特別編: “総帥” ~奴隷からの成り上がり~
現総帥。もといA。
彼がこの世に生を授かったのは何百年も前のこと。
初めは普通の赤ん坊と同じように育て上げられた。
親は自営業で飲食店を経営しており、街の住民から愛される食堂になっていた。
「お前の名前は、アメだ」
初めて見た光景は父親の笑顔。それから俺はセコセコと仕事に精を入れる父親を眺めながら、毎日を過ごしていた。
いつか、あの厨房に立ち、住民を笑顔にする料理を作ってみせる、と意気込みながら。
——それから数年、初めの異変が起こった。
「アメ、お前もう読み書きや言葉が話せるのか?」
たった三歳。その幼さである程度の文字は読めるようになり、聞いているだけで言葉が分かるようになって来た。
「アメはきっと天才なのよ!もっともっと本を買ってあげましょ!」
「一冊だけでもかなり値が張るが、父親として一肌脱ごう!」
それから何冊もの本を読破して、俺は大人と遜色ないほどの言語能力を獲得した。
それはかなりの反響があり、店の常連客と楽しく談笑する姿を記事に載せられたり、貴族が教育法を聞きに来たり。
とにかく波瀾万丈な生活を送った。
——それからまた数年後。
二つ目の異変が起こった。
「アメ、なんで背が伸びないの………?」
自分でも衝撃だった。
周りの子どもはどんどん身長が伸びていき、大人のような体格へと近づいていく。
なのに何で俺は…。
「アメ、お前の取り柄は他にたくさんある。そんなこといちいち気にするな」
父親はそう言ってくれたが、俺の心には刺さらなかった。
俺は本当に人間なの…?と自暴自棄になった時期もあった。
街を歩けば「チビ!赤ん坊が!」と罵られて小石を投げられる。店の中でも偉そうな貴族どもから差し込まれる。
「どれだけ聡明でも、脳が小さいと意味がありませんこと」
と言われた日には、父親が厨房から殴り込みに行ってくれたこともあった。
何故…何で?俺はこんな姿で…。
布団に顔を押し当てる日々。考えても考えても答えは見つからない。
——それからまたまた数年後、異変が起こった。
魔法が使えると言うことが判明したのだ。
父が買ってくれた本からの情報によると、魔法を使うには『血』と『魔法石』が必要なのだ。
それに深海生物から能力を模倣せずとも、体からエネルギーが込み上げてくる感覚がある。それを上手く放出すれば、魔法が発動できるのだ。
俺には『血』も受け継いでおらず『魔法石』も所持していなかった。
俺は見よう見まねで本に書いてあるように”そよ風を吹かす魔法”を念じながら遊び半分で手に力を込めてみた。
すると。
屋根がガタガタ…と揺れ始め、俺が居た部屋もギシギシと悲鳴を上げて、しまいには窓が割れて風が吹き込んできた。
「どうしたのアメ!」
心配で見にきた母親は、床の魔導者と割れた窓を眺めて口をポカンと開けて固まった。
これは…俺は本当に化け物かもしれない。
当時、伸びない背丈を気にしていた俺は、そんなことよりも自分が人間なのか、という点に疑問を抱き始めた。
——そしてその一週間後。
ご飯を食べ終えて、残っている魔導書を読みに自室に戻ろうと、階段を上がる途中。
視界の隅で神妙な面持ちを浮かべる父親の顔が映った。
恐る恐る階段にしゃがみ込んで盗み聞きすることにした。
「……アメは私たちがどうこうできる存在じゃない!」
「母さん、落ち着いて、まだ六歳だ。これからあの子は…」
「もう無理なの!」
「………」
「………」
沈黙に包まれる。階段に座り込んでいる俺は何故だか自然と涙が溢れている。
「あ…」
声も出せない。俺はゴクリと唾を飲む。
汗と涙がこぼれ落ちてやまない。
「そうだな。お前がそんなに追い込まれるなら、あの子は孤児院に任せようか」
ずっと味方だった。
ずっと憧れだった父親にも見捨てられた。
その時、俺の心の中で何かが吹っ切れた気がした。
もうやめようと。
俺は人では無い、人と関わるのはやめにしようと。
小さな足をゆったりと動かして、静かに自室に入って行った。
その日の夜。
二人が寝静まった頃に、俺は家を出た。
窓から家を抜け出して、持ち出した地図だけを手に、今まで関わってくれた家に向かって一礼。
書き置きもしない。俺が居なくなることで内心ホッとしていると考えると別れなんて告げたく無い。
重い足を何とか持ち上げて、俺は大都市へと向かった。
——大都市レフィリアルに着いた。
来るまでに湖の水を飲んだり、ウサギを狩って食べたりと、本から得た知識を元にギリギリの精神でここまで来た。
ここなら、年齢を誤魔化せば何とか恵を与えてくれる人がいるかもしれないと、淡い期待を背負って。
「おや?迷子かい?」
「いえ…少し食べ物を恵んでいただけませんか……」
「捨て子かよ下らねぇ、近づくな!」
道ゆく人誰に声を掛けても、一掃される。
中には暴力を振るってくる人もいた。
「むぐっ……」
突然、口元を塞がれた。息ができない程の力で、通り過ぎる人は見て見ぬふりを貫いている。
俺の視界は段々と閉じて、気付けば意識を失った。
——目が覚めると。
俺は檻の中、手錠もかけられている。
「あー起きたか、お前みたいな子どもは割と人気なんだよ〜」
暗い部屋の中で何人もの子どもが檻に閉じ込められている。
その中の一人が俺である。
「すぐに取引相手が見つかると思うぞ〜良かったな!」
首元を鞘のついた剣で殴られて、思わず咳をこぼし、涙を流してしまった。
「おーおー、そのツラ見せときゃ簡単に客は釣れる」
この人攫いに捕まったことで、俺の生活は地獄のどん底へと突き落とされることになるのだった。
——再び目が覚めると。
俺は、手足を縛られて、芸術作品の彫刻の如く飾られていた。
これは奴隷売店である。
店を歩く人々は、昔食堂にいた厄介貴族と同じような顔つきをしている。
「君、見ない顔だね、悪くない悪くない」
それからじっくりと俺の体を眺めている。
気分が悪くなる。吐き気がする。
「…ホントに、悪くない容姿だな」
髭を生やしたおじさんは顔を近づけてくる。
鼻息が臭い、悲鳴を上げたい。
「こちらの商品をご検討で?」
「…………また来るよ」
ゴクリと唾を飲んだ。また…来るのか…。
——それから一週間が経過した。
「この子を買い取るよ、千ロードで」
「宜しいのですね?では…」
俺を指名した青年の背後から影が落ちてくる。初日も来たおじさんだ。
「待て、五千ロード払う。うちが貰う」
「宜しいのですね?ではこちらの書類にサインをお願いします」
「……くそっ!」
俺もくそっ!と言いたい。千ロードで買い取ろうとしてくれた青年の顔は、優しい顔つきで貴族でも悪い人では無さそうだった。
しかし初日も来た口の臭いジジイは妙に感じが悪い。
俺の精神はとっくに壊れ切っているが、何故かこのおじさんはヤバい、そう脳が警告しているようなのだ。
「これからはワシの家のお手伝いさんとして頑張ってもらう」
そう一言言って、おじさんは俺を馬車に乗せてどこかへ連れて行った。
——馬車に揺られて何日、いや何ヶ月が経ったろう。
定期的に口に放り込まれる菓子と水分、狭い空間で一人、ボーッと魔導書の中身を思い出して、数ヶ月間魔力を練っては寝て、食っては寝る。
そんな腐った生活だ。
ほぼ記憶も無いに等しかった。
「ついたぞ、ここがお前の新しい居場所、最北端の地だ」
俺以外にも何人か奴隷を買っているようで、後ろの馬車には二人、別の奴隷が連れられている。
馬車から出て、何週間ぶりに眺める外。
最後の方は、精神をやられて起き上がることもしなかったのだが、かなり体力を削られてしまった。
「六人連れてきたんだが、三人道半ばで命を落とした、すまんのぉ」
「いえ、レオン伯爵がご無事なら我々も安心です!」
「ほっほっほ、構わん構わん」
この国、最北端の地に来た第一印象は、「澱んでいる」
街の人々は常にコソコソと何か話をしており、心からの笑顔というものが一つも見えない。
俺の前を歩くレオン伯爵に、擦り寄ろうと必死の人々。
中には「うちの息子をどうか貴方様の奴隷に!」なんて言う下衆親もちらほら見かけられた。
この国の住人、全員頭がおかしいのでは無いか?
とんでも無い国に来てしまった…俺は絶望した。
「ほら、君たちの職場だ。毎日みっちり働くこと、そうすれば衣食住は確保してあげるからね」
ニコリと笑うレオン伯爵から、形容しがたい恐怖を感じた。
そして、その恐怖は俺の思い違いではなかった。
——
一日、二十時間の労働、四時間の睡眠。
早朝の遅刻は許されず、広い家の掃除に薪割り、運搬作業、その他雑用全てこなす。
他のメイドたちは精々お茶を出す程度の簡単な業務。
夜になると、レオン伯爵の部屋が騒がしくなるが、恐らくメイドたちが心を殺して、夜の営みをしていることだろう。
毎夜毎夜、ベットの軋む音に気を散らされて、四時間しかない睡眠も上手く取れなかった。
「僕、もうむり……」
一週間後に、仲良くなってきていた奴隷の子どもがリタイアした。
またその一週間後に、もう一人の奴隷の子が過労死で亡くなった。
リタイアした時も、過労死させた時も「役立たずどもが」とボヤいたレオン伯爵の顔が、あの時恐怖を覚えた笑顔の裏側の顔だと分かった。
俺は何故だかそれから一年間、このような生活を耐え抜いた。
——ある早朝。
祝ってくれる人もいない中、密かに七歳を迎えた俺は心の中でおめでとう俺、と一人寂しくお祝いをした。
「お前はよくやっているな、最長記録だ。特別にワシが話相手になってやろう」
一年間。
体感的、精神的な憎しみを俺に植え付けておいて、
よくもそんな減らず口を叩けるな…と思わず睨みつけてしまった。
「何だ、今の顔は。え?もっぺんやってみぃ」
人が変わったように、血相を変えてレオン伯爵は怒った。
腰を蹴られ、腕を折られ、腹を殴られ。
折れた腕はろくに治療もされずに、何ヶ月も放置された。
その日以来、俺はレオン伯爵からぞんざいに扱われるようになった。
折れた腕を引き摺りながら荷車を押している俺を笑いながら通り過ぎたり、布団を取られて外の庭で寝るようになったり。
「衣食住は保証する」という言葉は偽りだと分かった。
気分次第でどうにでも変えられるのだ、と。
それから俺は気合いで半年間、絶望の日々を耐え抜いた。
———
ある日、家の呼び鈴が鳴った。
「レオン伯爵、お久しぶりですな」
「これはこれはヨドローン公爵閣下、本日はどのようなご用件で?」
公爵…?この国で最も偉い人か…。
俺は驚くと言う精神を忘れて、絶望しかけた心を毎日隠れて酒を飲んで凌いでいる。
物置きに大量に備蓄してあるお酒は、俺の心を治してくれる。
基本、レオン伯爵と話すことは無いので、まず気付かれないし、騙し騙し精神力を保てるのが楽で、つい飲んでしまう。
俺の実年齢は八歳程度だが、伯爵は俺のことをまだ三歳程度だと思っているのだろう。
身長がまだまだ小さいままだ。
だからこそこの家に置いているのだろう。
「おお、こんな子どもが仕事を…」
「ええ、うちでかれこれ一年半ほどお世話している自慢の奴隷です」
世話してるだと?いたぶって遊んでいるだけだろーが…。
「チッ!」
気付かれぬように舌打ちをかまして、俺はさっさと二階の掃除を始めた。
「あの子ども、中々魅力がありますね、将来有望だ。いつかうちに迎え入れること、出来ますかな?」
「公爵閣下がそう仰られるならば、どうぞお譲りします!」
伯爵も所詮権力に溺れた負け犬。
公爵の前ではこんなに遜って…無様だな。
話している内容は聞こえないが、伯爵が追い込まれているのは容易に想像できる。
この一年で一番楽しい時間である。
俺はスキップをしながら雑巾を手に廊下をゆらゆらと歩いた。少々お酒を飲み過ぎたようだ。
———
それから丸二年。
この生活に慣れてしまって、ついに”苦”という感情を無くした俺は、公爵閣下に引き取られることになったのだ。
目の下にはこびり付いたクマ、汚れの溜まった爪。
見るも無惨な姿になっていた。
約十歳程度。身長的には五歳くらいか?
俺は少しずつ伸びる身長を誇らしげに思うと同時に、クソ伯爵の手から離れられることに歓喜した。
「では、うちの子をよろしくお願いします」
黙れ、お前の子どもになったつもりはない。
「失礼、レオン伯爵殿、この子の名前は…?」
「名前?奴隷にですか?」
「それもそうですな」
下衆と下衆の会話である。本当に聞いててうんざりする。
「これからは我が息子と共に成長していくんだよ」
そう言って公爵閣下は俺に首輪を付けて、城の中へと引きずるように連れて行った。
———
公爵閣下に雇われる。
これは相当凄いことらしく、名の知れたメイド一家、下女一家でもこの家に使えるのは不可能だと言われている。
そんな時、奴隷上がりの俺が雇われたと知ったら?
面白く感じない貴族は沢山いるだろう。
俺が公爵閣下の城に入ってからは、伯爵の頃よりも自由時間が多く、こっそり書斎に滑り込み、魔導書などの本を漁ることもしばしば。
「俺が次期公爵のヘルニスだ、新人、しっかり働けよ!」
多少ムカつく言葉遣いではあるが、裏表が無さそうなだけで心が落ち着いてしまう俺は、自分が自分であるか心配になる。
「お前は奴隷だから無理だろうが、何年後かには嫁を迎える。お前には縁のない話だな!」
周りの下女たちもクスクスと笑ってこちらを向いてくる。
自由時間が多くなったとはいえ、これはこれで精神に来る。
俺はもちろん言い返せる筈もなく、ただ言われるのみ。
俺は隙間時間に城にあった魔導書を六冊読み潰して、周りからの嫌がらせに耐えながら三年という月日を乗り越えた。
朝、部屋の清掃。
そして、物置の整理整頓。
この時間は俺の魔法特訓の時間となっている。
公爵家には、何に憧れたのか魔導書が何冊も置いてあった。
俺にとっては好都合、全ての魔導書を熱心に読み潰した。
数時間、それが終わるとまた雑用の時間。夜までだ。
そんな三年間。
憎しみを胸に、死ぬ気で様々な魔法を取得していった。
俺は自分で誇れるほど、強くなっていた。
俺が習得した魔法の中で一番強力なのは”風”。
詳しく言えば風圧だ。
風を操り、風圧を自在に変化させることが出来たため、あらゆるものを一瞬にして消し飛ばせるようになった。
他にも様々な風を扱う魔法を取得して、かなり魔力も増えている気がする。
この事を知られれば俺は即実験対象だろう。
絶対に悟られてはいけない。
ただ、加減を間違えると爆音が鳴ってしまい、下女たちに気付かれてしまう可能性がある。
必然的に、城内で魔法を使う練習は出来なくなった。
俺の生活は段々と不自由になってきた。
———
たった一度、たった一度だが、俺は街に出向いたことがある。なんと下女たちも総出で、ヘルニスのお気に入りのネックレスを探してこいとか。
街を歩いてある道中、俺は痛い視線を受け続けた。
あれが奴隷の分際で…。
ほんっと気持ち悪い…。
何様のつもりかしら?
どこに行っても、俺は蔑まれたり、実際に石を投げられたりと何処にいても恐怖を味わっているような気がする。
「おい、奴隷生まれのお前!」
フルーツが沢山乗った木箱を目の前に置かれた。
「あそこの店まで持って行っとけ、目上の人の言うことも聞けないのか?」
この国は平民ですらこんな調子である。
止める者など一人もいない。
全員が嘲笑っている、全員が俺を見下すのを楽しんでいるように見える。
「こら、逃げるな奴隷如きが!」
俺は人通りの少ない路地裏に隠れて、一人しゃがみ込んだ。
こんな国…こんな国…いつか潰してやる。
そう呪いを込めてこの国の全てを否定した。
———
年齢が二桁になっても背丈は低いまま、いつも通り内心を殺して生活していると、ヘルニスがある女の子を連れてきた。
「見ろシニエスタ、これが奴隷だ!見苦しいだろう!?」
髪の毛もボサボサ、おまけに絶望した目。
シニエスタという女の子も俺を見て少し後ずさりした。
「こんな小さい子にそんな扱いするなんて…酷いよヘルニス君。もう知らない」
「ちょっ……」
女の子はそっぽ向いて行ってしまった。
この国にもこんな心持ってるやついたんだ…と少し驚いた。
ざまあみろ!と心の中で笑っていると。
ヘルニスがこちらをものすごい形相で見詰めて来た。
「お前のせいで…お前のせいで………」
やば、俺大丈夫かな…?
周りを見ると後ずさる下女の姿が見える。
「許さない……」
首元を掴まれて、引きずられるように俺は連れて行かれた。
いつもは、はやし立てる下女も今回ばかりは無言だった。
ヘルニスは俺を強引に暗い個室へと連れて行き、地面に俺を叩きつけると、懐から短剣を取り出した。
「お前は許さない、奴隷の分際で!」
まさか…。
恐怖で体が動かない。激痛と共に足から血を流した俺は、あっという間に意識を失った。
その時、俺は片足を切られたのだ。
———
目を覚ますと、俺はベットの上。
周りには何人もの人々が来ていて、公爵閣下の姿もあった。
切り落とされた足は包帯でグルグル巻にされている。
公爵は手を震わせている。震えたいのはこっちだと言うのに。
「お前、うちのヘルニスに剣を向けたそうじゃないか!」
…は?
「お前は簡単には殺さない、覚悟しろ!」
「そうだそうだ、やっちまえ!」
…あぁなるほど、なるほど。
本当にこいつらは…………。
こいつらは本当に腐っている。
体中の血管が千切れる音がする。
同時に、公爵の声も、ヘルニスの憎たらしい声も、周りの大人の声も、全てノイズに聞こえる。
頭が真っ白になる。
はぁ………………もう疲れたよ父さん。
憧れてた、笑顔を作る食堂の店主とは真反対の方向に進んでいるかもしれない。
でも、こいつらを、こいつらだけは…。
足の痛みなど全く感じず、苛立ちが全てを包み込むようだった。
「死んでやり直せ、全員」
片手を上げる。全身から力を手に集めるように体を震わせる。
部屋を強風が襲う。
誑かしにきた下女の親一同、警備隊、全員を巻き込むように力を込める。
風圧は便利である。
魔力をそこまで使うこと無く、魔力の練り加減でどうにでも出来るのだから。
バシュン!
手始めに、目に映る人間全員を塵にした。
ヘルニスと公爵だけは、両腕片足を奪ってそのまま放置。
「簡単に死ねるだけで良かったな下衆共」
二人の泣き叫ぶ声も、俺の耳には一切届かない。
二人以外は血を一滴も落とさせず消し飛ばした。
何も考えない。
ただ、この国を壊す。壊して、俺が新しく作り直す。
駆けつけた下女も全員潰した。
それから城も跡形もなく消し飛ばした。
爆音とともに更地と化した城。
騒ぎを聞きつけて、城の前まで来たレオン伯爵。
「お前は…」
「死ねよ下衆野郎」
肩からザックリ切り飛ばす。
斬撃を飛ばすように風圧をコントロールして、痛みを覚えさせる。
悲鳴を上げているようだが、やはり聞こえない。
あまり思考が回らない。
被害者数は分からない。
こんな腐った国を俺の視界に入れたくない。
本で読んだ、ある魔法を使う。
使えた者は、人類初の魔法使いのみ。
「花嵐」
規模は国全体を巻き込む。
巨大な竜巻が穢れた地を花で囲むように削っていく。
本には昔、独裁主義の国王が作った国を書き換えるためにこの魔法を使ったのだとか。
俺は離れた場所に飛んで、この国が消え去るまでただ、今までの全てを解放するかのごとく、花嵐を眺めた。
吹き荒れる竜巻は、俺の落ちた心を再び持ち上げてくれるような、そんな気がして、俺はそこで六、七年振りに笑顔を作れた。
これから作る平和な国を想像すると、自然と。
~~~~
「どう?少しは仕事、やる気になった?」
居間にて酒を飲み干す。
「確かに同情はしますが、この話を聞くのは六回目です」
「何っ!?」
「しかも国滅ぼすのはやり過ぎです」
「いや、確かにそうかもしれないが…あの国はだって…」
「それに私がランダさんを探しに行くのとは関係が無いでしょう?」
従者は溜息をつきながら書類を持って。
「総帥様、今を楽しく生きてくださいね」
そう言い残して彼女は姿を消した。