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第十六話:魔法と義妹

・・・ああ、嬢様は褒めてくださるかなぁ!

 レイ・テッドは、うきうきしながら移動していた。

 ビエナへ死者をおくったその足で。それはもう、空中でスキップしちゃうくらい浮かれていた。

 ・・・このレイ、嬢様の笑顔の為ならば、死体運搬だって厭いませんぞ!

 なんせ、いつも鏡で見ている自分の方がもっとすごい(!)んですからな!

 嬢様に笑顔でありがとう!なんて言われたら、このレイ、嬉しさの余り本当に死んでしまうかもしれませんな。あ、死なないですけどね!ゾンビだから!

 浮かれ浮かれて空飛ぶゾンビは、魔界に戻り。

 華麗にエイミールの前に着地して見せた。

 それを真ん丸い綺麗な翠で見つめる少女がひとり。

 ああ、麗しい。と、悶える変態ぞんびがひとり。

 思わず、頬が緩むレイであったが、この次の少女の発言に、文字通り、死ぬかもしれなくなった。・・・ま、死ねないけど・・・。


 「・・・レイは、不死者なのに、精霊魔法が使えますよね?それどころか、いろんな魔法も使えますよね?」

 「?は。そうですな。このレイ、生前は精霊魔法士で、黒魔法使いでしたから、大抵の術は使えますぞ」

 包帯の陰に隠れて見えないが、今は煌く黒の瞳が愛おしげにエイミールを見つめていた。

 そのレイの瞳の意味に気付かない少女は、深く考え始めた。自己を真摯に顧みる。

 少女は。小さな掌を胸の前に差し出して、じっと見つめた。

 「エイミール嬢様?」

 レイが声を掛けるも、エイミールは自分の掌を見たまま動かなかった。

 

 ・・・弱い自分。


 鋭い爪が欲しかった。アマレッティにいさまのような。


 鋭い牙が欲しかった。リアナージャねえさまのような。


 ・・・この身に魔力が宿っていて欲しかった。


 アルファーレンにいさまのように、強大な力でなくていい。


 こんなにも無力な自分が、アルファーレンにいさまの側に何時までも居られるはずはないのだから。


 日ごと、夜ごと、念じても魔相は現れず、成長してもレミレアのような羽は愚か、尻尾さえ出てこない。

 早く走る事も、空を飛ぶ事も、土にもぐる事も、水の中を自在に行き来する事も出来ない。

 およそ、魔として、成立しないこのからだ。

 どこまでもどこまでも、貧相で貧弱な・・・エイミール。

 何時までアルファーレンにいさまの側に居れるのだろう。

 何時までアルファーレンにいさまは側にいてくれるのだろう。

 エイミールは悲しい気持ちでじっと手を見詰めていた


 やがて少女は決意を胸にレイ・テッドを見あげた。

 「レイはどうやって魔法使いになったのですか?」

 「魔法使いに、ですか?・・・あぁ、人界には、魔法使いの学校があるのですよ。そこで学びました。なつかしいですなぁ・・・」

 レイが、昔の自分に思い馳せて呟いた。

 ああ、懐かしいな。

 他人を蹴落とし、至高の高みから見下し、ちゃちなプライド持った奴らを踏みにじって高笑いを上げたっけ。

 裏から手を回して何人再起不能にしたっけなぁ・・・?

 などと、爽やかそうに、黒い過去を思い返していたら。

 

 エイミールが真剣な眼差しで、レイに聞いてきた。

 「・・・レイ。魔法は、私にむいていると思いますか?」

 その質問に、レイは眼をぱちくりとさせた。

 ・・・嬢様が魔法に向いているかって?

 「・・・嬢様は、精霊達にかなり好かれておりますからな。十分、向いていると思いますぞ」

 レイのその答えを聞いて、エイミールはようやくほっとした顔を見せた。

 それにつられる様にレイも微笑む。その微笑が次の瞬間凍りつく・・・。


 「・・・レイ。私、魔法使いになりたい!レイの言う魔法使いの学校に行きたいわ!人界に行きたいの!」


 

 ・・・・・・。

 ・・・あ、いかん。軽く逃避してしまった・・・。

 ・・・嬢様、それってあれですよね。

 ・・・もう一回、わたしに、涅槃を覗いて来いってことですよね・・・?

 レイ・テッドは、魔王閣下の怒りの波動を思い浮かべて、そっと涙を零した。



 ********************************



 勢いのまま、エイミールに拉致られて。(気分です、気分)

 ここは、魔王の執務室。

 なぜか、しっかり握られたエイミール嬢様の掌の感触も、記憶の彼方。(口惜しい・・・)

 レイ・テッドは魔王閣下の真ん前に、エイミールと共に立っていた。(繋いだ手を、槍のような魔王閣下の眼差しが、ぐさぐさと貫いております!)

 高揚したように話し始めるエイミール嬢様は、可愛らしいのですが、なんでしょうか。

 その、魔王軍最高幹部の皆様の視線も、痛いのですな・・・。(刺さってます!刺さってますぞ、同志諸君!)

 「・・・にいさま、お願いです!エイミールは、にいさまのお役に立ちたいの!レイのような魔法使いなら、なれるかもしれないの!」

 「・・・魔法使い・・・?」

 気のせいでしょうか、嬢様。魔王閣下の眼差しが、先ほどから、紅い色を成しているような気がいたします。や、やや。魔王閣下。やばいですよ。嬢様の前で!

 気持ちの焦りが通じたのか、魔王閣下の眼差しが完全な紅になる事は無かったが、レイは、寒気と灼熱を行ったり来たりした。

 凍る。青銀の眼差しで。

 焼ける。紅蓮の眼差しで。

 しかも、今だワタクシめの腕は、嬢様の腕の中!(死ねる!今ならゾンビと言えども死ねそうです!)

 「にいさまのお役にもっと立ちたいの!にいさまの隣にずっと一緒にいたいから!・・・だから、私を、人界へ行かせてください!」

 「・・・じんかい・・・」

 魔王閣下の呟きが、「人界」ではなく、「塵芥」に聞こえたのは気のせいではあるまいな・・・。

その証拠に、周りにいた幹部達にもそのように変換されて聞こえたようだったから。彼らの挙動が一斉に不審になった。(やる気だ!魔王閣下、すごいやる気だ!)

 腐って、爛れた皮膚の汗腺では、出ないはずの汗を。

 ものすごくかいた。

 なお。

 長い長い沈黙の末に、魔王閣下が導き出した答えは。

 「・・・わかった・・・」

 だった。

 やはり、閣下は嬢様に甘い。


 *****************************


 レイ・テッドの前をスキップしながら、エイミールが歩く。

 その体からは、溢れんばかりの喜びと、「学校」に対する希望が透けて見えた。

 それを微笑ましく見つめながら。

 レイ・テッドは人界における、最高の魔法学校を探そうと、心に誓った。

 なお、エイミールが部屋で勉強中に、レイ・テッドは何回死んだら死人と呼べるかというギネスも真っ青な取り組みに、(無理やり)挑まねばならなかった。

 ・・・。

 魔王閣下の温情により、生還を果たしたレイが、エイミールの前に出れるまで、丸一日掛かったという。

 ・・・やはり、ゾンビぶらぼー・・・。(ああ、生きてる!)

 レイはそう思う・・・。

 

悶えるゾンビ・・・。

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