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第十二話:変質者と義妹

 衝撃は突然だった。

 アルファーレンの気が紅蓮の色に変えて燃え上がった。

 「兄上?」

 「・・・護符の指輪が危機を知らせている。アマレッティ、行くぞ」

 魔王軍最高幹部たちが一斉に立ち上がった。

 ダウニー山脈に人間が侵入したのは何もこれが初めてではない。

 だが、彼らをしてここまで焦らせたのはひとえに、エイミールの不在が合った。

 「エイミール嬢は、まだ山を下りてはいないのですな?」

 鷲の顔をもつ、マクギーが問いかければ、蜥蜴の顔のガーランドがダウニーを見あげた。

 「レイがいる。だが、相手がどれほどか分からないから・・・」

 アマレッティの呟きに、先を急ぐようにマクギーが翼をはためかせた。

 「では、一足お先に参りますが、魔王閣下、よろしいですかな?」

 「行け。エイミールを見つけたら、許す。急ぎ連れ戻せ」

 それに奇妙な沈黙が。

 そ!そそ!それは、嬢様をこの腕に抱きしめても良いとのオユルシですなああああっっ!!!

 嬢様!待っててくださいね!今この私め(馬鹿ばっか)がおたすけにまいりますぞおおおおっっ!!!

 俄然やる気を出した彼らが、その場から飛び去るのに、瞬きひとつの間もなかった。

 ちなみに。

 山にはいる前にあっさり、アルファーレンがエイミールを見つけた(・・・)。

 まあ、護符の指輪が呼び寄せてくれるのだから、当たり前と言っちゃ当たり前なんだが・・・。

 山から駆け下りてくる少女を、あっさり見つけた魔王は、彼女を抱き上げ、微笑んだが、無念の涙を流した幹部達の劣情は・・・暴れる鉾先を探していた。


 「「「「「うおおのれええええっ!人間どもめええっ!!!」」」」」


 男の純情、弄ばれて、だまっていられるかあああっ!(・・・いや、弄んでないから・・・)

 目に物見せてくれるううううっ!!(・・・いえ、あのね・・・)

 エイミール嬢様の柔らかい身体を抱き上げる、千載一遇のちゃんすだったのにいいいいっ!!(おい)

 もしかしたら、小ぶりでカワユイお尻触れるはずだったのにいいいいっ!(こら)

 助けた事で愛が芽生えたかもしれないのにいいいいっ!!(おーい)


 ・・・いや、まあ、その・・・。

 魔王軍率いる、最高幹部たちの、士気は高く。

 並み居る魔族たちを手駒に、更に自分から前線に立ち、戦う姿は勇猛果敢であったという。

 何が幸いするのか分からないものだ。とは、魔王閣下の言葉である。・・・鬼。

 

 ***************************


 レイ・テッドが並み居る人間を相手に魔方陣を構築し展開し終えた頃。

 魔王閣下は速やかにレイの元へやって来た。

 「魔王閣下!嬢様は?」

 「無事だ。さっさと終わらせて城へ帰るぞ!」

 そう言って、発現させた魔力は。

 強大で強力で、容赦なかった。

 敵と見なした者を、殲滅するその圧倒的な力は。恐怖の根源となって人間達の心に蔓延るだろう。

 「さて、覚悟せよレイ。エミーが泣いている・・・」

 言外に貴様のせいで。と言われて固まるゾンビ。

 それを面白くなさそうな顔で見て、帰還を宣言した魔王閣下であった。


 はたして魔王軍の帰還を、涙で出迎えたエイミールであった。

 

 そして魔王閣下に取ってよかったことがひとつ。

 ぐしぐし泣きながらエイミールはアルファーレンの腕の中、こう言った。

 「に、にい、さま。エイミールは、まだ子供でした。ちゃんとお役に立てるまで、みんなに付いていて貰います。今日はレイがいてくれて良かったです。レイがいなかったら・・・エイミールは・・・」

 「それは、どこへ行くにも私と共に行ってくれるという事か?」

 「・・・は、はい。にいさまが、嫌じゃなければ」

 「嫌ではないぞ。そうだな、それでは・・・」

 と、良からぬことを考えた魔王閣下。

 ・・・いつでも一緒。どこまでも一緒。

 ・・・ああ、嬉しいぞ。エミー!

 その心のままに、アルファーレンは胸のうちをエイミールの耳元にそっと囁いた。

 きょとん、とするエイミール。

 「・・・いやか・・・?」

 憂いをこめた眼差しで、見つめられ(でも慣れているので!)あっさり首をたてに振ったエイミールだった。

 「はい!では、今からいかがですか?私ちょっと汗をかいたので、入りたいなあって思ってたんです」

 「「「「「どこに!!!」」」」」

 エイミールとアルファーレンの言動に注目していた幹部連中、特にアマレッティがすかさず突っ込みを入れた。

 「「お風呂です(だ)」」

 「こっ・・・!!!」

 「アマレッティにいさま?」

 エイミールが小首を傾げてアマレッティを見た。なんだか、アマレッティにいさまが震えている。

 しかしその間もアルファーレンの歩みは止まらない。

 エイミールを腕に抱きかかえたまま、「今日は終業」と言い置いて執務室を去っていく。

 その背中に。

 「・・・っのっ!!!変質者ーっっ!!!」

 アマレッティの叫び声が響いた。

 

 「にいさま、アマレッティにいさまが・・・」

 「気にするな。さて、エイミールには私の髪を洗ってもらおうか?」

 「はい!エイミールがんばります!」

 「・・・ふふ。では、お返しにエイミールの髪は私が洗ってあげよう」

 「わあ!本当に昔みたいですね!」

 「そうだな。昔みたいに、一緒にお風呂に入って、一緒に洗いっこをしよう。エイミール」

 「はい!」

 全幅の信頼を寄せてくる、彼女に、邪な愛情は余計なものかもしれないが。

 少しずつ、大人の本気を見せておくのも。


 そう、悪い事ではない。


 *****************************


 カクシテ、いとしのエイミールとのむふふな時間を堪能した魔王閣下はご機嫌だった。

 「兄上!」

 怒り心頭のアマレッティも、うらやましそうに見つめてくる幹部連中の眼差しも、どこ吹く風の彼。

 ほこほこになったエイミールを抱き上げて、髪の毛を乾かしてやっていた。

 「・・・ふ。焼くな。アマレッティ。私はもうずっと、エイミールと風呂も床も一緒だっただろう?最近エイミールがひとりに拘るので寂しいと思っていたのだ」

 そう。幼いエイミールの世話は全部アルファーレンがやっていたのだ。

 魔王閣下は稀に見る愛妻家。

 エイミールのために髪に良いシャンプー、リンス。肌に良い入浴剤、ボディソープなどなど!

 お取り寄せするのが魔王様・・・。

 「だ!だけど!いいか、ねえさま!異性と入れるお風呂は六歳までなんだぞ!!!」

 「今、六歳だ。それに、別に私とエイミールの仲なのだから、何歳でもいいだろう」

 などと、傲岸不遜な魔王様・・・。

 実際、何歳までだって一緒に入るとも!当然だ!

 なんて考えているアルファーレンの胸の中。

 当のエイミールは、必死に眠気と戦って、負けそうになっていた・・・。

 

魔王側近の心の声。

「魔王様。・・・・・・どこまで洗ってもらってるんですかっっ!!!」

もしくは。

「魔王様。・・・・・・どこまでナニであらっているんですか!!!」

魔王様の回答。

「どこまで?エイミールの手の届くところまでかな」

「どこまで?なにで?貴様ら一度死にたいらしいな」

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