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第十三話:人界と義妹

 ガズバンドの大陸に、存在するは三国。

 

 魔法士を重用し、各国との対話政策で確固たる地位を築いた、魔法大国リカンナド。

 軍部に魔法士を重用し、軍事政権を屹立させた、軍事大国ビエナ。

 そして研究肌の知識人を多数有し、少ない魔法力でも魔法構成を成せるように、研究をしている、大国アリアナ。


 三国が直面していたのは、象徴の不在による権威失墜の危機であった。


 三国を主と仰ぐそれぞれの国の中枢では、六年前の占いに対する是非が取りざたされていた。

 「リカンナドの占い師は、声を揃えて言うておりますぞ。王!占いの通り、女神はすでに転生を果たしておりまする!見出せないのは、神が試練を与えているのでしょう!」

 「ビエナが誇る魔法士も、口を揃えて言いおった!転生は行われたと!だが、見当たらん!」

 「アリアナが誇る教授連も、認めている・・・もう、六年もたっているのに、ね」

 三国が三国なりの調査結果を告げると、場に沈黙が満ちた。

 一人の男が立ち上がると、その会場にいた者、全て彼を見た。

 研究者であり、剣士でもある彼は、大国アリアナの次代を担う、十六歳の若き皇子殿下。

 銀髪、青瞳の精悍な面持ちの・・・フォルトラン・デルサ。

 「私の仮説を披露しても?」

 無言の肯定に軽く頷くと、フォルトランは話しはじめた。

 「・・・六年前に占いの大鏡が割れたのは皆、ご存知のはず。過去の範例にのっとって、直ちに嬰児の捜索がなされたのも事実。そして、各国が口を揃えて言う結果になったのも事実。嬰児は依然不明のまま、歳月のみが経ってしまった・・・。ここで皆の疑心暗鬼が始まった。何処かの国が女神を隠しているのではないか?わが国でないのなら、他国が!と。・・・だが、ここでひとつお忘れですぞ、皆様。

 ・・・ガズバンドの大地に三国あり。しかし必ずとも三国だけとは言いますまい?」

 その問いに、割って入った男がふたり。軍事国ビエナの若き将軍・・・ガルストとイスタファ。

 「周辺小国に至るまで探査の手は伸ばしたぞ」

 「およそガズバンドの地に在って、逃れる事ができる者など・・・」

 「まだです。行われていない地があります」

 ガルストとイスタファを遮り、フォルトランが続けた。

 「ガズバンドの大地に連なりながら、探索の手を逃れし地・・・魔界が」

 「「「「「ダウニーか!」」」」」


 その声に。会議の場は喧騒に包まれる。

 ・・・だが、探索するにはダウニーは危険すぎた。魔族の領土であり、魔族の支配域であるのだ。

 人間の行く手を阻むダウニーの、更に先に魔界が在った。

 どうにかしてダウニーを越え、そして魔界域に入らねばならなかった。

 リカンナドとアリアナは、魔王に対抗する手段として、魔法力を挙げた。魔法士全てで魔界自体に結界を張り巡らし、魔族の動きを牽制した上で探索の魔方陣を構築し展開すべしと主張した。

 ・・・だが軍事国であるビエナが魔界掌握を唱えた。

 魔族は忌むべき存在。そのような輩の下に万が一転生の女神がいるのなら、一刻を争う大事。

 急ぎ女神を助け出す為に・・・王の思惑としては、女神である娘を助け出し、彼女をビエナへ迎えたいというところだったのだろう。アリアナのフォルトランが、一国での侵攻に疑問を唱えたのに対して、王は鼻で笑って言い切った。

 「魔族に対抗する軍備増強はされている。またわが国の精鋭に付いて来れるだけの力が貴国らの兵士に備わっているのか?」

 「ビエナの国軍の力は重々承知しております。ただし、相手が魔族となれば、慎重にことを進めなければ命取りになると言っているのです。一国だけで攻め入るなどと仰らず、ここは三国で協力し合って・・・」

 「フォルトラン皇子殿下!」

 ビエナ国王がフォルトランの言葉を遮り、声を荒げた。

 アリアナのフォルトランとしては、まだ一国の皇子にしか過ぎず、王の話を遮る事は出来ない。それを知っていながら・・・知っているからこそ、片頬で嘲笑ってフォルトランを見やったビエナ国王は続けた。

 「・・・アリアナの魔法技術はすばらしい。私もそこは認めよう。だが、魔族に対しては、魔法構成力など微々たる物でしかない。わが国には幸い、数多の魔法士が所有する使い魔がおります。私も何も人間が前線で魔族に対抗できるなんて思っておりませんぞ。魔族に対抗するは、魔族!魔法士の持つ使い魔を最大限利用して、彼らを翻弄し、彼らが隠しているだろう女神をお助けしようと言っているのだ」

 そう言って光る眼差しで見つめてくるビエナの王に、誰が否と言えるだろうか・・・?

 三国会議の場は静まりかえり、それを満足げに見やったビエナ国王は、高らかに宣言した。

 「では、決定だ。ダウニーへはビエナが誇る国軍と、使い魔を向かわせ、女神奪還を目指す!」

 そして。

 ビエナ国王が自ら指揮を取り、女神を奪還するのだと意気込んでダウニーに向かい。

 たった一日で・・・(戦闘には一時間と掛からなかった)全滅したのだ。

 ダウニーに向かった軍の一部がぼろぼろになって命からがら逃げ帰って来た時。

 ・・・彼らが守るべき王も王子も、魔族の一撃で、冥界へ旅立っていた。

 王位継承者を失った軍事国は、その後、失墜していく。

 ガズバンドの大地に長く君臨した軍事大国ビエナが、滅亡したのだ。


 *******************************


 「なー。兄上。この間の騒ぎで使い魔になってた奴らが結構、魔界に戻って来ててさー。謝罪するから、受け入れて欲しいんだとー」

 アマレッティが気のない声で呟いた。

 一緒のテーブルで、エイミール特製のお茶とお菓子を頂いていたリアナージャがふんと鼻で嘲笑った。

 「使い魔など、力のない奴らがなるものじゃ。謝る前に己が使われてた魔法士殺してから来るのが本当じゃろ!」

 「あ、やっぱし?だよなー。魔法士にんげんごときに捕まるなんて、魔族の恥さらしだ」

 リアナージャの言葉にアマレッティが頷く。

 そんな彼らの言葉に耳を傾けもせず、アルファーレンはエイミールを見ていた。

 ・・・くうっっ今日も可愛いぞ!流石私のエミー!

 ・・・あの滑らかな手触りの服はやはりエミーのためにあるのだな!腰のラインから尻の丸みのえも言われぬラインといい、胸元の危うさといい!・・・思わず後ろから襲ってしまいたくなるではないか!

 (・・・あーあー・・・兄上様、視姦してるよ、ナニその犯罪者の眼差しは!・・・それ以前に妹だよ、分かってる・・・?)

 アマレッティは日々妖しさを増していくアルファーレンの眼差しにちょびっと危機感を抱いた。

 危機感は危機感なのだが、なんだろう、この言い知れない脱力感は・・・?

 (ま、どうせ兄上はエミーに無体はできないから!)

 結構信頼しているのだ。

 変態な兄でも、一途にエイミールを愛しているのは分かっているので、その時、エミーが望むのなら、応援してやろうと思っていた。

 好きあってるなら、ノウ・プロブレーム!エイミールが幸せならば居並ぶ敵を殲滅してでも叶えて見せる!それが、常識であっても!

 ・・・アマレッティはそう思う。

 「・・・もー、兄上ってばー。聞いてるー?んじゃさ、使い魔に成り下がってた奴らには、使われてた魔法士の首もって帰還を認めるって、伝令しちゃうけど、いーよね?」

 「・・・かまわない」

 ものすごく気のない返事にも関わらず、アマレッティは破顔した。

 ・・・信頼しきった兄に、視姦されてるなんて考えもしないエイミールは、今日もワゴンを押して執務室の机の合間を縫っている。

 今日はちょっといつもと違う。

 身に纏うのは、やや膝上のぴっちりとした滑らかな白さの・・・ナース服。

 金の髪はまとめてアップにして、ナース帽がちょこんと乗っかっている。

 それはまるで・・・。

 「・・・天使・・・」

 誰かがうっかりうっとり呟いた。

 だが、アルファーレンの紅蓮の眼差しに貫かれるので、あわてて側近達は顔を伏せた。

 間近で見れない。見ちゃいけない。あくまで、自分の席を横切る際に、横目で(頭動かしてもアウト!)目の端に収めて至福に浸らねばならないのだ!あんなに、胸鷲掴み!な格好なのに!

 拷問?拷問ですか、魔王閣下!泣きますよ!?

 あんなにカワユイエイミール嬢様を!

 すぐ横をにこやかにワゴン押してくださっているのに!

 見ちゃいけないなんてえええええっっ!!!

 「マクギーさん、羽根のお加減はいかがですか?包帯かえましょうか?」

 ・・・これは、あれですか、魔王様。

 ・・・何の拷問ですか・・・。

 泣く泣く、(顔には出さずに)、エイミールの手当てを断って。

 そうですか?と心配そうなエイミールの背中に、男泣きしつつ、鷲な男前は次の戦いに意欲を燃やす。

 次こそは!

 大怪我おって(死なない程度の)、エイミール嬢様に、手ずから包帯巻いてもらうんだい!


 ・・・魔王軍、最高幹部たちの士気は今だ衰えを知らない。

 次にまた人間が攻勢を仕掛けてきても、返り討ちに合うだけだろう・・・。

 

馬鹿。

側近さんたら、ナイチンゲールなエイミールにくらりら。

手当てしてもらいたいのに!してもらったら、速攻、冥界いき。

・・・なお、じゃすとさいずのナース服はリアナージャ様の差し入れです。

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