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第十四話:皇子と皇子

 ビエナの失墜はリカンナドとアリアナの両国王に衝撃を与えた。

 まさか、出立して僅か一時間で、ビエナ軍が全滅するなど、誰が想像できようか。

 転生の女神を見つけ出すのは無理でも、魔王軍と対等の戦いを展開してくるだろうと思っていたのだから。

 両国の国王はそれぞれ、馬鹿な。と言ったきり・・・絶句した。

 つい先ほどまで三国会議があった、その場所で。今は二国。

 黙り続ける王に焦れたのは、両国の皇子殿下だった。

 アリアナのフォルトラン・デルサが父王に迫った。青い瞳が切り込んでくる。

 「父上。絶句している場合ではありませんぞ。急ぎビエナ周辺に軍を向かわせねば」

 それに続き、言葉を続けたはリカンナドの皇子殿下。

 魔法士であり、精霊魔法の使い手でもある、黒髪に黒い瞳の御年17歳のディレス・レイ。

 彼もまた黒い瞳に力を宿し、王を見た。

 「周辺地域で台頭する小国を抑えねば、一気に国を興そうとする者の戦闘に我が国も巻き込まれてしまいます」

 「「父上。どうぞ、ご英断を!」」

 次代を担う若者に、進言されて両国王は思い知った。

 古い時代の終焉を。

 三国で国を、力を、栄華を、競い合った、それの終わりを。

 ふたりの国王はお互いをそれぞれに見つめた。

 かつての敵であり、友であり、同じ時代で命を懸け、国を賭けて争った相手を。

 張りがあった肌にしわがより、慧眼鋭い眼差しに、かつては無かった優しさが加わっている。

 ・・・お互いに、年を取った。そう、感じ入った。

 「・・・フォルトラン。アリアナ軍に指令を」

 「・・・ディレス。リカンナド軍に伝令を」

 「「ビエナ周辺を沈静化せよ」」

 その言葉に、若いふたりが高揚していくのが手に取るように分かった。

 過去の自分が国を思い奮い立った時のように。

 ・・・小童だと思っていたかったのかも知れんな。現王ふたりはそう思った。

 「「御意!」」

 青の瞳と黒の瞳が交差する。

 片頬で笑い合い、二人は会議室を後にする。

 その若獅子の、跳ねるような闊達さを微笑ましく、そしてどこか物悲しく見つめ、ふたりの現王は未来に思い馳せる。

 「・・・のぅ、アリアナの。戴冠式は、何時がいいかね?」

 「・・・奇遇だな。わしも今、何時がいいかと考えていたところだ」

 「「・・・お互い、年を取ったな」」

 そう言って、壮年の獅子は微笑をかわした。



 伝令が走る。

 軍の中枢で各国皇子が声を出した。

 「ビエナ周辺国の制定を目指すのだ。闘争の火種を灯させるな。平定させる為の出撃だ。けして挑発してはならない。・・・そして、略奪行為は厳重に禁止する!」

 「平定が目的の進軍だ。ビエナ周辺が管理下に収まるまで、けして挑発も略奪もするな!一級魔法士に監視を徹底させよ!」

 伝令が駆け巡る。

 ・・・ビエナ軍全滅の一報が入ってから、およそ半日後、リカンナド・アリアナ両国軍がビエナ周辺地域に入国を果たした。

 両軍はけして挑発せず、略奪せず、小国の自治を認め、ビエナ国王亡き後の代表者を選出し、国としての秩序を取り戻すまで、ビエナ周辺地域を両国間の監視下に収めた。

 ・・・監視と言っても、ビエナ国に圧政され冷遇されていた周辺小国は、かえってこの変化を喜んだくらいであったが。



 こうして、三国あった、ガズバンドの大地に、今は二国。・・・リカンナドとアリアナ。

 周辺には、二国に肩を並べるほどの大国はなかったが、中堅の国が数多存在する。

 リカンナドとアリアナの国王は、そのバランスに頭を悩ませていた。

 彼らは何度も話し合った。

 国力と軍事力に溺れ、小国を圧政の元で支配し、従わぬ者が悪いのだと言っては侵攻し、略奪していたビエナ国。

 独裁的な軍事国家が無くなってほっとしたのも確かだが、新たな火種を提供しかねない。

 そして。

 人心の心のよりどころである、転生の女神の行方が分からないのも、民衆の不安に拍車をかけていた。

 転生を告げられてから、六年の不在は大きい。

 ガズバンドの大地は、神に見放されたのだと嘆きを深める者が出てきたのだ。

 それは、国を違えても同じことで。

 それを知っているからこそ、現王ふたりは悩んでいた。

 人界において、女神探索の手は尽きた。

 フォルトランの言う通り、後は魔界を捜す以外手立ては無い。

 しかし、魔王軍は強かった。ここまで力の差があるとは思ってもいなかったのだ。

 ビエナが滅亡して喜ぶ国は多々在るが、では、いったい誰がまた、魔界へ赴くのだろう・・・?


 そんな現王の悩みに、快く応じたのはふたりの息子皇子だった。

 「我等が行きます。何、戦いに行くのではなく、まずは、様子見に、ね」

 「こっそり行って、こっそり見てきますよ。本当に女神がいるのかどうかも知らねばならないでしょう?」

 そう言って、若いふたりは笑ったのだ。


 ******************************


 「・・・なぁ、ディレス。私は、魔族様さまだと思うんだ。今は苦しくとも、横暴な独裁者が居なくなったんだ。暮らしやすくなったとビエナの民衆が喜んでいたのを知っているかい?」

 「・・・フォルトラン、また王宮を抜け出しているのですね?」

 フォルトランの呟きに、ディレスが呆れたように肩をすくめた。

 「・・・悪いかな?王宮に居るだけじゃ、いい情報は手に入らない。・・・たとえば。今回のビエナ国軍。全滅とあるが実際、帰還した者が数名いる。いずれも傷だらけで五体満足とは言えないがね」

 そこでフォルトランはディレスの黒い瞳を見た。

 「そのうちの一人が、斥候だったらしい。ダウニーで奇妙な二人連れを見たと言っている」

 「・・・二人連れ・・・?」

 ディレスの優美な眉がひそめられた。

 それを満足そうに見やってから、フォルトランは頷き、先を続けた。

 「一人は少女。顔は分からないが、金髪。ダウニーを駆け下りていく途中で少女の姿が消えたそうだ。そして、もうひとり。顔を包帯で包んだ男がひとり・・・。そいつが、妙な技を使ったと言うんだ」

 「妙な、技?」

 ディレスは訝しげな声を出した。

 「・・・精霊魔法を使ったそうだよ。風と光の混合魔法だと言うんだ」

 「馬鹿な!」

 ディレスが驚愕の声を上げた。それに、フォルトランは満足げに頷くと更に続けた。

 「斥候だった男はかなり腕のいい光魔法士だったそうだよ?・・・まぁ、今じゃ廃人みたいになっているがね・・・まんざら、廃人の狂言とは言い切れないだろう?」

 フォルトランは眼を細め、ディレスの黒い瞳を覗き込む。

 刹那、皇子ふたりは無言で睨みあう。

 「・・・事実か?」

 「信じるも信じないも勝手だよ?ただ、私は混合魔法を使える魔法士くらいなら、不可視の魔法も使えたんじゃないかと見ている」

 だから、私はこの頭のおかしい傷痍軍人の言葉を信じる事にしたんだ。

 「・・・うわごとのように呟いていたよ。大きな光と共に風の渦がやってくる、とね。喪った両腕を振り上げながら、見えない敵に向かって怯えた眼を向けていた」

 圧倒的な力の元にひれ伏すしかなかったんだろう。そう呟くフォルトランをディレスは見ていた。

 「・・・ガズバンドの魔法士の中で、風と光を同時に操る魔法士は、リカンナドに一人しかいない」

 ディレスが呟くように言った。

 その白皙の美貌から感情を伺うことは難しい。黒い瞳が驚愕に揺れていた。

 半信半疑と言ったところか?そう、フォルトランは思った。

 「・・・その一人としては、認めたくは無いのかな?何も君がダウニーに居たなんて言ってないだろう。君と同じ技を持つ者が居たって訳だよ」

 肩をすくめながらフォルトランはディレスに言った。

 やがて、吹っ切れたのかディレスが頭を軽く振った。気を取り直すように、フォルトランに向き合う。

 「・・・傷痍軍人、ね。フォルトラン。何も私だって、王宮に篭ってのほほんとしていたわけじゃあ、無い」

 ディレスが黒の髪を揺らし黒い瞳を細く眇めて、フォルトランを見た。

 「戦いが始まるまさにその時、青銀の髪に青銀の瞳の男が現れたそうですよ。・・・彼は、その胸に金色の髪の子供を抱いていたそうです」

 まるで、神の一対だったそうです。

 そう言って、ディレスはフォルトランを見た。

 

 「・・・どうやら、転生の女神は本当に魔界にいるようですね・・・」

 

 *********************************


 皇子ふたりは議論を戦わせる。

 傷痍軍人の言質に確実性はないが、彼らが見た者は幻ではないのかもしれない。

 そして、父王が頭を悩ませている女神の転生者を見極める為にも。

 ・・・ダウニーに行かねばならない。

 

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