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第十七話:魔法と義妹 2

 フォルトランとディレスは、ビエナ国広場に立ち、空を見上げた。

 風を纏い、見事な術で転移法陣を操った男の姿が忘れられない。

 たった一人で精霊を操り、無数の遺骸を運んできた男。

 特に、リカンナドのディレスにとって、あの男は初めて自分の魔法が叶わなかった相手である。

 その視線ははるか彼方のダウニーを捉えていた。

 その眼差しの真摯さにフォルトランは眉を寄せてディレスを見た。

 「・・・ディレス、まさかと思うが一人でダウニーへ行こうなどと考えているわけではあるまい?」

 その問いには答えず、ディレスは尚も感慨にふける。フォルトランは更に続けた。

 「父王は、ダウニーから手を引くと公言したぞ。アリアナは魔族との対立を避けるつもりだ」

 「・・・リカンナドも同じだ。父王は魔族を挑発してはならないとお考えだ」

 ディレスがポツリと言う。それにフォルトランは頷いた。

 ・・・歴然とした力の差だった。

 圧倒的な魔力と、毅然とした統率力で、魔物を率いた魔王軍。

 魔王軍の前では如何なビエナ国軍と言えども、風に揺れる葦のようで、あっさりとなぎ払われた。

 数の上では負けはないと言い張っていた彼らの、自己に対する驕りだろうか。

 しかし、先日の一件はそんな希望すら潰えさせた。

 たった一人現れた魔族の男に、ガズバンド一とあだ名された魔法皇子が戦わずして破れ、魔法陣の構成力に長けた皇子はその構成を完全に読み取る事もできなかったのだ。

 同じ土俵の上にも立てない相手と喧嘩ができるはずがない。

 分かっていた。

 「・・・だが、転生の女神の所在の確認はしなければならない・・・」

 ディレスが沈思しながら呟くのに、フォルトランは頷いた。

 ディレスの目当てが最早女神でない事はフォルトランには明白だった。

 魔法士として、彼はあの男に魔法で挑みたいのだろう。・・・無謀すぎるが。

 「希望だからな」

 分かっていながらディレスを止めようとしない自分も最早、共犯なのだ。

 フォルトランはくくっと笑った。

 ダウニーの懐深く隠された、それは謎となるはずだった。

 ・・・私達ふたりが居なければ。

 しばしの沈黙の後、フォルトランがディレスに向かい片頬で笑っていった。

 「・・・まぁ。戦う意思がないと分かれば襲ってはこないだろう。付き合ってやるよ」

 「・・・いいのか?」

 「なに。散歩だ。行き先は遠いがな」

 そう言って肩をすくめて見せたフォルトランに、ディレスは何事かを言おうとして・・・やめた。

 小さく聞こえる程度の声で、すまん。と呟く。それに鼻で笑ったフォルトランは。

 「さて、父王に見つかって止められる前に・・・行くか」

 そう言って鮮やかに笑ったのだ。


 *****************************



 魔王城の中庭で、いつものように、レイとふたり。風の中佇む。

 違うのは、いつになく真剣な、エイミールの顔。

 それに悶えるゾンビは、内心を押し隠し、エイミールに向き合った。

 「・・・さて、嬢様。魔法使いになるためには、まず属性を見定めなければなりません。その属性を元に、嬢様を預ける最高の教師を選んでまいりますからな」

 レイ・テッドはエイミールの目の前に掌を出した。

 掌の上に、楕円形のつるりとした石がひとつ。

 「さて、石の色は?」

 「? 白です」

 エイミールの言葉に頷くと、レイは石を握りこんだ。途端にふわりと風が舞う。

 心地よい風に目を細め、かすかに笑った後、レイは掌を開いた。

 「・・・わぁ・・・光ってる・・・」

 つるりとした石は、色は白くそのままで、淡い輝きを放っていた。エイミールが目を真ん丸くして見つめる。それにまたひとつ微笑んで、レイは続けた。

 「・・・そうです。では、これでは?」

 風に光の粒が混ざり、きらきらとまるで宝石のような輝きを表した。風と光の混合魔法。しかし、かつて人間に向けて放ったような、凄惨なものではなく、それは、まるで万華鏡を覗いているような、華やかな術式だった。

 「・・・黄色になった!」

 エイミールがその麗しさに歓声を上げる。それを見てまた微笑んだ後、レイは更に続けた。

 「ええ。では、嬢様、少しはなれて」

 はい。と下がったエイミールを見てから、レイは石を持たないもう片方の掌に、黒い玉を発現させた。ぽいと投げ捨てると黒い闇が、野原の植物の気を喰っていく。レイが、戻れと命じると黒の玉はレイの掌に戻ったが、黒の玉が喰らった場所は、植物が枯れ果てていた。

 そして、レイの持つ石の色も・・・。

 示された掌の上。石のいろは。

 「・・・黒くなってる・・・」

 「・・・ええ。風属性を持つ者は石が白く輝きを増します。光属性を持つ者は、黄色に。水属性は青く。火属性は紅く。土属性を持つ者は緑に。金属性を持つ者は石の色が透明になり、最後に、闇属性を持つ者は黒く変化します。私は風と光と闇を持つ珍しいタイプの魔法使いなんですよ」

 そう言って笑ったレイにエイミールは尊敬の眼差しを向けた。


 すごい!レイはなんてすごいんだろう!


 不死者なのに、精霊魔法が使えて、綺麗なきらきらも作り出せて、黒魔法使いでもあって・・・。

 そんな思いがそのまま顔に出てしまっていた。

 そのきらきらした眼差しに見つめられたゾンビは、最高の賛美の眼差しに打ち震えていた・・・。

 ・・・ああ!嬢様の眼差しが・・・!!!背筋がぞくぞくしますゾ!嬢様!

 この眼差しだけでどこかへ、逝ってしまいそうな、レイであった・・・。


 さて、そんな葛藤があったなんてもちろん知らないエイミールは、示された石を前に戸惑っていた。

 「どうすればいいの?」

 と、心もとない顔で上目使いに(びば!身長差!by.レイ)レイに尋ねる。

 そんな彼女の表情をうっとり見つめてから、レイは石をエイミールの掌に乗せ、そっと握らせた。

 「・・・そうですな。いつも通りでいいのです。嬢様はいつも精霊に囲まれておいでですから。そのままで・・・」

 エイミールは手の中の石が暖かくなるのを感じた。

 小首を傾げてそっと吐息をつくと目を閉じる。脈動する。暖かい。

 「・・・嬢様、もういいですぞ」

 レイの言葉にそっと目を開け、掌を開いた。

 「・・・虹・・・きれい」

 エイミールの掌で、白かったはずの石は、さまざまな光彩を放っていた。

 赤、黄色、緑、青、白、混ざってピンク、水色、黄緑、紫、橙色・・・。

 そして、中央に溢れんばかりの黄金色。

 ・・・レイ・テッドは、身を襲う歓喜に震えていた。

 歓喜、羨望、崇拝・・・。

 言葉に出来ない感情の羅列。

 過去、これほどに見事な光彩を放って見せた者はいない。

 ・・・ああ、嬢様!

 陶酔しきった眼差しで、レイがエイミールを見つめている。・・・その眼差しは、包帯の陰に隠れて見えないが。

 そのレイの真ん前で、エイミールは自分の掌に生じた光に目を奪われていた。

 無数の輝きがあった。

 きらきらと、光の粒。

 「・・・レイ、わたし、魔法使いになれますか?」

 おずおずと、尋ねた声に。

 「ええ。このレイが保障いたします。嬢様は偉大な魔法使いになれますぞ」

 レイ・テッドが大きく頷き答えた。

 レイの、その答えに大きな瞳を更に大きくして、エイミールがふわりと微笑んだ。



 *********************************



 ・・・それを、どこか苦々しく見つめる眼差しがあった。


 茂る木々の間から、城内の飾り窓の影から、遠く離れた不可視の場所から。

 ・・・敵意に満ちた眼差しが、エイミールに注がれていた。

 レイが目ざとくその視線に気付き、眼差しを向ければ、さっと掻き消すように気配がなくなる。

 レイは、その気配をたどるように、慎重に視線を辺りにまわした。

 だが、誰もいない。

 けれども、気のせいではない。誰かが確かにこちらを見ていた。

 その禍々しい視線。

 敵意。羨望。嫉妬。ありとあらゆる負の感情。

 レイは、眼を細める。

 (・・・魔王閣下に申告しておくか)

 ・・・これから戦う事となる、見えざる敵と相まみえた、最初の邂逅の時だった。

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