空高く舞い上がらせる。
服と髪を逆立て、全身を炎で覆うアルバスは、まるで鬼神のようだ。
熱風に巻き上げられたゴーレム達は、岩肌を赤黒く変色させひび割れて、脆くも崩れ落ちていく。
残った魔獣たちも、炎の熱に耐えきれず悲鳴を上げながら逃げ惑う。
ゴーレムの残骸が降り注ぐなか、アルバスは、その中心に佇んでいた。
周囲には、焼け焦げた大地と、黒煙を上げる残骸が残されている。
戦場を支配する絶対的な存在として、アルバスはその力を見せつけた。




