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第二話:義兄ふたりと義妹

 時は少々さかのぼる。

 「急げ!奴の弱みを手に入れれば、あるいは巻き返せるかもしれん!」

 空を駆け上がり先を急ぐ者。騎竜の背中で激を飛ばす者。自らの翼に風をはらませ自在に羽ばたく者。いずれも屈強な魔界の公子たちである。

 先を争って目指すは、瀟洒な佇まいの魔城。

 突然大戦に参戦し、殲滅戦を仕掛けた相手・・・アルファーレンの居城であった。

 「エイミールをこの手にすれば、いかな彼奴とて大人しくなるはず!」

 「・・・本当、馬鹿」

 声は、真上から落ちてきた。

 慌てる公子たちの前にゆっくりと下りてきた者は、藍色の髪、藍色の瞳の美丈夫。苦も無く彼らの眼前に立ち、冷めた眼差しで睥睨する。

 「アマレッティ!き、貴様、アルファーレンに味方するのか!」

 アマレッティ・ゼランドはその言葉に優美な眉をゆがめた。

 嫌そうに相手を見て、大げさにため息をつく。

 「・・・俺はアルファーレンの味方じゃないぞ。大体、手に負えないからってエイミールに手を出そうなんて、紳士じゃない。おまけに・・・」

 彼方を見ずに後方へ、魔力を放つ。閃光があたりを焼き払った。

 「・・・人が話しているのに、隙を伺うなんて、姑息にも程がある・・・」

 「ア、アマレッティ!我らにつけ!我らにつけば、エイミールはお前の・・・!」

 「うるさいな」

 黙れよ。

 声が彼らの耳に届く前に、彼らの意識は白く消え去った。

 そこにいた公子達の燃えカスを前に、アマレッティはふんと鼻を鳴らして、誰にとも無く呟いた。

 「これしきの攻撃をかわせなくて、どうして、魔王戦に名乗り出るんだ?大体、あの用意周到な奴が何の策も講じずに城を空けるはずが無いだろうに。城に近付いただけで、消滅させられるのが判らんほどの馬鹿に、奴が後れを取ると本気で思ったのか?」

 有り得んな。

 城を囲む鉄壁の結界に目をやって、やれやれと首を振り、肩をすくめる。

 アマレッティが見やるはアルファーレンの城。その城内に隠されたエイミール。

 「あーあ、早く帰って来いよ。シスコン兄貴。エミーが起きちまうだろー。まったく、朝も早よからたたき起こされた俺の身にもなってくれ・・・」

 やや、やさぐれ気味に呟いて、アマレッティは空に浮かんだまま器用に胡坐をかいた。

 膝を軸に頬杖をつく。

 「時間外労働に対する正当な報酬として、エイミールのキスひとつじゃ割りに合わんな・・・」

 しかし、それでも。

 エイミールの満面の笑みと、柔らかな唇の感触を思い浮かべるだけで、幸福になれるのだから、仕方の無い事なのかもしれない。

 「くちびるに、って言ったら、アルファーレンが切れるかなー・・・」

 そう呟くアマレッティも立派なシスコンだった。

 

 *********************************



 同じ頃、そのアルファーレンの居城では、小さな戦いが起こっていた。

 金糸の髪を風に遊ばせ、ふっくらとした頬もすべらかな、可憐な少女が、翠の瞳に恥じらいを乗せて、朱色に肉付いた唇を震わせていた。

 彼女のまん前には、存在感の重さがそのまま全部胸にある!超絶爆裂巨乳美女が、すべらかな黒髪を背中に流して少女に迫っていた。黒い瞳がきらん!と輝く。その手には、レースで縁取られた、きわどいカットの、・・・それって、ドレス?本当に?な物体が。

 「ね、ねえさま、その、こんな服、エイミールには似合いません・・・!」

 「なーにを言うのじゃ。わらわのエミーに似合わぬ服などあるわけがなかろう!」

 そーれ、着せ替えたいむじゃー!

 エイミールが引いた瞬間、目にも止まらぬスピードで、美女が少女を捕まえた!

 ぽんぽんとパジャマ(アルファーレン選)を脱がされて、エイミールは小さく縮こまった。

 その小動物のもがきにも似た可愛らしい動きに、リアナージャはたわわな胸を揺らして(?)甘酸っぱい疼きをからだで表現した。

 か・・・。

 可愛いのじゃー!なんだ、この可愛らしさは!虐めて虐めて、恥じらいに顔を染め上げてしまいたくなるではないかー!アルファーレンめ!こんなカワユイイキモノを隠して育てていたなど、許しがたい!

 かくなる上は、カワユイエミーを色っぽく飾り付けて、アルファーレンの仏頂面がどう変化するのかを間近で見るのじゃー!

 ・・・などと考えているなど、エイミールにはわからない。

 そもそも。

 ねえさまと呼んでいるが、正真正銘初対面・・・。

 (に・・・にいさまー!アルファーレンにいさまー!このお姉さま、いったいどなたですかー?)

 エイミール・リルメルは、軽いパニックに陥っていた。

 朝も早くに強襲され、冷たく研ぎ澄まされた魔力に怯えた侍女が、リアナージャ様と叫んだので、彼女に習って「りあなーじゃ様」と呼んだら、巨乳が身悶え、更に何度と無く名を呼ばされて、最終的には「ねえさま」と呼べと言い聞かされて今に至る。

 そして。

 あれよあれよと飾り付けられ、清楚可憐な装いの中にちらりと垣間見るエロチシズムが見るものの想像を掻き立てるドレス。

 しかも、それを身に纏っているのが、天使と見紛う美少女。

 その、恥じらいに頬を染め、涙目で震えながら相手を見上げる、その様に。

 巨乳が身悶えしつつ叫んだ。

 「・・・くぅっ!エミーの可愛らしさに、わらわ、久しぶりに男を思い出したわ!そう、股間が疼く、この感じ・・・!!!」

 その瞬間、脳天に直撃を喰らっていたリアナージャ・ナーガ(両性)だった。

 かわいい。

 かわいらしすぎる。

 かくなるうえは攫って帰ろう。と、当初の予定をかなぐり捨てて。

 がっしとエイミールを抱きしめ、次の行動に移ろうとした。すなわち、転移。自分の居城に帰ろうと、魔力構成を始める。

 「・・・まてや。こら」

 止めに入ったのはアマレッティだった。

 抜かりなく、転移法陣に魔力を叩きつける。

 「なんじゃ、洟垂れ小僧か。そこを退け。わらわはこれからエミーにじっくりと、愛の何たるかを教えてあげるのじゃ」

 「リアナージャ姉上!いや、兄上?アルファーレンが切れますよ。それに、エミーが泣くって!エミー、アルファーレンから離れるのいやだろう?」

 アマレッティの藍色の瞳に、真摯な色を見て取って、エイミールは攫われちゃ叶わんと頷いた。

 「ねえさま、エイミールは、アルファーレンにいさまのお側がいいです・・・!」

 何の力も無い、ただ、前魔王の娘なだけの、寄る辺無い子供を庇護し、擁護し、最高の教育を施してくれた、聡明なアルファーレン。受けた恩は限りなく、返せる当ても無いエイミールにとって、アルファーレンは太陽であり、何物にも変えがたい全てであった。青銀の髪、青銀の瞳の、美しくも静謐な、魔界きっての美貌を持つ、エイミールの憧れの、義兄。

 エイミールはアルファーレンの側で、受けた恩を返すべく、甲斐甲斐しくお世話をするのが日課で、それが何よりも大好きだった。

 そして、それを知っていたのが、アマレッティ。

 苦い思いで、何度、一生懸命なエイミールを諌めた事か。

 (だまされてる。だまされてるぞ、エミー!奴は、依存度を高めていくエミーに、内心、喜んでいるんだぞ!)

 アマレッティは、計算高い黒い奴を思い浮かべた。

 このまま、放っておいたら、近親相姦の何たるかも分からんエミーが毒牙に掛かってしまうと、何度焦った事か!

 ・・・でも、甲斐甲斐しく世話をするエミーの可愛らしさに毎度、腑抜けになるのが落ちなのだが。

 「・・・リアナージャ兄上、エミーは可愛いもんな・・・。可愛くてたまんねえから、攫って帰りたいのは分からんでもない。俺もそう思った!ンで、攫った!!・・・けどエミーはシスコン兄貴にぞっこんなんだよ。攫って帰ったら、泣くだけで笑いかけてもくれなくなるぞー。ちなみに俺はまた、笑ってくれるまで一年かかった」

 気難しいアルファーレンが、盛大に年の離れた義妹を引き取ったと聞いた時、何の冗談かと耳を疑ったものだ。軽く200歳は年の離れた、それも幼女。軽い気持ちで見に行って、アマレッティは無自覚の恋に陥った。衝撃だった。

 アルファーレンに向ける愛情に満ちた微笑を見て、アマレッティは出遅れた事に歯噛みした。

 その笑顔を見たくて、自分に向けて欲しくて、攫った。

 けれど、声もなく泣き続けるエイミールに折れたアマレッティが、エイミールをアルファーレンに返してから、一年間。エイミールはアマレッティを見るとアルファーレンにしがみ付き震える始末で、一向に微笑んでくれなくなった。

 「なんじゃとっ!エミーが笑ってくれないなどと・・・そ、そんな・・・」

 見る見る青褪める巨乳美女。

 その彼女(彼?)に慰めの言葉をかける、美男子。

 絵になるが、話題は、妹が微笑んでくれるか、否か。

 「な。兄上、諦めて、アルファーレンの帰りを待とう。このさい、うんとエミーを可愛らしく、えろく!着飾らせて嫌がらせしてやろーぜー!」

 「そ、そうじゃな!アマレッティ。感謝するぞ!エミーの笑顔を失ってしまうところじゃったわ!」

 かくなる上は!

 「えろくカワユク!アルファーレンの鼻の下が伸びるのを拝むのじゃー!!!」


 魔界大戦の終結を、なんだか間違った方向で待ち望んでいる義兄ふたりだった。



 

 

 

 

うん。なんか、こんな感じ。

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