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特別編:ラッキーの食卓

「ラッキー!この前の本返したー?貸出期間は今日までだよ〜!」


ビクッと体を震わせて、慌てて本棚を漁る。


「これも違う、これも違う、これも違うぅぅ…」


ラッキーの後ろには数多の本が山のように積もる。

目を回らせながら本をかき分けていく様子は、まるでモグラのようで何ともみっともない。


「また司書さんに怒られるよ〜!」


下からトキの忠告が聞こえてくる。貸出期間を破った回数は四回。全て管理不足ゆえの失態であり、四冊ともまだ読み切っていない状態でさよならする羽目になったのだ。


「今回だけは読み切ってから〜〜!」


(れい)

暗い話だが、最終的に主人公が立ち直るハッピーエンド。「おもしろいよ!特にラストシーン!」と言われて読み始めたというのに、ラストシーンを見れずに終わるのは…。終わるのは…。


「これね、私が返してくるから」


気付けばトキは部屋の中に入っていて、私よりも先にその本を見つけ出した。ああ〜、と泣きながらトキの背中を目で追うが「これ以上司書さんに迷惑かけちゃダメ!」と吐き捨てられた。彼女が正しい。


~~


「それにしても、これ凄いね〜」


二人で食卓を囲む。

テーブルにはカレー味の唐揚げにみずみずしいキャベツ。それに搾りたてのレモンジュース。


トキがシャキシャキとキャベツを噛みながら新聞を見せてきた。


—ブルーシティを襲った大津波、死者確認出来ず—


「そーだね〜」


私の曖昧な返事にトキは顔をむすっと膨らませて「当事者でしょ?もっと興味示さないの?」と不満げに言葉を漏らすトキ。


「ギャーギャー騒いでも状況は変わらないの、とりあえずお金を貯めて鉄道の乗車賃を…ね…」


そう、私は何とバイトをしている。毎日毎日司書さんに怒鳴られてばっかりだが、割と頑張っているつもりなのである。


すっかり図書館の利用者と馴染んで、楽しい職場である。だが、このままだと何十年かかるか分かったものではない。それほどここから自宅まで距離があるということなのだ。


「私のところで働けばよかったのにー」

医療の知識も無いのにどうやって働かせようと?


疑問を喉に抑えて、レモンジュースを流し込む。


「この街は本当平和だよね」

「帝国とは思えないでしょ?あんまり貴族同士のいざこざも無く、皇后様も皇帝様も国民第一」

「おとぎ話みたいね」


トキが突然ニヤリと笑った。

この顔をするトキは何か蘊蓄(うんちく)を披露すると決まっている。


「昔々…」


昔、この国は差別が凄かった。


貴族は平民を犬のように扱い、平民は奴隷を下僕のように扱う。皇后も皇帝も腐っていて、各地から奴隷となる子どもを連れてきては虐めを行った。


そんな腐ったこの国をよく思わなかった神は、この国を一晩で消し炭にした。


国民は誰一人残らず、交易に来た行商人は腰を抜かして更地となった国を見つめた…。



「それで、この国から追い出された平民や奴隷が今の平和な国を再建したとさ」


「良い話じゃない、珍しく」

「一言余計!」


大体トキの話す噂話や昔話は、バッドエンドで胃が痛くなるような話が多いが。今回はハッピーエンド…いや、ハッピーでも無い?平和な国ができたのならハッピーかな?



リーン、リーン。


呼び鈴が鳴った。



———




「すいませーん、黒い長髪の女の子知りませんか?」

「黒くて…長髪?」


お客さんかな?と玄関に向かったトキは全てを察したようだ。


「ラッキー!お父さんが来てくれたよ!」


驚きのあまり口に含んだ唐揚げを吐き出してしまった。


お父さんが迎えに来てくれた。こんな嬉しいニュースが飛び込んできたのだ。


「お父さん…って、ええ?」


私の目の前にいたのは見知らぬ人である。お父さんはこんなに兵隊のような服装はしていないし、剣も使わない。


「あれ、違った?」


「セト•フォークタルト殿下のご命令で黒い長髪の女の子を探しているものです。普段はヘルン•フォークタルト殿下の護衛を」


「おお〜!」


お父さんがドアから顔を出して…!という感動的な光景を思い浮かべていたばっかりに少し拍子抜けだったがもちろん嬉しい。これでバイト生活が終わるのだから。


「フォークタルト殿下…?」

トキは首を傾けてしばらく俯いている。

そして突然顔を上げた。


「ラッキーって王族なの!?」

「ええっと、まあ一応そうだけど…一応ね一応…」

「一応って何!?」


何せ普通の家庭で普通の生活をしていたただの学生。

敬われたことなんて一度も無い。

お父さんがあの親のコネを使ってまで捜索してくれるなんて…らしくない。自分で助けに行く!とか言いそうなのに。


「兵士さん。お父さんに伝えて『ここで元気に暮らしてます』って」


「それが、もうすでにこちらに向かっているという情報がありまして…」


「あー、そうなの。じゃあここで待っておけば良いの?」


様子のおかしい同居人がよく見れば王族感…あるわね、とか呟きながら体全体をジロジロ見てくる。

この国には元々王族の生まれの人は居ないから新鮮なのだろう。


「恐らく後数日で…」

「分かったわ、ご報告感謝!」


「王族だー!」と手を叩くトキに乗せられて私もその気になった。


「ご飯冷めるから食べよっか」

「うんっ!」


心が踊る。ようやく家族に会えるのだ、マレンとか元気にしてるかな…。母さんは心配してるだろーなぁ…。


一つ一つ楽しい記憶を思い出しながら、お米をゆっくりと噛む。失った時間を取り戻すかのように。


~~


「ホント良かったね、ラッキー」

「私がいなくなるからって寂しいとか言わないでね」

「そんなこと言ったって寂しいものは寂しいよ」


からかうようにかけた言葉だが、トキは箸を止めてしまった。


トキは笑顔を作ってこう続けた。


「また会いにきてくれるなら、別に寂しく無いよ!

私の記憶の中でラッキーは生きてるからね!」


箸を止めたのは辛くなったから、だとか気持ちの整理がつかなくなったからでは無い。


ピースを作るため。


「だから、私のことなんて気にしないで!」

「うん、また会いにくるよ」


家族で囲む食卓が一番だけど、トキと二人で囲む食卓も格別である。私も釣られてピースをしてしまった。


「わっ」

私の肩に何匹もの猫が乗っかってきた。

「コラ!食事中でしょ!」と怒るトキに私の頬を舐めてくる猫。


私の脳裏に浮かんだのは…。


「前話したことあるかもだけど、私たち家族もペットを飼っててね」

「えーと?どんなペットだっけ」



「胡散臭くて、ずる賢くて、イタズラ好きなんだけど…」


思い出すだけで笑えてくる、スパローとの日々。


「面白くて、可愛い小鳥よ!」







































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