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第四十話:雪だるまに見守られ

ズズッ…。卓上にちょこんと座り込み、緑茶を一口。


「何当たり前のように私の場所取ってんのよ」


前振りもなくいきなりデコピンを喰らわせてきたのは、寝起きで機嫌が悪いラッキーである。


外では雪が降っていて、ボーッ…と外を眺めながら冬の訪れを感じるのだった。


「私にも温かいお茶貰える?」

「はいはい、緑茶でいいね?」

「もちろん」


雪。鳥小屋の屋根に降り積もった雪を落とすのには苦労したなぁ…何か対策は無いのかな…?


緑茶を飲んでいると思考回路も体もふにゃふにゃになっていく。


「スパローって雪遊びとかしたことあるの?」

ラッキーは俺と同じようにズズッと飲み、あっつあっつと舌を赤くしている。


学校で勤務していた頃は子どもの雪合戦の流れ弾によく巻き込まれていた。なので雪遊びは嫌いである。


俺は勢いよく首を振る。


「ほえ〜、マレンが起きたら何かしてみよっか」


血相を変えて雪玉を構えるラッキーの姿が浮かび、慌てて止めるが、ラッキーは首を傾げながら気にせず緑茶を嗜んでいる。


「お母さん、手袋ってある?」

「手袋…軍手ならあるわよ」


キッチンから土が付着した二双の軍手を掲げた。


「軍手より手袋が良いのよね〜」

流れるように俺もコクコクと頷く。


「買いに行こっか、街まで」


正直外に出るのは嫌だが、楽しい雪遊びには手袋が必需品だそうだ。重い腰を上げて、俺も肩に乗って向かうことにした。


「あれは雪だるまね、あれはソリ、それであれは鎌倉ね」


この地域は冬になると毎年雪が高頻度で降りしきるようで、雪遊びの形跡はあちらこちらで確認できた。


「スパローは私の管轄の元作られたこのマフラーでも着てなさい、私が買ったマフラーを」


買ってもらった時は恥ずかしそうに渡してきた癖に、今となっては何とも恩着せがましいものだ。でもまあ、悪い気はしない。


ちょうどオレンジ色の部分に重なるようにマフラーは体を覆った。


「手袋売ってない店なんてこの街には無いわよ〜」


八百屋、飲食店、その他諸々。

手袋を売っていない店なんてごまんとあるだろう。


「あっ!スパローだ!いらっしゃい!」

「おや、ラッキーちゃんじゃない?今日は何を?」


いつぞやの八百屋である。俺が羽根をプレゼントした少女もここで働いている。


「手袋一つ」


ラッキーさんや、八百屋っていうのは…って!


「この緑色のが良い?それとも青いの?」

「肩にも付いてるし、緑色ので」


あたかも野菜かのように手袋とカイロが並べられていた。

こんなふざけた商売をして大丈夫なのか?と少し心配になったが、街を見回ったところどの店でも手袋にカイロ、場所によってはマフラーまで売っている。


「ほら言ったでしょ?この街に手袋を売ってない店なんて無いって」


この街の人、どんだけ手袋買うんだ…?

よく経済回ってるな、と呆れながらため息を漏らす。



「この街は手袋の聖地と言われていて、冬になったら沢山の人が手袋を目当てに鉄道に乗って来る人までいるのよ」


ちょっとした蘊蓄(うんちく)を披露してもらった。

だとしても八百屋は手袋を売るべきでは無い、と思うが。



~~



家に帰ってみると、早速庭先でマレンちゃんがはしゃいでいるのが見えた。


「もふもふしてる〜、気持ちい〜」


雪をリズム良くポンポン踏むマレンちゃんは反則級に可愛かったが、俺の気に入っていた花諸共踏み潰していたので急に気分が下がった。


「マレン〜手袋買ってきたから遊ぼっか」

「わぁい!スパローの色だ!」


マレンちゃんはファンサービスもしっかりしている。

ただの緑色をスパロー色なんて言ってもらえるならば、この世界で思い残すことなど無い。

マレンちゃんのファンとしてこれからも見守っていこうと思う。


「じゃあ雪だるまでも作ろ!」

「雪だるま、了解」


雪だるま…?街で見かけたまんまるお化けのようなあれか。

そういえば学校付近でも見かけたような気がする。



最初は二人の作り方を見て学ぶ。


雪を少量手に取って、地面に降り積もった雪を巻き込みながら押し転がす。


段々雪玉が大きくなってきたら、もう一度同じ工程を。


大きい雪玉が二つ出来たら、重ねる。


拾ってきた枝や石を使って目や手を付けると…。


「ラッキー姉、出来たよ!」

「私の方が大きいわね」

「ええ〜」


何とも大人気ない。気遣いの”き”の字も無い。


「スパローも作ってよ」

「そうだよ、スパローのも見たい!」


二人のやり方を見て、やり方は心得た。

しかし…。


丹精込めて出来上がった作品は、小さな小さな雪だるま。


「マレンのよりちっちゃーい!」

「小さすぎでしょ…」


俺の体の大きさを加味して欲しい。どれだけ頑張ってもこれ以上大きい雪だるまは作れない。


真冬だと言うのに雪だるま作りで汗をかくとは思わなかった。体を雪に埋め込んで体を冷やす。


「これ、私の上に置けば…」


俺の力作は気付かぬうちにラッキー作の雪だるまの子どもとして生まれ変わっていた。


「この雪だるまちゃん、最後はどうなっちゃうの?」

マレンちゃんは並んだ雪だるまをポンポン叩いている。


このような質問は返答が難しい。

「溶けて無くなるの〜」とマジレスしても子ども、ましてや純粋なマレンちゃんは悲しむだろう。


「ずっとこのまま!」なんて言ったら溶けて無くなった時にマレンちゃんが泣くことになってしまう。



「マレンが大人になったら居なくなるよ」

「大人!大人!」

「雪だるまは作ってくれた人を見守って、その人の成功を祈る。マレンにもその御加護があるかもね」


興奮するマレンちゃんと、模範的な返答に驚いた俺、どちらも顔は同じく明るい顔を浮かべた。

「ずっと見守っててね!」



一瞬だが、雪だるまの口部分の枝が動いたような気がした。

ただの風だろう。気にすることなく二人は庭を出てお風呂に直行し、俺は川に水浴びをしに行った。



~~



「マレン、来週会合があるから頑張って!」

話は変わるが、セトさんは家族の捜索手伝いを実家にお願いした際に娘を会合に呼び、ダンスを披露するという交換条件を出されて、渋々受け入れたとか。


「私はできるわよ、こう見えてもダンスは得意なの」


疑いの目を向けた俺に噛み付くように反論してきた。

確かに、問題なのはマレンちゃんだろう。


ダンスを始めると開始数秒でタイミングを外し、その数秒後には形を崩し、最終的に転んでしまう。


「親父は子ども好きでなぁ…何十もの兵をこれだけの条件で動かしてくれるお人好しでもあるんだ、どうか頑張ってダンスだけは…」


泣きそうになりながらも、何度も立ち上がってダンスを続ける。窓から雪だるまも見守っている。


「私たちは邪魔だろうから上で本でも読もっか」

「キキッ」


マレンちゃんの気が散らないよう、俺たちはその場を離れたがダンスの練習は毎日何時間も続いた。



~~



「ただいま〜」とラッキーの声が聞こえると同時に俺の目も覚める。今日からあの雪だるまのようにマレンちゃんの練習を見守るために家の中の鳥籠の中で寝ている。


「頑張れ、マレン!」

「うん…」


マレンちゃんは元気が無いのではなく、真剣なのだ。

彼女の透き通った目がそう言っている。


「後、十セット!行くよ!」

ノノさんも日数を重ねていくうちに段々とスパルタになっているような気が…。


視線を感じたのか、睨まれた。

ゾーンに入った主婦は怖い。最近ではセトさんでも手がつけられないようだ。



~~



会合前日の夜。マレンちゃんの最後のダンス。

俺、ラッキー、セトさん、雪だるま。

後ろは固まった、陰ながら見守る応援団。


「せーのっ」


ノノさんの合図と同時に踊り始める。


ダンスは自分だけのもので無く、相手との調和が必要である。しっかりと相手の動きに対応して、体を自然に流してゆく。



「…。」



「良くなったわマレン!」

「やったぁ!」


陰ながら見守る応援団、通称”影団”も心の中でガッツポーズを作った。約一名、声が漏れていたおじさんが居たが。


俺たちは期待に胸を膨らませて、翌朝を迎えた。


~~


「準備は良いな?服装も悪くないな?」


家前には豪華な馬車に使いの者二人。


マレンちゃんもラッキーも未だかつて無い気合いの入ったドレスだ。俺はいつも通りである。何だか寂しい。


フォークタルト家の王宮は昔三日間弱務めたことがある。


俺はセトさんにアイコンタクトで「先に行く」と伝えて一足先に王宮へ向かうことにした。


~~



相変わらずだだっ広い庭だ。

噴水まで設置されており、会合の出席者であろう貴族の方々が集まっている。


城の扉の前に立ちますは、時期国王ヘルン•フォークタルト。


「お久しぶりです、スパローさん」

初めに俺に気付いたのはいつかのメイドさんだった。

後に続くようにヘルン王子もこちらに走ってきた。


「久しぶりです、スパロー。あの時助けてもらった事、改めてお礼させてください」


人が変わったようだ。昔は子どものようだったが、今では立派な大人の雰囲気へと変わっている。


「どう?中々王子っぽくなってきたでしょ?」


…中身はそんなに変わっていなさそうで安心した。


「ヘルン殿下、もう少しすればお兄様とそのご子息もいらっしゃいますからもう少しだけ緊張感を…」

「まだ来てないんだからいいでは無いか」


王子の従者っていうのは誰であろうと苦労しているんだな、としみじみ感じた。



「ヘルン殿下、また立派になられましたな」

この会合は各地の貴族が集まる場。

俺の相手をする程暇では無さそうだ。


二人に気づかれぬよう、気配を消してその場から飛び去った。





———






「本日はフォークタルト家主催の会合にお集まり頂き…」


国王の眠気を誘う挨拶から始まり、上級貴族のご子息たちのお見合い。マレンちゃんは大勢の男どもに囲まれて戸惑いながらも頑張って対応しているが、ラッキーはまるで相手にしていない。


何を聞かれても笑顔で素っ気なく相槌を打つだけ。全く口を開かない。


「久しぶりだな我が息子よ」

「お久しぶりですね」


セトさんの肩が安置だと思い、身を潜めるように乗っかっていたものの国王に絡まれるという一番面倒な出来事に巻き込まれた。


「そちらの鳥も数日間お世話になった、次期国王を救ってくれたのだからな」


うげっ…話しかけて来んなよ!


内心とは裏腹に、誇らしげに構える。

王族同士の腹の探り合いなど聞きたく無い。

俺はさっさと城を抜け出して、屋根上の特等席に座り込ん

だ。


「スパロー!そんなとこいたらマレンのダンスが見れないわよ〜」


ノノさんに呼び付けられて俺は飛び降りる。

この会場の中では唯一平民生まれであるノノさん。


「私も少し居心地が悪いから、遠くから眺めようかしら」


ダンスが始まる。


ラッキーは卓上に並ぶ菓子を食いながら他の貴族のアタックを華麗に躱している。横目でマレンちゃんを見ているようにも見える。


マレンちゃんの相手は同じ背中で同じ年齢の男の子。

どちらもまだウブなのか顔を赤らめている。

うん、微笑ましい。


音楽と共に、一斉に踊り始める。


「ハイ、ハイ、ハイ…」


小声でリズムを取りながらステップを踏む。

中々様になっている。


「あっ…」

タイミングがズレても、男の子が庇ってくれている。

お互い恥ずかしそう。


「まだ、まだ踊れるよね?」

「うんっ」


ぎこちない動き。

緊張も相まって、練習より上手く踊れなかったものの、その真剣さと相性の良さに心を惹かれたのか、周りからは賞賛の声が上がった。


マレンちゃんも、その男の子も満足気だ。


「そこの貴方」


見惚れていると貴族令嬢から喧嘩をふっかけられた。


「鳥を乗せて会場入りとは、無礼ではありませんの?」


俺かよ…と睨み返すと、その貴族令嬢はムキになった。


「こんな穢れた鳥を…これだから平民育ちの者は困ります。さっさとこの場から立ち去ってください」


「穢れてなんか無いもん!」


「スパローはいつも優しくて、いつも見守ってくれて、それで…」


血相を変えたマレンちゃんが庇ってくれた。

遠目からラッキーもセトさんも、会場内の全員の視線がこちらに向いた。


「だから…スパローも母さんもバカにしないで!」


「その通りだ、この鳥は私の息子、次期国王のヘルン王子を窮地から救い出した。グララント嬢、その恩人に対してその態度は些か見過ごせませんな」


「なっ…」


“次期国王”という部分だけ声量を上げていた。

何とも食えない王様だな。



「マレン殿下、私はレレン•トミナントと申します。もし良ければ、またもう一度一緒に踊ってもらえませんか…」


「喜んで!」


マレンちゃんの株も上がり、喧嘩を売ってきた嬢は消沈。

その上相手にも恵まれて、マレンちゃんにとって、俺たちにとっては大成功の会合となった。




~~




「マレン、よく言ったわね偉い!」

「ありがと!」

「お父さんは感動したぞ〜」

「恥ずかしいよ〜!そんなに褒めないで〜!」


馬車中はポカポカムードに包まれていて、俺は少しヘルン王子の話を聞いてから後々家に戻った。



家に戻り、庭先を見ると。



マレンちゃんが作った雪だるまは溶け始めていて、口元も緩くなったようだ。笑っているように見える。



マレンちゃんも一歩、大人に近づいたということだろう。











































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