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第五話:国を背負って

王宮での穏やかな日々。


王宮内でいそいそと働くメイドさん、勢い良く吹き出す噴水、そして空高くそびえ立つ展望台。


それらを眺めながらぬくぬくと小屋の中で欠伸をする。


そんな穏やかな日々に、突然ヒビが入った。


ヘルン王子のご乱心である。


王子というのは、その名に恥じぬよう幼少期からありとあらゆる教育を受けさせられるのだ。


そんな王子の一日の自由時間はたったの30分。


なんて残酷な話だ…と思うかもしれないが、これは運命なのだ。この街を少し飛び回って気づいた事だが、この街は捨て子で溢れかえっている。


路地裏でゴミ箱を漁る子供、悪党に連れ去られる子供、店の食べ物を万引きしている子供。


そんな子供を見た後では、ヘルン王子を心の底から可哀想だと思うことなど出来ない。


それに王子を探すのに適任なのはもちろん俺である。


そして今、俺はその王子を追っている。

なにせメイドさん直々にお願いされたのだから。見つけたら撫でてもらおう、と邪な考えを浮かべながら王宮付近を飛び回る。


王子はあっさりと見つかった。


手に力を込めながら、王宮近くの路地裏でしゃがみこんでいる。


とりあえずメイドさんに知らせようか、と位置を覚えて王宮に戻ろうとした、その時だった。


しゃがみこんでいる王子の前に三人組の男が囲うように立っている。


人攫いの類だろうか…と心配しつつ高度を下げると何やら話し声が聞こえてくる。


「こいつ、なんか高そうな服着てやがるぞ」


「売ったら高そうだな!」


一人の男がハッとなにかに気づいたかのように怖がるヘルン王子の顔を掴んだ。


「親分、恐らくこいつ…王子っす!」


三人は顔を見合せる。


そしてまもなく、いかにも悪そうな声で笑いだした。


「おいおい王様や、行けねぇなぁこんなところに子供を置いていっちゃあ!」


「はな…して…」


王子のピンチである。首根っこを掴まれてしまい、涙をためながらジタバタと体を動かして抵抗している。


あまり手荒なことは好きでは無い。こういう状況で今までも何度か人を助けたことはあった。例えば精一杯の鳴き声を上げて助けを求めたりだとか、加害者の頭に糞を落としてやったりだとか。


しかし人通りが少ないこの路地裏で、いくら騒いでも助けは来ないだろう。


俺はゆっくりと羽を折り曲げた。



カワセミの水に飛び込む速度は時速100km。


カメラのシャッターですらも捉えられない、そんな速さ。


狙うは王子の首根っこを掴んでいるあの腕。


俺の嘴は”飛び込み”能力に全振りしている形状をしている。


崩れけている屋根のタイルをつついて入手した、先の尖ったレンガの切れ端を咥えながら。



ヒュッ。



風音と共に、男の腕に向かって急降下する。

そして、命中。

男の腕からは申し訳程度の血液が吹き出し、腕にはレンガの切れ端が刺さる。



「ぐっ…何だ!」

男が手を離し、原因を探っているうちにヘルン王子は路地裏を抜け出した。


「鳥…てめぇ、何しやがんだぁ、、、」

男が気付いた頃には俺は大空に避難。

腕を押えながら叫ぶ男を肴に、1杯ビールでも飲みたいなぁ!


悪党どもを見下しながら必死に走るヘルン王子を目で追う。


方角は合っている。無事に帰れそうだ。


———


「ねぇ、スパロー。あの時はありがとね」

家庭教師、メイドさん、その上王様からも説教を受けてくたくたになったヘルン王子は死にそうな顔をしながら窓に止まる俺に話しかけてきた。


「俺には夢があってさ…いつか将軍になりたいんだ。でもお父様も先生も”お前は将軍にはなれない。王子として国を背負う立派な男になるんだ”って言うんだよ」


ヘルン王子は強くなりたいのだ。どんな戦士にも負けない、屈強な戦士。

それでも剣技は教わることはできない。

この国では平民の職不足なども考慮して剣技を教わるのは平民の子供のみと決められているのだ。


「僕は絶対将軍になれないって知らされて…それで…」


俺は気付いたが、柱の後ろでメイドさんが盗み聞きしている。バラしてやろうか?と目線を向けると「シーッ!」と口に指を当ててお願いしてくる。


「でもね…決めたんだよ、僕が頑張ってこの国を変えようって!どんな子供も平等に未来が描けるようにね!」


ずっとジメジメしていた彼の顔は、いつしかいつもの愛らしい笑顔に変わっていた。

いや、いつもの愛らしい顔ではなかった。

彼の淀みなく澄んだ目は月明かりも相まってより一層たくましく見えた。


「よく言った、息子よ!」

ひそかに柱に隠れていた王様は勢いよくヘルン王子に飛びついた。


「聞いてたの!やめてよ、恥ずかしい!」


そんな微笑ましい二人を視界に入れながら、俺は帰るべき場所へと帰る事にした。


一日早いものの、彼にはもう俺は必要ないだろう、そう確信したのだ。




それから王子は人一倍勉学に勤しみ、国を代表する聡明な王様へと成り上がっていくのだが、それはまた別の話である。






















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