2-1 鉄槌の宣言
焼け野原となった村を後にしたライルとリアナ。
拭いきれない不安が渦巻く中、ライルはリアナを匿うことを決意する。
刺客の影が迫る中、少女を守り抜くことが、今の彼にできる唯一のことだった。
少女と暮らしはじめて数日たったある日。
ライルは束の間の休息を求め、王国の祭典にリアナを連れていく。
しかし、やはり否応なしに新たな陰謀へと巻き込まれてしまう。
悪夢は、どこまで彼を追い続けるのだろうか――。
燦燦と陽光が降り注ぎ、街は活気に満ち溢れていた。空には、スキップのリズムのように、軽快な祝砲が鳴り響いている。まるで、王国全体が踊っているようだ。
今日は建国記念祭。100年前、国を救った英雄の偉業を称え、その勇姿を模した巨大なゴーレムが祭りの象徴として街の中心にそびえ立てられていた。
「シエラ、何か食べたいものはあるか?」
ライルは、屋台が連なる賑やかな通りを歩きながら、隣を歩く少女に声をかけた。
リアナはシエラと名付けられていた、本名のままでは危ないとライルが判断したのだ。
頭には変装の意味で帽子を被り、服は動きやすいように質素なワンピースを着ている。
「そうね、色々あって迷うわね」
シエラは、きらびやかな装飾品に目を奪われていた。普段目にすることのない華やかな光景に、胸が高鳴るのを感じていた。
「シエラ、今日はせっかくの祭りだから、楽しんでいってくれよ」
星の光を宿したかのような碧眼の瞳をもつ男─オーウェン─は褐色の肌に白い歯を輝かせ言う。オーウェンはライルの冒険者仲間であり親友だ。
「このゴーレムは何なの?とっても強そうね」目を輝かせシエラが問う。
「ああ、昔竜と戦った5人の英雄の1人、人形使いアルフレッドが使役していたゴーレムだ」ライルが答える。
「今日は本物が見れるらしいぞ」オーウェンが言う。
「そのゴーレムが英雄の中で一番強かったの?」シエラが問う。
「さあな。5人の英雄の詳細はよく分かっていないことが多いんだ。一説によると、金剛姫ルナが最強らしいが…」オーウェン一呼吸おいて続ける。
「噂話だが、ルナは今も生きていて、王室の秘密兵器として存在を隠されているって話もあるぞ」
オーウェンが怖がらせるように言った。
「おいおい、王室の噂話はやめろよ。バッカスのことを忘れたのか?」
ライルはたしなめるように言った。
「バッカスの話ってなに?」シエラは興味津々だ。
オーウェンがシエラに答える。
「バッカスは、王室お抱えの彫刻家で、何を彫らせても絶賛されていた天才なんだ。」
「へえー。」
「特に、女王リアナの成人の石像は、まるで生きているかのようだと、国中が絶賛したんだ。ところが……」
「ところが?」
「後日、その石像は忽然と姿を消し、バッカスは投獄されたらしい。」
「ええっ!?」
「噂では、女王の脚が少し曲がっているとかバッカスが指摘したため、不敬罪で捕らえられたんだとか。」
「そんなことで!?」
「ああ。この国では、王室の悪口はご法度なのさ。」
3人は、談笑に花を咲かせ、おやつを頬張りながらメイン会場に到着した。
会場は巨大なコロッセオのようになっており、中央には布で覆われた巨大な物体が鎮座している。おそらく、中身はゴーレムだろう。
ゴーレムの足元では、魔術師が準備を進めている。
最も見晴らしの良い観覧席には、王族たちが陣取っている。
「今日は滅多に姿を現さない女王様も来ているらしいな」オーウェンが言った。
ライルは、王族たちの席に目を凝らした。確かに、その中にひときわ目を引く、黄金の髪をたなびかせる女王の姿があった。
(シエラは、確かに女王によく似ている……)
ライルは思う。
(しかし、こうして見ると、やはり年はだいぶ違うな。それに、女王は確か、脚が悪かったはずだ。)
シエラも女王に目をやったが、はじめて見た他人のように特に反応は示さなかった。
会場に声が響く。
「お待たせしました!それでは、かつて竜を粉砕した豪腕の巨兵、人形使いアルフレッドの相棒、剛鉄のゲオルクのお披露目です!」
ゴーレムに被された布が取り払われる。
観客からは大きな歓声が上がる。王族たちも、王女も、目を輝かせて喜んでいる。
魔術師はふわりと浮遊し、剛鉄のゲオルクの左肩にそっと降り立った。
ゲオルクは、まるで生きているかのように右手を胸に当て、観客たちに深々と頭を下げた。
「凄いなぁ……あんな巨兵を操れれば、どんな敵が襲来しても安心だな」
ライルは、感嘆の息を漏らす。
その時、会場に凛とした声が響いた。
「皆様、はじめまして。魔塔次席のメルランです。本来であれば、魔塔首席の賢者アルバスがご挨拶をさせていただく予定でしたが、体調不良のため、私が代理を務めさせていただきます」
メルランは、ゲオルクを華麗に操りながら、観客たちに語りかける。
「かつて竜と戦った伝説の人形が、今、制御を取り戻しました。もはや、いかなる脅威も、この戦力の前に敵ではないでしょう」
観客席からは、先ほどまで以上の大歓声が沸き起こる。王族たちも、女王も、目を輝かせて興奮している。
メルランは、観客席、そして王族たちを見渡しながら、不気味な笑みを浮かべた。
「そして……この力は、愚かなる王室にも鉄槌を下すことができるのです」
会場が一瞬静まり返る。
メルランは、静寂を切り裂くように高らかに言った。
「叡智を完成させることこそが、無知の闇を照らす光であり、人類の宿願であり、未来への力なのです!」
会場にいる全ての人物がどよめくなか、メルランはゲオルクを王族へと向ける。
「したがって知るがいい、王を名乗る無知なる愚民どもよ、その罪、今こそ裁かれると!」
ゲオルクは、轟音とともに右拳を王族席へ叩きつけた。




