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1-1 闇夜の馬車

街頭から漏れる明かりが路地裏に影を落とす。ライルは、重たい足取りで集合場所の馬車へと向かう。

腰に下げた剣は無数の傷跡を残し、持ち主との過酷な日々を物語っているようだった。

刻々と迫る夜闇の中、彼の心は落ち着かない。まるで、何か恐ろしい出来事が待ち受けているかのように。

月明かりすら届かない闇夜に、一台の馬車が音もなく進んでいた。車輪の軋む音さえ、厚い闇に飲み込まれ、外界との隔絶を強調している。

車内には冷たく重い空気が漂い、沈黙が支配している不穏な空間だった。


暗がりの中で揺れる四つの影。その前方でフードを深く被り腰に2本の剣を帯刀した男――ヴァルトが口を開いた。

「もうすぐ村に着く。貴様ら内容は理解しているな?」


「金髪の少女を始末する。それだけだろ?分かってるさ。」

長身で細身の男――カインが気怠げに答える。


「で、万が一別のやつを殺しちまったらどうする?隣人が騒ぎ出したら、そのままそいつらもまとめて始末していいのか?ガキ1人じゃものたりねぇぜ。」

筋骨隆々の巨体を揺らしながら笑うのは、ゴルザ。その笑みには、彼が楽しむためだけに命を奪う存在であることを示す冷酷さが滲んでいる。


「構わん。ただし、ターゲットだけは確実に始末しろ。成功した者には追加報酬を支払う。」

ヴァルトは冷徹な口調で言い放った。その声には感情の色が一切感じられず、指示に従う以外の選択肢を許さない圧力が込められていた。


「余計な騒ぎを起こして俺の足をひっぱるなよ。」

黒髪の青年――ライルがため息混じりに呟く。


「その言い草、気に食わねえな。死体が増える事になるぞ、お前の死体がな。」

ゴルザが獣のような鋭い目でライルを睨みつける。その視線には明確な殺意が込められていたが、ライルは眉一つ動かさず冷ややかな視線を返す。その目には冷たさの中に、わずかながらも挑発的な光が宿っていた。それがゴルザの怒りをさらに煽るようで、彼の拳は一瞬だけ痙攣するように動いた。


ふたりの視線がぶつかり、車内の空気がしだいに凍りつき張り詰めた緊張が漂う。 


カインは、興味なく外に顔を向けていた、全く止める気はないようだ。


「くだらない衝突はやめろ。」

ヴァルトが、2人を制した。


「...まぁいい、それにしても、こんな破格の依頼だなんて、このガキはいったい何者なんだ?」ゴルザが視線をヴァルトに向けて問いかけた。

「貴様らが知る必要はない。ただ、言っておく。この少女を始末すれば、お前たちは一生遊んでくらせる大金を支払おう。」

ヴァルトの言葉は冷徹で、感情をまったく感じさせないものだった。


静寂が再び馬車内を支配しその冷たい沈黙は、外の闇の深さと溶け合っていた。


やがて馬車が村の手前で止まると、ヴァルトは黒い金属製の首輪を取り出して男たちに渡した。

「これをつけろ。魔力を込めた道具だ。これで念話が可能になりお互いの位置も把握出来るようになる。」


「必要ないな」とカインは淡々と答えた。その声には反抗的な色もないが、同時に従順さも微塵も感じられなかった。彼の冷えた瞳には、他者を値踏みするような冷酷さが垣間見える。


「命令だ、つけろ、俺からの指示もこれを通して伝える。」ヴァルトは拒否権など認めないような高圧的口調で言った。


ライルは首輪をつけならが周囲を見渡すと村全体に結界が張られている事に気づいた。

「へんぴな村にこのレベルの結界だと」ライルは心のなかでつぶやき、拭い去れない違和感を覚える。


男たちが首輪を装着し終わり、ヴァルトが低く呪文を唱えると、村を囲む薄青い結界が静かに霧散していく。その光景は、空気にすら緊張を漂わせる異様なものだった。


ヴァルトが短く命じる。

「行け。」


男たちはその声を合図に闇へと溶け込むように村へ侵入した。


薄暗い森を抜けると、村が姿を現した。入り口西側の小高い丘には、ひっそりと墓地が広がっている。その中にひときわ異様な形状の墓標がある、剣を突き刺したような墓標は、まるで、この村の不吉さを暗示しているかのようだ。

村全体を覆う沈黙の中、どこからか響く遠吠えのような音だけが闇を切り裂いていた。それは、これからの惨劇を予感させる、不気味な音だった。


ありえないほどの破格の報酬、命を軽視したような非道な依頼内容、辺境の村を覆う不気味な結界、そして、互いを警戒し合う同業者たち。ライルの周囲には、謎が深まるばかり。この男が選んだ道は、果たして彼をどこへ導くのか。運命の歯車が回り始めた今、彼の選択が招く結末とは――。

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